899 凹んだり慌てたり忙しいやっちゃな

 凹んでいたと思ったら、突然慌てだして倉津君に迫る眞子。

当然、美少女である眞子が急接近して来たので、妙に照れてしまう倉津君なんだが……その話の内容が。


***


「なっ、なっ、なっ、なんだよ急に?」

「あっ、あのね、あのね。聞いて、聞いて」

「だから、なんだよ?」

「あのね。真琴ちゃんの妹の真菜ちゃんが、大変なの!!真琴ちゃんが居なくなったから、倉津組の跡目が不在になっちゃって。このままじゃイケナイと思った真琴ちゃんのご両親が、真菜ちゃんと、遠藤さんの結婚話を進めてるの!!早く何とかしなきゃ!!大変な事になっちゃうよ!!」

「なんですとぉ~~~!!」


あぁ……そいつはまた、俺の知らねぇ内に大変な事になってやがるのな。

俺が居ないせいで、大切な真菜が犠牲になるなんて良くねぇ。


これは早急に対応しなきゃな!!


……なんてな。



「……って言いたい所だがな。それなら大丈夫だ。安心しろ」

「なっ、なんで?ヤバイって!!」

「だってよぉ。さっき、此処に来る前に、親父に電話したら、こっぴどく怒られた処だから安心しろ。俺の生存は、既に実家じゃ確認されてる」

「あぁ、そう……なんだ」


なんだなんだ?

安心したのか、さっきのテンションは何所にやら、急に落ち着きやがったな。


……にしても、変だな。

なんでコイツが、妹の真菜の話を知ってるんだ?

仮に知ってたとしても、なんでコイツが、そこまで慌てる必要性がある?


……けどまぁ、あれだな。

これだけ家の事情を詳しく知ってるなら、そう言う風に考えても、おかしくはないか。

まだ違和感は残るが、別に妹を心配して貰って嫌な訳じゃないしな。


それになによりコイツも、俺の兄弟みたいなもんなんだから、それ自体の発想も悪くねぇしな。



「オイオイ、急に慌しくなったり、凹んだり。ホント忙しい女だな」

「あぁ、うん。ごめんね、変な女で」


本当にな。



「ハハッ、いやいや、オマエって面白い女だな。良くも悪くも、実に女の子らしい。オマエみたいなタイプの女、初めて見たわ」

「だろうね。こんな変な女、早々居ないもんね」


そうでもないぞ。


オマエ、全然良い奴じゃんかよ。

最初に聞いてた嫌なイメージなんて吹き飛ぶぐらい、俺は気に入ったぞ兄弟。



「けどよぉ。オマエ、悪くねぇよ」

「なにが?なにが悪くないの?最悪じゃない?」

「どこがだよ?見た目は最高だし。一緒に居て楽しいしよ。だからよぉ、きっとオマエって、多少の破天荒な行動でも、みんなに許されるんじゃね?」

「でもさぁ。そう言うの良くないよ。見た目が多少良くても、中身が腐ってちゃ、人として意味なんてなにもないよ。私なんか、腐りきって爛れてるだけだもん」


ふむ。

此処まで意固地に自己否定をすると言う事は、なにかしろ、心の中に、こびり付いたもんが有るみたいだな。


けど……ウチの妹の事まで心配してくれてる、こんな良い奴が、そんな余計な物を抱えてるのは可哀想だよな。


なら此処は一発、出来ない也にもなんとかしてやるか。



「なぁ、オマエさぁ。そんな事を言うなよ。確かに俺にはよぉ、オマエの記憶はねぇけど。オマエが、そんなに嫌な奴だとは、到底思えないんだよな。だからこそ俺は、奈緒さんに紹介したんだろうし。それに奈緒さん自身も、オマエを気に入ったからこそ、両親に相談して養子に迎えた筈だぞ。それをよぉ、あんま否定すんなよな」

「あぁ、うん。その辺は重々に承知してるんだけどね。私って、結構、卑怯な人間だからさぁ。知らないに内に、人を傷付けてたりするのよね。……それがね。もぉ凄く、自分でも嫌なのよ」


あぁ……そう言う事な。

そう言う性質を持ち合わせてる訳な。


けど、それなら解決法は簡単だ。



「それは、しょうがねぇんじゃねぇの。それってオマエの持って生まれた『個性』みたいなもんなんだろ。だったら、それを全部ひっくるめて、自分だと認識しろよ。俺は、オマエみたいな奴、嫌いじゃないぞ」


こんなんどうでっしゃろ?



