879 後悔しても救世主は現れない

 今回の真菜ちゃんの件。

そして、今まで眞子として生きてきた過去の経緯。

それ等の自分勝手な自身の行動を全て思い出し、ドンドンとネガティブな気分に落ちて行く眞子。


***


 ……あれから数分経って、お風呂が沸いた合図である『ピピッピピッ』っと言う小さな電子音が風呂場から聞こえてきた。


でも、まだ、自分自身から湧き出て来る、自分自身に向けてた酷い罪悪感に整理が付かず、そのまま、その場にズッと座り込んで居たんだけど、これじゃあ、なにも真菜の問題が解決しない処か、自分の勝手さや不甲斐なさに押し潰されて自殺でもしてしまいそうな勢いだ。


それに、お風呂で少し頭のリフレッシュして思考の回転率を上げようとしてたのに、これじゃあ、ただの無駄なだけだ。


私は落ち込んだ気持ちを引きずったまま、無理矢理にでも体を起こし。

着ていた制服を乱雑に脱ぎ捨て、下着も脱いで、洗濯籠の中に投げ込んだ。


こうでもしないと、今の私は先に進む事が出来ない。


だが、そう上手くはいかなかった。

そうやって無理やりにでも前に進もうとしても、その意志を遮ろうとするものが、私の眼前にはあるのだから。


今の私を否定し様としても、どうやっても否定しきれないものが……


そぉ……その服を脱ぎ、全身裸になった瞬間、不意に、今の自分の姿が鏡に映ってしまったのだ。


その姿を見た瞬間……初めて、この姿を見た時と同様に寒気が走り、背筋がゾクッとしたと同時に、そのあまりの醜さに吐き気を模様してしまう。


私は……なんで、こんな姿なんだろう?



「うっぷっ!!ははっ……なんなんだろう、これ?どうして胸が、こんなに膨らんでるんだろ?私って……男じゃなかったっけ?うっぷっ!!ははっ……男なのに、なんでこんな物が付いてるの?なんの為にあるんだっけ?男だったら、こんなのイラナイよね。……なんだっけ、これ?」


自分の姿に吐き気を催すと共に、おかしな笑い迄こみあげて来た。

そして、今まで形が良いと思っていた胸が、突然、醜い異物を無理矢理つけられてる様にしか見えなくなってしまっていた。


まるで、不必要にくっ付けられた脂肪の塊が胸にあるとしか認識出来ない。


……気持ちが悪い。



「それに、どうしてなんだろう?……どうして私には、チンコが無いのかなぁ?あれ?おかしいなぁ?どこに行っちゃったのよ?無いよ。どこにも無いよ。……私の……何所に行っちゃったのかな?……ねぇ、戻って来て。……私は此処に居るから……ねぇ、ねぇ、戻って来て、私を真琴に戻してよ……ねぇ、ねぇってば!!」


股間に、自分のペニスが無い事にも強烈な違和感を感じる。


幾ら触ってみても、そこには、私にあるべきものは見当たらず。

尿道を除き、ただ1つだけ、男に有ってはならない『子供を作る為の穴』が有るだけだ。


……気持ちが悪い。



「それになんなんだろうね、この顔?気持ち悪い顔……男なのに、こんな女みたいな顔になって……もぉ!!こんなのおかしいだけじゃない!!それにさっきから、なんで私は女言葉しか喋れないのよ!!男なんだよ。……男なのに……私は……女じゃない……女なんかじゃない筈なのに……」


今頃になって、鏡に映る自分の姿の全てが気持ち悪く感じている。

そして、言い様の無い凹んだ気持ちが襲ってくる。

真菜の件が心に引っ掛って、今ある自分の全てを否定したくなっていた。



「ぐすっ、ぐすっ……うわ~~~~~ん!!こんなの倉津真琴じゃない!!戻りたいよぉ!!戻りたいよぉ!!戻らないと真菜が!!私の大切な妹の真菜が……私は、眞子なんて嫌だぁ!!もぉ眞子でなんて居たくない!!こんな誰にとっても害しか与えない様な悪魔みたいな女、絶対に嫌だぁ!!もぉ嫌だよぉ!!嫌だよぉ!!……崇秀……助けて……助けて、お願いだから……私を助けて……」


