第2話 Empire of 100 Days

『Empire of 100 Days』はシングルプレイ向けに開発された戦略シミュレーションゲームである。所謂箱庭系のゲームであり、現実世界の1時間を一年として、百日間ひたすら自分の国を繫栄させるというゲームである。時間の加速減速機能付きであるため、絶対に百時間プレイしなければならない訳ではない。


さて、自分の国を造り、発展させるという点では他のゲームと比較して余りにも特色が無いと思われるかもしれないが、このゲームの最大の特徴は、ゲームキャラクターの育成システムにある。


多くのゲームが無数のモブと予め設定と名前が用意されたキャラクターで構成されているのに対して、『Empire of 100 Days』では全てのキャラクターが最弱の農夫スタートである。


無数の名前のないモブには、それぞれランダムで生成された外見と能力値が与えられており、それに従って様々な建設やクエストに従事する中で経験値を獲得し、運が好ければ次の段階にクラスアップすることが出来る。


クラスは歩兵、騎士、魔法使い、弓兵、工兵、神官の六つに加えて、基本的になんにでも従事可能な農夫を加えた七つである。


自分の国を運営するにあたり、上級職や高位のクラスには予め上限数が設けられており、各最高クラスには一人しかなれない。新たに別のキャラクターを最高クラスにクラスアップさせるには、罷免(忠誠心と親密度に悪影響)或いは追放(追放されたキャラクターは死ぬ)を選択することを迫られる。


通常、機械的に差配をする上で上記のような罷免や追放も致し方なしと割り切ることは容易いように思われるが、『Empire of 100 Days』では少し勝手が違ってくる。


というのも、元はと言えば全員がモブである以上、ランダムイベントで発生する疫病や野盗・異教徒などによる襲撃で命を落とすケースが少なくないのだ。他にも、クラスアップの果てに最高クラスとなり、国家の要職に就けていたキャラクターがランダムイベントで暗殺されることもあり得る。


無数のモブの中で、『名付け』られるに相応しいクラスまで生き残るということは、ある意味で言えばモブの中でも精鋭中の精鋭だけが生き残ることになるのだ。


ゲームシステムの都合上、同じ能力値で同じ外見のキャラクターは、モブと言えども一度死んだら二度と現れない。リスポーンも叶わないため、モブにとっては極めてシビアな環境である。


そんなシビアな環境の中だからこそ、選ばれしモブに国の支配者たるプレイヤーが『名付け』を行うことで、彼らは本当の意味でキャラクターになれるのだ。


名前を手に入れたキャラクターは、プレイヤーの趣味でそのこまごまとした設定をいじることが可能だ。国の中での立ち位置だったり、出生の秘密だったり。無論、それらの多くはフレーバーテキストでしかないのだが、それでも設定厨にとっては堪らない仕様である。


無数のモブの中から、選び抜かれた精鋭だけが『名付け』られ、育成すべき真のキャラクターになれる。『名付け』られた名前と設定は、『スクロール』と呼ばれるプレイヤーだけが使えるアイテムに記録され、いつでも見ることが可能になる。この特殊な巻物は、燃えず、朽ちず文字通りキャラクターたちが生きた証になるのだ。


無数にいるモブの中から生まれたキャラクターを育成し、百年国家を担う英雄に育て上げるというコンセプトは、無数の人生の中から抽出されたモブの成り上がり英雄譚を傍で見守る様な高揚感をも与えてくれる。


彼らは戦死することもあれば、暗殺されることもあり、はたまた老衰で亡くなることもある。その意味では、第二のプレイヤーのような存在だ。唯一無二のキャラクターへと成長していく一部始終を見届けられるという点は、他のゲームにはない魅力だと言えるだろう。


さて、『名付け』の重みも伝わったところで、ゲームの進め方を説明しよう。


本ゲームは基本的に何もない状態から始まる。森の中であったり、砂漠であったり、場所は様々だが、まず初めにやることは一緒だ。


手始めに拠点となる掘っ立て小屋を建てるのだ。


この掘っ立て小屋が最初の城となる。次いで、拠点が確保出来たら森があれば森の開拓、砂漠ならオアシスを探検することが求められる。


森の場合、次にすることは釣り場や狩猟採集小屋を設置することだ。食べなければ生きていけないし、当然人口も増やすことができない。プレイヤーを含めて、最初の人口は二人だけだ。最初期の段階と言うこともあって、プレイヤーともう一人は農夫よりも強い従者のクラスからのスタートだが、この状態で一人でも欠けてしまえば、そこでゲームオーバーとなる。


さて、最低限の設備が整ったら、次に燻製小屋や畑、備蓄倉庫を建設していく。


基本的に保存食の製造が可能になった段階で、流民が発生する。月に一度のペースで数人から数十人の流民がプレイヤーの国に参加するのだ。無論、食料の消費が増えたりと労働力が倍増すれば苦労も倍増するが、国をより大きく、より強くするためには受け入れない手はない。


流民の中には特別な技能を持つ者が居たり、初めから高位クラスの者もいる。確率は低いが、加入後すぐに不思議な巻物『スクロール』が持ち物の中に自動追加され、その場で『名付け』が可能になる場合も稀にだが存在する。


人口が増え、国が拡大すると、文明度と影響力が上がっていく。文明度は疫病などの負のイベントを抑制し、逆に高位クラスの流民加入の可能性など正の効果をもつイベントの発生確率を上げる。影響力はプレイヤー固有のものであり、キャラクターたちの忠誠心や親密度に好影響を与え、また流民の数を増やしたりする。


耕作地を広げて、国土を開拓する過程でより良い設備を建築したり、より強力な防衛力を配備していくことで国力を増強していく。キャラクター育成との両輪として、基本的にはこの繰り返しである。


単調と言うレビューも少なくないが、一方で一人で黙々とする分には悪くないボリュームである。


最後に、プレイヤーキャラクターについて説明しよう。プレイヤーキャラクターは基本的に寿命が百年ある。ケガや病気を患わなければ、順当に百年…つまり、ゲームシナリオクリアと同時に国家を繁栄させた英雄として昇天するという演出が入る。百年目の国力や影響力、それまでの業績を総合したムービーが流れ、所謂サーガとして昇華されるのだ。


逆に、病気やケガにより百年に届かずにプレイヤーキャラクターが死んでしまうこともあり得る。長寿の秘薬など、希少なアイテムにより延命することは可能なのだが、それもないという場合、即ゲームオーバーとはならないものの、後継者を指名して統治を任せる必要がある。後継者に選ぶ者には血縁などは特に関係ないのだが、必ずと言っていいほど多くのデバフが付与される。それも恒久的に反映されるものも多く。特に、忠誠心と親密度は半分以下にまで下がってしまう。実質マイナスの状態からの国家運営を迫られる為、後継者指名による統治はお勧めできない。


尚、プレイヤーや敵対勢力を含めて登場するキャラクターは全て人間である。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る