「じゃあさぁ。こんな私だけど……真琴ちゃんは、全部許してくれる?」

「許すも、なにも。オマエ、なにも悪い事してねぇじゃん。第一オマエは、オマエだろ。だからオマエは、オマエとして生きりゃ良いんだよ。それに、なんの遠慮が要るんだよ。何かに恵まれてるなら、それを最大限に生かして、生きる様にするべきなんじゃねぇのか」

「はぁ~~~、なんか崇秀みたいな言い回しだね」


うげぇ~~~!!折角『自分』で良い言葉だと思って言ったのによぉ。

そう言う、世界一嫌な生き物を引き合いに出すんじゃねぇよ。


誰が崇秀じゃあぁ~~!!

俺は、あんな奇妙奇天烈な珍妙な生き物じゃねぇわ!!



「うわぁ~~~、究極に嫌な野郎の名前を出して来やがったな。……うん?ってかよぉ。なんでオマエが、あの馬鹿王子の崇秀を知ってるんだ?」

「うん?あぁ、それはね。実は、崇秀の事は、昔からよく知ってるんだよね。崇秀は、昔から、何所や彼処に、無作為に出没してたからね。ちょっと意味は違うかも知れないけど、ある意味、幼馴染って奴なのかなぁ」

「ふ~~ん。それまた、地上最低の生き物と関わったもんだな。……なぁなぁ、オマエ。アイツ直ぐに、自分勝手な無茶苦茶言うだろ」

「まぁねぇ」


ぷぷぷっ……此処にも犠牲者が居たか。

けど、あの馬鹿、こんな良い奴に、一体、何をやらかしたんだ?

まぁ、そうは言っても、十中八九、山中が教えてくれたアリーナか、全米ツアーライブだろうけどな。


この辺の真相も、自分の耳でも確かめて置きたいから、ある意味、良いチャンスが到来したな。



「おっ!!なんだよ、その言い方!!その言い分だと、オマエも、アイツの犠牲者なのか?なにされたんだよ?」

「えっ?あぁ、此処最近じゃあ、真琴ちゃんの代わりに行ってたね。全米45箇所ツアーが酷かったかなぁ。50日も行ってて、休みが5日しかなかったからね」


ヤッパそっちか。


それにしてもよぉ。

50日で5日間の休みって……どんなハードなライブスケジュールだよ。

以前にも聞いてた話だが、マジ、その地獄の様な日程でツアーを敢行してたのな。


アイツ、マジで鬼だな。



「ププッ!!……って、笑ってる場合じゃねぇな。俺の代わりに、そんな酷い目に有ってたのかよ。そりゃあまた、なんか悪い事したな」

「あぁ、全然全然。どっちかと言えば。寧ろ、面白かったから、全然OKだよ」

「そっか。……なぁなぁオマエ」

「あぁっと、真琴ちゃん。私の事は眞子で良いよ。オマエって呼び難そうだし」


そろそろ来ると思った。


でもな。

女の子の名前呼びは、意外と、もぉ抵抗がねぇんだよな。


特にオマエは兄弟だし。



「あぁ、そうか。じゃあ眞子よぉ。オマエ、やっぱ最高だわ」

「えっ?なにが?」

「いや、だってよぉ。あの馬鹿の極悪非道なライブをクリアーして。楽しかったって言えるなんて、大したタマだぞ」

「そぉかなぁ?本当に、楽しかっただけなんだけどね」

「なら、尚更じゃねぇか。だから、俺が眞子を、良い女に認定してやるから、もぉ自分を卑下するのなんかやめろよな。……多分だがな、俺とオマエは似てる。束縛されたら、伸びないタイプだ。だから、もぉツマンネェ事なんか考えずに、自分をもっと好きになってやれよ。過去にあった事なんか全部忘れちまってよ」


