欠片、七つ目。白い息。―フウガとグレイ―
「今日も冷えるな」
昼過ぎ。買い出しのために外へと出ていたフウガは、白い息を吐き出しながら家まで帰ってきたところだ。
が、家の戸口前に立ったところではたと気づく。
両手に抱えるのは、買い出しの品物。
これでは開けられない。
「仕方ねぇな、一旦置くか」
ふっと短く息をつくと、白い息がほわっと広がった。
フウガが荷物を置こうと身を屈める――が。
「ここの扉を開けりゃいいのか?」
下から声が上がる。
ん、と訝って視線を落とすと、そこには灰色の毛並みの猫が居た。
翠の瞳がフウガを見上げている。
「ここを開けりゃいいんだな」
「おう。頼めるか、グレイ」
「俺様に任せろや」
むふんっと胸を張ったグレイは、戸口前まで歩むと後ろ足で立ち上がった。
そして、猫にあるまじき器用さで扉を開ける。
きいと音を立てて開くと、フウガは荷物を抱えて奥へと消えて行った。
待つこと暫く。フウガが奥から戻って来る。
「ありがとな、グレイ。ほれ、礼のささみ」
差し出されたささみをグレイは遠慮なく口に咥え、あにあにと咀嚼して飲み込んだ。
ぺろりと口を周りを舐め、フウガを見上げる。
「んで、ジルに用があんだけど、いる?」
「今は居ねぇな。なんだ、約束事でもあったのか?」
「いや、居ねぇんならいいんだ。俺が勝手に来ただけだし」
「夕方頃には帰って来ると思うが……」
フウガが顎に手を添えて首をひねった。
その考え込むような素振りに、グレイはぴんと来る。
「ははーん。さてはシオとおデートだな」
「ま、ジルの奴は、お出かけ、と可愛らしいことを言ってたがな」
猫らしからぬ顔でにやつくグレイに、フウガは苦笑する。
「てなわけで、もしかしたら遅くなるかもしんねぇな」
「そっか。なら、それはそれで俺は構わねぇぜ。また日を改めるだけさ」
「……もしかして、“魔族の集い”関連か?」
何事か起きたのだろうかと、フウガの胸中に一抹の不安が募る。
「近頃仲間も増えてきたからな。集う場をもうちょい設けても良いんじゃね? って、そーだんしようと思ってさ」
「ああ、そっちか」
それならば、それは嬉しい変化だ。
フウガも顔の表情を和らげた。
ジルを中心に始めた“魔族の集い”。
人の世界で暮らす魔族は、立場上やはり日陰に追いやられやすい。
そのために、互いに支え合おうという集まりだ。
暮らす術を教えたり、教えられたり――情報交換の場にもなっているらしい。
「始まりは、俺やジルやシオに、クッションだけだったのにな。いつの間にか大きくなってんだぜ? すげぇよな」
グレイの尾が嬉しげに揺れている。
「そーだな。ま、頑張れや」
屈んだフウガがグレイの顎下を撫でれば、機嫌のいいグレイの喉がごろごろと鳴った。
吐き出す息は変わらず白かったが、気持ちは温かだった。
これは、とある時のとある昼過ぎの一欠片。
――――
とりあえず、連続更新はここまで。
これ以降はたぶん、気まぐれで更新していきます。
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