905 どうにも変なんだよな
遠藤さんから、眞子が偽造戸籍の人間だと知らされ、警戒される様に言われた倉津君。
正直これには驚きはしたものの。
眞子が奈緒さんや崇秀の知り合いである事を思い出し『じゃあ、大丈夫じゃね?』っと思う倉津君であった。
***
……康弘から眞子の話を聞いて、少し変な気分になった状態のぐらいに、丁度、その康弘との間で噂の的になっている向井眞子が、台所から小さい子を連れて戻って来た。
けど俺自身、なんかまだ眞子に対して割り切れない気持ちが残っていたのか。
フッと眞子がコチラを向いた時、俺の表情を見たアイツは少し不安そうな顔をしながら、こんな事を言って来た。
「あの、お鍋が出来ましたよ。……あれ?なにかあったんですか?」
「あぁ、いや、なんもねぇよ。大した話じゃねぇ。心配には及ばねぇよ」
咄嗟に思い付いた事だけを口に出した。
まぁ実際、アホ親父達の問題にしても、先程の眞子の件にしても、俺自体は本当に大した問題じゃないと判断しているので、特別嘘を言ってる訳でもないから、此処は問題ないだろう。
けど眞子は、俺の表情から受け取った感触を、どうにもまだ拭いきれなかったらしく。
この後も、酷く歯切れの悪い言葉を口にした。
「そう……なんだ」
「そうそう。これは一般人の子が関わる様な話じゃないからね。例え親戚であっても、首は突っ込まない方が良いよ」
「オイ、康弘。余計な事を言ってんじゃねぇぞ」
「あぁごめん、ごめん」
康弘は露骨にそう言う言葉を発して、矢張り、眞子を深く警戒している。
まぁ大きく見れば、組の問題に成りかねない可能性のある訳だから、先を見据えて物を考える康弘にしたら、これは当然の対処なんだろうがな。
けどよぉ、それはそれで、あまりにも疑い過ぎてないか?
少々度が過ぎてる様にも思うぞ。
それに、今、少し考えてて思い出したんだが『倉津の家とは関わりを持ちたくない』って、眞子は、そうハッキリと俺に明言してた様な気がするんだよな。
だったら、そこまで疑ってやら無くても良いんじゃねぇか?
「あぁ、すみません。なんか、また、無関係なのに、急に、突っ込んだ話をしちゃって。ホントごめんなさい」
けど、確かに、この眞子の態度も変なんだよなぁ。
倉津に関わりたくないなら、何故、必要以上に、こんな話を聞こうとするんだよ?
それも流石に、なにか違うんじゃないか?
本当に関わりたくないと思ってるなら、こんな話スルーしちまえば良いだけの話なのにな。
コイツも言ってる言葉と、行動が一致してねぇんだよな。
これじゃあ、康弘に疑われても、しょうがねぇよな。
「いやいや、親戚筋の事が気になるのは当たり前だよ。でも、この件については、一般人が、首を突っ込まないのは正解だと思うよ」
「オイ、康弘。だから余計な事は言うなつぅの」
本当に判断に困るな。
方や、完全に疑いの眼を持って相手を見ているので、必要以上に警告を発するし。
方や、必要以上に関わりたくないって言ったクセに、倉津家に干渉しようとしている。
現状じゃあ両方が少しづつ変で、どちらの、なにが、本当に、おかしいのかが解り辛いんだよな。
そんな俺は、妙に悩みすぎていたのか。
それとも、無い脳味噌を使い過ぎてたのか、自然に訝しい表情浮かべ始めていたらしく……
「真琴ちゃん、待って待って!!元を正せば、無関係で、なにも出来無いクセに話に入ろうとして私が悪いの。だから此処は、一旦話を切ろ。……それに、ウチにはカセットコンロが無いから、作って来たお鍋が冷めちゃうしね。暖かい間に頂いた方が蟹も美味しいと思うよ」
どうやら眞子は、俺が『やめろ』と言っても止めないしつこい康弘に対して、此処で俺が機嫌を悪くして少し怒ってると感じたのかして、こんな言葉を発して来た。
まぁ別に俺は、なにも怒っちゃいないんだが、この状況下、見様によっちゃあ、そう見えなくもないのかもな……
じゃあ取り敢えず、此処は余計な事を言わずに、眞子のこの提案に従った方が良策だな。
この現状じゃあ、どうやっても眞子に真相を聞ける様な状態じゃないし、それなら、さっき考えてた通り、この件については、少しだけ後回しにするのが正しい選択みたいだしな。
俺は揉め事をしたい訳でもないしな。
「そやで。折角の貢物の蟹が、冷えてもたら美味しなくなんで」
まぁそれに、こうやって、こんな小さな子にまで気を使わせるのも、流石にNGだしな。
倉津家の事に関しても、眞子の件に関しても、この子に気を遣わせる様な話でもない訳だしな。
そう思ってる間にも、さっきの自分の言葉を気にしてか、眞子が気を使って、全員分の鍋をよそってくれているし、それに眞子の横で小学生の子が、ご飯をよそってくれていた。
なんか此処で余計な話をしたバッカリに、この2人にはイラネェ気遣いをさせて悪い事したなぁ。
どっかで、必ずこの借りは返すから、今の所は勘弁してくれな。
……こうして、さっき飯を喰ったばかりの俺を含めて、再び、食事が始まった。
まぁ俺はさっき喰ったばかりなんで、特別食事をしたい訳ではないんだが。
場には雰囲気ってもんもある事だし、此処は大人しく鍋を突かせて貰いますかね。
因みにだが……その鍋を食べてる最中に、チビッ子が、なんか文句を言ってたな。
「ちょっと待ってぇやぁ!!なんでウチの蟹だけ、蟹カマが入ってんのよ!!」
なんのこっちゃ?
俺のは、ちゃんと蟹の身だったぞ。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
【後書き】
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>
お互いの言い分があるだけに、どうしても噛み合わない。
そして、そこから微妙な矛盾が生じてしまう為に、倉津君はどうにも奇妙な感覚に陥ってしまう。
まぁこれが、真実を伝えられなくて生じているものだとは、倉津君は知らない訳ですから、こう言う感覚にも成っちゃいますよね。
……ってな訳で、此処で閑話休題と共に食事会。
だが、この後、再び……
(*'ω'*)b
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