ウチの可愛い妹か、可愛い姉かは……誕生日を聞いてねぇ現時点ではドッチか知らねぇけど、オマエみたいなタイプの奴は、そうやって凹んだり、思い悩んだりするタイプじゃねぇと思うぞ。


感覚に任せて生きた方が、多分、生き生きするタイプだ。


だからよぉ。

もっと、自分に自信を持って生きりゃ良いんじゃねぇの?



「そうだね。……うんうん、真琴ちゃんの言う通りかもね。じゃあ、お言葉に甘えて、もぉ全部忘れて、そうするよ。ありがとう真琴ちゃん。格好良いよ」

「うぉ!!オマエ、なんちゅう可愛い笑顔で笑うんだよ。さっきまでの暗い顔とのギャップが有り過ぎて、反則だぞそれ」

「そっ、そう……なんだ。初めて知ったよ」


知っとけ馬鹿者が!!

そう言うギャップは、男の大好物なんだぞ。


この天然娘め!!



「ホント、変な奴だな」

「ふふっ、変な奴でごめんね。……あぁ、そう言えばさぁ。真琴ちゃんお腹空いてない?此処に来た時間、夕方位だったけど、夕食まだでしょ」


おっ……単純な奴だな。

あんな適当に放った一言で、完全復活しやがったよ。


葉緑体かオマエは?


頭が良いらしいから、葉緑体ではないか。



「あぁ、まぁ、そう言われれば、多少は小腹が空いてるな」

「そっか。じゃあ、なんか作ってあげようか?」


そうか、そりゃあ有り難いな。


しかしまぁ、そうやって軽々しく『飯を作ってやる』とは言っても……オマエ、自分の言ってる事が、わかってんのか?



「オマエが?……オイオイ、先に言って置くがなぁ。俺は、結構なグルメな奴なんだぞ。奈緒飯の常連だから、早々に美味いとは言わないぞ」

「そっか。じゃあ、此処は1つ。お試しで、妹の眞子飯の方も堪能あれ」


あれ?なんだ、その嫌な感じの自信は?


その自信には、裏打ちする物がなんかあんのか?



「なんだ?豪い自信だな」

「そりゃあそうだよ。私の料理の腕は、奈緒ネェと、崇秀直伝だからね。ちょっとぐらい覚悟した方が良いよ」


ギャボ!!



「……マジかよ。……つぅか、あの馬鹿!!料理まで作れるのかよ!!」

「そうなんだよね。崇秀は、料理を作らせても完璧。プロが、舌鼓を打つ程の美味しさだからね。ハンパじゃないよ」

「くそぉ~~~、あの欲望の塊め……あの馬鹿だけは、信じられねぇな」


堪んねぇな、あの馬鹿だけは……


なんかアイツに出来無い事とか無いものなのかよ?

弱点が無いなんて、完全に反則チートキャラじゃねぇかよ。


有り得ねぇな……



「ふふっ……だよね」


けどまぁ。

初めて逢ってから、まだ間もないが、腹違いの兄弟である眞子が笑顔で居られるなら、それはそれで有りだよな。


俺は、コイツの事は嫌いじゃないしな。


寧ろ、好感度が高い。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>


眞子視点の時、眞子が倉津君に普通に接していた様に。

倉津君も、眞子に多少の違和感を感じながらも、どうやら良い印象を持っている様子。


まぁこの2人、根が単純な部分があるので、こう言う雰囲気に持って行けたのかもしれませんが、取り敢えずは、良かった、良かったと言った感じでしょうか(笑)


……っでまぁ、この後、例によって食材を買いに行くんですが。

一体、どう言う心境で倉津君は眞子の買い物に付き合ったんでしょうね?


次回は、その辺と、その後の食卓に着いて語って行きたいと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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