解ってる……解ってるんだよ。

泣いても……嘆いても……喚いても……叫んでも……私は、もぉ元には戻れない。

この他人に害悪を見き散らす様な悪魔の体で、私は、一生、真菜や、奈緒さんや、他の人に恨まれながら生きて行くしかない。


それが、全てを捨てて眞子として生きようとした、私に課せられた罰。


そしてそれは、例え、真菜の高校卒業までにクローンの真琴ちゃんが復活したとしても、今度は、本人が気づいて居ようと居まいと、その真琴ちゃんに対して、私は、一生、後ろめたい気持ちで生きていかなければ成らない。


これこそが、他人に成りたいと言う願望を叶えた『眞子の体を選択した』結果。


こうやって自分の幸福が、他人にとっての不幸へと変換される事に気付かなかった。


これはもぉ、私が一生背負うべき、最大の『業』でしかないんだ……



でも、なんで、こんな単純な事にすら私は気付けなかっただろう。


浮かれているにも程がある。


……そう思って、幾ら反省していても、以前の様な体に変化が起こる訳はなかった。


そんなに都合の良い事バッカリは起こる筈もなかった……

所詮は、もぉ以前の様にXXYの染色体を持つ男ではなく。

XXの染色体しか持たない眞子と言う悪魔の様な女でしかないんだから、今度ばっかりは、どうやっても逃げられない。



「えぐっ!!えぐっ!!ごめんね、真菜。お兄ちゃん気持ち悪いね。お兄ちゃんね。もぉ女なんだってさ。真菜の事なんか忘れて、女に成って喜んでたんだってさ。気持ち悪いね。気持ち悪いお兄ちゃんだね。……うわ~~~ん!!ごめんなさい……」


本当に死んでしまいたい……


眞子に成って喜んでいた間抜けな自分共々、殺してしまいたい……


消えて無くなりたい……


真菜だけは……妹だけは……せめて普通の人生を歩ませてあげたかったのに……


***


 ……あれから、一体、どれ位の時間が経ったのだろう?


私は、自分の醜い体や、自分の醜い精神にホトホト嫌気が刺し。

そんな全てが醜い私を写し続ける洗面所の鏡を、素手で割っていた。


この無様な姿を、今は一秒たりとも視界に入れたくなかった。


……でも、そんな事をしても、意味なんてない。


いつまで経っても、割れた鏡の欠片には、自分の無様に膨らんだ胸が、罅の入った状態でも映し出されている。


矢張り、後悔した程度では、なにも起こらなかった。

幾ら泣いても、全てが無駄でしかなかった。

今まで自分の仕出かして来た安易な選択を、後悔するだけしかなかった。


私は真っ裸で、その場にへたり込んだまま、全く動かず、泣き崩れていた。



「ぐすっぐすっ!!ごめんなさい。もぉヤです!!他人に成りたいなんて、2度と思いませんから、どうか戻して下さい。助けて下さい。お願いします。……えぐっ、えぐっ」


『コンコン』



「オッ、オイ、だっ、誰か居るのか?その声は奈緒さんじゃねぇよな」


えっ?


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>


此処数話を読んで頂いている方には、ご理解頂けるとは思うのですが。

たった1人の人間の存在を消えただけでも、これだけ沢山の影響が出てしまうものなんですね。


まぁ、眞子……っと言うか倉津君の場合は。

一般人よりも背負っているものが大きいだけに、その影響は多大な物に成ってしまっています。


それが例え『TSした』って話であっても、その影響は同じ。

その人間の存在を消す事には、何ら変わりはないのですからね。


さてさて、そんな中。

こうやって自ら絶望の淵に叩き落とされた眞子なのですが。

最後の最後で、希望に成るかもしれない声が眞子の耳にも届きました。


果たして、この声の主は一体……


次回は、その感動の再会を描いて行きたいと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

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