欠片、四つ目。氷。―ティアとシオ―
押し倒され、背に感じた冷たさに一瞬震えるも、すぐに彼から与えられる熱に気にならなくなった。
――というよりも、何も考えられなくなってしまった。
*
「――……べつにね、求められるのが嫌なわけじゃないんだけど」
「なんだ、結局はノロケじゃん」
ティアの対面に座るシオが、からん、と氷を奏でるグラスを口に運ぶ。
と。口に含んだ途端、舌に冷たさが広がった。
シオの肌に鳥肌が立ったのはもはや反射だ。
さらにそこへ、容赦ない冬の海風が水路を通って彼女へ吹き付けた。
「寒っ!」
グラスを置き、シオは己を両腕で掻き抱き擦る。
それをティアは呆れた眼差しで見やった。
「そりゃ、そうよ。誰がこんな寒空に、風に吹かれながらテラス席でお茶するのよ。それもわざわざ、氷入りの飲み物まで頼んじゃって」
卓に頬杖をつくティアが店に頼んだのは、もちろん温かい飲み物だ。
すぐ横を水路が通るテラス席に、彼女達以外の客の姿はない。
シオは口を尖らせた。
「いいのっ。身体を冷やしてジルの膝にごろにゃーんすると、ジルの温度感じやすいから」
「ふぅーん」
ティアが意味ありげな目を向け、口元をにやけさせる。
「なんだ、結局はノロケか」
シオの顔が渋面に染まった。
先程の返しでそのまま返され、少しだけ面白くない。
そして、これまたシオは、反撃が出来る程に慣れていなかった。
増々渋面に染まっていく。
こうなったらヤケだと、シオはグラスを掴むと一気に残りを煽った。
「あっ、ばかっ!」
ティアから言葉が飛んできたが、もう遅かった。
「さ、寒い……」
シオは唇を青くして震わせる。
そして、突として彼女の輪郭がぶれたかと思えば、もうそこに彼女の姿はなかった。
代わりのように在った姿は三毛柄の猫。
カッパー色の瞳を潤ませたシオは、椅子から跳び降りるなり、一目散にティアの膝へと跳び乗った。
ティアの膝上ですがりつくように身を丸める。
仕方ないなあと、ティアはシオの背を撫で始めた。
「ジルに温めてもらうんじゃなかったの?」
呆れ混じりのティアの声に、シオは不貞腐れ混じりの声で返した。
「あたし、寒いの嫌いなのっ。小言はいいから、ティアはさっさとあたしを温めてればいいのよっ!」
てしんってしんっ、シオの尾がティアの膝を叩く。
「はいはい」
苦笑を浮かべながら、ティアはシオの背を撫でることに努めることにした。
これは、とある時のとある昼下がりの一欠片。
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