877 何かを得るには、何かの犠牲が必要
遠藤さんから齎された話、それは……倉津君の失踪による『跡目問題』
一応眞子も、元自分の事だけに、その辺を考慮していたのですが。
最悪な事に、自身の妹である真菜ちゃんが遠藤さんに嫁ぎ、組を統合すると言う話に成っていた!!
***
「あぁっと、これはちょっと衝撃的な話だったかなぁ。まぁ、向井さんより年下の真菜ちゃんが、こんな話になってるとは思いも拠らなかったと思うからね。そうなっても、当然かな。ちょっと話が突然すぎたね」
「あっ、あの……そっ、それで……遠藤さんは、どうなさる、おつもりなんですか?」
動揺しちゃいけないと解ってても、体の震えが止まらない。
私の自分勝手な振る舞いのせいで、大切な存在である妹の真菜が……
「僕は組長の息子と言う立場上、この申し出を受けるつもりだよ。勿論、真菜ちゃんを幸せにする事を前提にしてね」
「えっ、でも、幸せにすると言ってもヤクザなんですよ。真菜ちゃん、ヤクザのお嫁さんに成っちゃうんですか?それは、絶対に良くないですよ。あの子は……」
「まぁねぇ。彼女の立場としては、余り良くはない状況だね。でも、両家を上手く存続させるには、この手が一番。もし他に方法が有るとすれば、倉津君を探し出すぐらいのもんだからね」
「あっ、あの、それ以前に真菜ちゃんは、まだ未成年ですよね?結婚出来無いですよ」
「あぁ、その件に関してはね。彼女の意思も有って、高校を卒業するまでは、まだ結婚はしない事になってるね。だから彼女が18歳に成ってから結婚するつもりだよ」
ダメだよ、遠藤さん……
それはダメだ……
真菜には普通に恋愛して、普通の家庭に嫁がせてあげたい。
だから、辞めて上げて欲しい。
「あっ、あの、私、真琴ちゃんを一生懸命探しますから。どうか、真菜ちゃんとの結婚だけは辞めてあげて下さい。真菜ちゃんは良い子だから、ヤクザになんか成っちゃダメなんです」
「まぁ、向井さんが、そう言いたくなる気持ちもよく解るけどね。これは両家の組長が決めた事だから、どうやっても僕の意思だけでは覆らないんだよ」
そうかぁ……そうだよね。
私がそう願う以前の問題として、遠藤さんにも組長の息子って立場がある以上、これは私の道理が通ってない。
でも、だからと言って、それで納得してる場合でもない。
私だけが自分勝手に幸せに浸って、大事な妹には、一生、そんな欲しくもない十字架を背負わす結果に成って良い訳がない。
なら、これだけはなんとかしなきゃ!!
「あっ、あの、婚約日は、いつですか?婚約日以前に、真琴ちゃんを見つけ出せれば、その話は無効になるんですか?遠藤さんと、真琴ちゃんは知り合いだから、それで万事が上手く行くんじゃないんですか?その条件で、なんとか説得して貰えませんか?私、出来る限り必至に探しますから」
「うぅ~~ん。まぁ、僕個人としては、2つの組が合わさると、組が大きく成りすぎて管理し難いからね。出来れば、倉津君が見付かってくれる事の方が有り難いんだけど。この約1年間、何所を探しても倉津君は見付からなかった。状況としては、中々絶望的なんだよね」
「あの、だからですね。私が必至に探してみますから。その期間中だけでも、なんとか取り持って貰えませんか?お願いします!!どうか、この通りです!!お願いします!!」
「向井さん……(この態度、矢張りか……)」
私は、その場で土下座をして遠藤さんに懇願した。
まずは此処で自分に出来る限りの誠心誠意を相手に通さなきゃ、話にもならない。
それに、いざとなったら、この姿のままで『倉津真琴だ』って言って交渉の場に出て行きさえすれば、後はDNA鑑定でも、なんでもすれば、私が倉津真琴だって言う事ぐらいなら証明出来る筈。
それで『私が女の身だから跡目が継げない』って言うなら、私が遠藤さんのお嫁さんにでも、なんでも成れば済む話だ。
真菜だけ……真菜だけは、ちゃんと幸せにならなきゃダメなんだよ……
あの子だけは、ヤクザになんかなっちゃダメだ……
「お願いします、遠藤さん!!絶対に、絶対に真琴ちゃんを探し出してみせますから!!だから、真菜ちゃんだけは許してあげて下さい!!お願いします!!お願いします!!この通りです!!」
「ふむ……じゃあ、その回答をする前に、向井さん、1つ聞いて良いかな?」
「あぁ、はい。なんなりとお聞き下さい。なんでもお答えしますんで!!」
「じゃあ、聞くけどね。どうして向井さんは、そこまで真菜ちゃんに拘るんだい?親戚とは言え、少し向井さんの態度は変じゃないかい?」
「えっ?いや、あの……それは……同じ女の子だし……ヤクザの組長さんの娘だとは言え、ヤクザには成りたくないかなって思いまして」
「そうなんだ。けど、真菜ちゃんには、向井さんの記憶なんて一切無かったよ。これは、一体……どういう事なのかな?」
あぁ……もぉそこまで私の事も調べ上げてたんだ。
でも、遠藤さんの言う通り……真菜には、私の記憶なんてある筈が無い。
