名古屋

『春はあけぼの――』


この一文から始まる枕草子は、古典日本三大随筆の一つ。作者と言われる清少納言と南山之寿。何の共通点もない。強いて言うならば、生きている時代は違えど同じ人間。その程度。


比内地鶏、名古屋コーチン、薩摩地鶏は日本三大地鶏。どれを食しても美味。地鶏と普通の鶏を見分ける舌を持ち合わせてはいない南山之寿。三歩歩けば記憶が無くなる鶏頭の南山之寿。都合の悪いことを忘れることに関しては自信満々。


今日の対戦場所は名古屋。名古屋コーチンからの無理矢理の急カーブ。少々荒い運転だが、途中下車はしないで欲しい。


名古屋メシが食べたい。南山之寿が計画を立てたあの夏の日は、コロナ禍になる前のお話。入念なチェック。どの店が旨いのか、何を食べるのか。とりあえずは、一泊二日のスケジュール。胃袋の許容量、処理能力を計算しながら組み立てる旅路のパズル。旅そのものも楽しいが、その行程を考えるのも楽しい時間。


――いざ名古屋へ。


早朝より移動を開始する南山之寿。体調も天気も完璧。闘うにはちょうど良いコンディション。名古屋に降り立つ南山之寿。まずは、モーニング。珈琲に付随されてくるアレコレに、コメダ珈琲を思い出してしまうが、気を取り直して淡々と堪能。


名古屋観光を挟み込みながら、暇つぶしの昼食にひつまぶし。くだらぬことを考えながら食らう。鰻よりもタレが好きな子供舌の南山之寿。そんな南山之寿に鰻なんて食わすのは、豚に真珠。


さらに観光を継続。小腹が減ったときのアイテムは天むす。おにぎりが似合う坊主頭の南山之寿。タンクトップを着ていればさらに似合うはず。


夕食は味噌煮込みうどん。何で夏の日に、煮込まれねばならぬのだろうかと自問自答。それでも、食べなければならないのが旅のルール。暑さに耐えてよく頑張ったと、自身を褒め称える南山之寿。


ホテルに帰る前に居酒屋を経由。ここで、粗方の名古屋メシを消化。いささか胃袋は悲鳴を上げ消化拒否。読者諸兄も胃もたれしている頃合いだろう。それでも食べ続ける南山之寿。ビールに手羽先。名古屋コーチンの焼き鳥。気分良く一日目は終わり、誘われる夢の世界。


翌朝はホテルで朝食。名古屋駅を眼下に見ながらの食事。これは名古屋メシではないなと思うが、宿泊料金に含まれる以上、楽しむことにする南山之寿。


翌日も名古屋観光。名古屋城も外さない。金シャチ横丁なるスポットもあり、食も観光も楽しめる一石二鳥感が気に入った南山之寿。


『織田がつき 羽柴がこねし天下餅 座りしままに食うは徳川』

 

徳川縁の地で、金箔ソフトクリームを座して食らう南山之寿。身体を定期的に冷やすのは、熱中症対策。今も昔も変わらない、南山之寿のルーティン。昼食には、味噌カツ。とんかつに何をかけるかという議論になると、塩か醤油と答える南山之寿。ソースは極めて稀。


終わりが近づく名古屋旅。帰路につく為駅に戻り、締め括りに、台湾らーめんを食す南山之寿。ビールに台湾らーめんの辛味が、旅の疲れを癒やす至福の一時。また仕事が始まるのかと、憂鬱になりながらも最後まで堪能。


お土産には赤福。名古屋メシか微妙ではあるが、食べたいのだから仕方ない。車窓の外に広がる夜景を見ながら今回の旅に満足していた南山之寿。


『夏は夜――』 


暗闇の中に見える街灯が、『また来いよ』と語りかけてくれる気がした南山之寿。スマホの写真を眺め、楽しい思い出に浸りながら帰路につくはずであった。南山之寿の鶏頭は、極稀に記憶を蘇らせることがある。


『きしめん……食べ忘れた!』


 


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