876 突き付けられる最悪の事態

 遠藤さんの用事で彼に会ってみたものの。

そこで、なにやら少し不穏な空気が流れているのを感じながらも、話し合いをする場に移動。


果たして遠藤さんからは、その場で、どの様な話が齎されるのか?


***


 ……そう思いつつも。

やっぱり、この辺にだけは、どこかで割り切れない気持ちがまだ残っているらしく。

結局、話を聞く為に、遠藤さんの行き付けのお寿司屋さんに同行させて貰う事にした。


国見さんのスタジオから10分程移動した場所、寿司・割烹の『享楽』っと言う店に入る。

入店した瞬間、従業員の方が丁寧な挨拶をしてきて、カウンターじゃなく、もぉ恒例になっている個室に案内された。


豪華な店の造りなんだけど、今のところ、そんな事は全く気にも止めず、真琴ちゃんの件だけが心の中でやけに気になっていた。


……私は、物事を先送りにするのが苦手なので、席に着いて直ぐに、自分の持つ疑問にはもう我慢が出来なくなり、遠藤さんが口を開くより先に自らの口を開いた。



「あの、遠藤さん」

「うん?」

「また不躾に成ってしまって申し訳ないのですが。お食事より先に、お話をお聞かせ願えませんか?」

「そうだね。じゃあ、食事は後にするとして。お言葉に甘えて、先に問題を解決させて貰うよ」

「あぁ、はい。是非お願いします」


ハッキリ言えば、ある程度の部分で予想は付いている。

恐らくは、真琴ちゃんが関わってる問題だけに、此処は『不在に成ってる倉津組の跡目』の話だろう。


それについての問題を、倉津組の組長が同じヤクザの組である遠藤組に、なにかしろの相談を持ち掛けて行ったのではないだろうか。


以前、敵対していた事もあったが、元を正せば同系列のヤクザの事務所。

それに遠藤組の組長と、倉津組の組長は、昔からの知り合いで旧知の仲でもある。


だからこそ、相談を持ち掛けたのだろう。


そこで遠藤さんが、真琴ちゃんが、どうなってるのかの事情を知り、親戚の私に探りを入れに来た……と行った所が、順当なラインだろう。


恐らくは、この思考で間違いないと思う。



「あぁ、そんなに身構えないでも構わないよ。話自体は、そこまで大した事のない話だから」

「……っと、言いますと?」

「いや、実はね。向井さんに、お聞きしたい話って言うのは他でもないんだ。『倉津君の居場所を知らないか?』ってだけの話を聞きたいだけなんだよ」

「そうですか。……あの、遠藤さんには色々お世話になってますので、出来るだけご協力したい所なんですが。今の時点では、なに1つ情報を得れていない状況なんですよ」

「だよね。うん、ごめんね。それで結構。話は、それで終わりなんだ」


やっぱり、探りを入れに来たみたいだね。


なら、少しだけ話に突っ込んでみるか。



「あっ、あの、遠藤組さんと、倉津組で、なにかあったんですか?」

「あぁっとねぇ。ちょっとそこは内々の話になるから、まだ公表する訳には行かないんだけど。少しお互いの組同士の中で変化はあったね」

「あっ、あの、良かったらなんですが。なにか、差し障りのない部分だけでも良いんで教えて頂けませんか?」

「うん?どうして、そんな話を聞くんだい?」

「いえ。親戚の私に連絡が来るぐらいですから、事態は、相当、困窮した状態だと思うんですよね。ですから、少し気に成りまして」


今の話だけじゃ、確証に至る部分が全く何も語られてなかった。

これじゃあ、わざわざ此処まで出向いて来た意味が無くなっちゃうと言うもの。


だからせめて、なにか1つぐらい有用な情報を掴まなくちゃね。



「ふ~~~む。まぁ、そんな隠し立てする様な大層な話じゃないんだけどね。どうしても、聞きたいのかな?」

「あぁ、はい。願わくば」

「康弘さん。……宜しいんですかい?このお嬢さんから情報が漏れるとも限りませんぜ」

「あっ……」

「あぁ、大丈夫ですよ、西田さん。向井さんは、倉津さんの親戚です。その辺は弁えられてると思いますんで」

「ですが、康弘さん。これは、ウチの組にも関わる問題なんで、おいそれと話しても良いもんなんですかい?」

「まぁ、不安要素は0じゃないけど。そこまでの大きな問題には発展しないと思うよ。大丈夫でしょう」


この様子からして、話の内容は少し仰々しい話みたいだね。


なんだろう?

『跡目問題』で、倉津組のみならず遠藤組にも関わる事なら、必ずしも話が大きくなる可能性を孕んでる。


でも、まだ、ちょっとその辺が見えて来ない感じだね。



「しかし、康弘さん……」

「西田さん。……少々くどいな。僕が『良い』って言ってんだろ。それをさっきから、なんでオマエが、そこまで干渉する必要性がある?オマエは、いつから僕に命令出来る立場になったんだ?オマエは、遠藤組の組長か?」

「すっ、すいやせん。言葉が過ぎやした」

「解ったんなら、それで結構です。ですが、西田さんには、一旦、この場を退席して貰えますか?アナタが居たんじゃ場の雰囲気が悪くなる。……御理解頂けますね、西田さん」

「あっ、へぇ!!康弘さんの仰せのままに」


うわっ……遠藤さんって、あんな表情するんだ。

まるで、つまらないモノを見る様な目で、部屋から出て行く西田さんって人を見てる。


これは、典型的な『上に立つ者』だけが持つ気質。

それに、なんの反抗も許さない、あの容赦の無い目。

ヤクザの頂点に成るべくして、生まれ付いての性だ……


思ってた以上に……この人も怖い人だ。


……そして、これこそが遠藤さんの演奏に反映する『狂気』でもあるんだ。


私は、少し遠藤さんと言う人物を甘く見ていたのかも知れない。



「あっ、あの、ご迷惑が掛かるなら、無理にとは言いません。ごめんなさい」

「あぁごめん、ごめん。実は、西田さんが言う様な、そんな仰々しい話じゃないんだよ」

「……っと、言いますと?」

「いや、向井さんの親戚のね。真菜ちゃんと、僕が結婚して、組を統合化しようって話なんだよ」

「えっ……」

「まぁ、表沙汰に成ると、組の大きさから言って色々問題にはなるんだけど。親戚の向井さんになら、この程度の話なら聞いて貰っても大丈夫でしょ」


あっ……


そっ、それは……言い換えれば、私に代わって妹の真菜にヤクザに成るって事なんじゃないんですか?


あっ……あの子は……そんな事が出来る子じゃないですよ。


成っちゃイケナイ……


私……なんて重大な事を見落としてたんだろう。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


【後書き】

最後までお付き合い下さり、誠にありがとうございましたぁ<(_ _)>


……最悪の展開ですね。


まぁ、眞子自身は『跡目問題』を気に掛けていなかった訳ではないのですが。

まさか、自分の失踪により、妹がこんな目に遭うとは夢にも思ってもみなかったでしょうしね。


ですが考えてみれば、可能性がなかった訳ではなかった。

倉津君は妹の真菜ちゃんとの2人兄妹であり。

長男である倉津君が失踪してしまった場合、妹の真菜ちゃんを使ってでも組を存続させるのが、この渡世のやり方ですからね。


さてさて、そんなトンデモナイ事実を、遠藤さんの口から突き付けられた眞子。

果たして、この後、どうするつもりなのか?


次回は、その辺を書いて行こうと思いますので。

良かったら、また遊びに来て下さいねぇ~~~(੭ु´・ω・`)੭ु⁾⁾

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る