私自身、元々は存在しない人間。
だから真菜に、そんな記憶があっては成らないのも事実。
どうしよう……
結構、追い詰められた状態……
「あっ、あの……あの……」
「向井さん。君は、一体、何者なのかな?なんの目的があって、以前は倉津の親戚を名乗ってたんだい?……君は何を企んでる?」
あぁ……ダメだ。
西田さんに向けられていた『あの目』が、今度は真正面から私の目を捉えている。
矢張り、堅気の生活を長くしていた為に、私もこの目には少し物怖じしてしまう。
それにもっと重要な問題は、此処まで完全に調べ上げられてたら、必ずしも何らかの私の情報を得ていると考えるのが順当だ。
これじゃあ、なにも言い逃れが出来無い。
だったら、もぉ今の私に出来る事は1つしかない。
「あの……私は……あの……本当は……」
「……って、言っちゃうと。此処で色々と問題が発生するから、この話は、この辺で辞めておこう。本当は、そんな事を聞きたい訳じゃないしね」
「えっ?」
「あのね、向井さんさぁ。どういう経緯で、そう語ってるのかは知らないけど。あんまりヤクザをナメない方が良いよ。君は、恐らく、倉津の縁者じゃない。……取り敢えず、今は、そう言う事にして置くから。これからはお互いの為にも、これ以上不必要な干渉はしないで置こうね」
これは遠藤さんの忠告だ。
しかし、何を知って、こんな話を持ちかけてるんだろう?
一体、なにが目的なんだろうか?
「あっ、あの……」
「うん。もぉ、なにも言わなくて良いよ。君は、向井眞子さん。倉津の姓とは縁も所縁も無い者で一般市民。……取り敢えず、今は、それで良いんじゃないの?」
「あの、そうですけど……」
「ふむ。もう1度忠告するよ。君が縁者じゃないのなら、これ以上、一般人が軽々しくヤクザの世界に首を突っ込んじゃイケナイよ。だからこれから君は、必要以上に倉津の姓を口にする事無く生きて行くと良い。……良いね?」
「……でも。それじゃあ、真菜ちゃんが」
「ふむ。真菜ちゃんの件は全面的に僕が引き受けよう。君の親戚である倉津君には沢山借りがあるからね。この辺でキッチリ返しておかないとね」
遠藤さん。
私が誰だか……気付いてるの?
だから『借り』なんて言葉を……
「あっ、あの、私……」
「まぁ、兎に角、どう転んでも、倉津君を探すのが先決だね。向井さんも心当たりがあるんなら、もう1度、そこを当たって貰っても良いかい?」
「あぁ……はい」
解らないよぉ……
全てを知ってるの?
それとも、ハッタリをかましてるだけで……本当は何も知らないの?
どっちなの?
「じゃあ、此処ら辺で、この話は、完全に終わりにして、食事にしようよ」
「あっ、あぁ……はい」
最後は有耶無耶にされた。
散々忠告をしておいて、一番知りたかった最重要な部分は霧の中。
全く解らないままだ。
それに、遠藤さんって、どういう人だったけ?
遠藤組の組長の息子で、跡目を継ぐ長男だって事以外では、早稲田大学に行ってる事と、ベースが異常に上手い……って、言う事以外はなにも知らない。
この人……何者?
……けど、今は、遠藤さんの正体が解らなくても、この人に頼って、真菜の身柄を助けて貰うしかない。
……この後、私は、なにも解らないまま、出された食事を頂き。
車で上星川の自分と、奈緒ネェの家まで送って貰い。
多くの言葉を交わす事も無く、そのまま遠藤さんとは別れた。
本当に彼は、何者なんだろうか?
広域ヤクザである遠藤組の情報網を考えると、ある程度の事は合点が行くんだけど。
この一件は、少し奇妙な感じがしてならなかった。
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【後書き】
最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>
跡目問題を甘く見過ぎていたのかして、トンデモナイ事態に成ってしまいましたね。
しかもそれが、自分が眞子として生きて行く事を決めてしまったからこそ起こった不幸な事象。
妹である真菜ちゃんを大切に思っていた倉津君にとっては、とてつもない問題を提示された事に成ってしまいました。
……っとは言え。
今まで倉津君に大きな借りがある遠藤さんが、それをなんとかしてくれようとはしてくれているみたいなので、取り敢えずな部分では、ある程度安心しても大丈夫な状態なのではあるのですが……
では何故、遠藤さんは、わざわざ眞子に会ってまで、こんな話をして来たのでしょうか?
まぁまぁ、各々が、そんな色んな思惑がある中で。
次回は、この問題に直面した眞子が、どの様な行動を起こすのかを書いて行きたいと思いますので。
良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾
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