南山之寿の日々是決戦〜カクヨムコンver〜 クスっと笑える時間を貴方に

理容室

この地球で繰り広げられる弱肉強食の物語。強い生物が弱い生物を食らい、生命を繋ぐ物語。飢えた肉食動物達が送る、目の前の草食動物達への熱い視線。一匹の草食動物に群がる複数の肉食動物。食事にありつけるのは強者のみ。弱肉強食の世界ではあるが、必ずしも強者が勝つと限らないから不思議な世界。窮鼠猫を噛む。だからこそ、保たれているのかもしれない生命の均衡。

男子生徒しかいない体育会系部活動に突如として現れる女子マネージャー。女性社員だけの職場に配属された新人男性社員。今までの平穏は崩され、熾烈な恋の闘いが繰り広げられるかもしれないシチュエーション。ドラマか小説でしか見ないような光景。必ずしもエースで四番な選手や、才色兼備な女性社員が心を射止めるとも限らない話。

駅のホームで和気あいあいと話す中高年グループ。乗り込む瞬間に崩れる平穏。電車内の空いている席に向かって走り込み、仲間同士で奪い合う座席。闘いの後はノーサイド。また、何事も無かったかの様に和気あいあいと会話を再開。駅で見かける光景。

本日の控室は、理容室。この流れではあるが、お付き合い願おう。

理容室にも美容院にも行かないのが南山之寿。基本的に坊主には無縁の場所。自前のバリカンで刈り揃えるのがルーティンである、バリカニスト南山之寿。略すと、『バカ南山』。自分で言って悲しくなる始末。

バリカンが壊れたら家電量販店かネットで、可及的速やかに購入。放って置くと見苦しくなる頭髪。坊主が伸びだすと、タワシかマリモ。よろしくない見栄え。南山之寿も、持ち合わせている身嗜みの美学。

壊れたバリカンの代わりを探しに、訪れた家電量販店。その隣がたまたまカット専門店。10分で終わると言うのだから面白い。坊主なんて、ものの数分。バリカンを購入した帰りに、冷やかし半分で入店。突き刺さる理容師達の熱い視線。

『坊主が来るところじゃ無いんだよ！』

そんな視線かと思っていたが、思い過ごし。南山之寿をチラチラ見る理容師。互いに牽制し合う理容師。さながら肉食動物が草食動物を狙う目つき。ふと気が付く南山之寿。

『雑魚モンスター南山之寿』

坊主なんてイージーゲーム。百戦練磨の理容師達からすればスライムレベル。ある意味、勤務中の休憩時間。そう気が付くと、分かりやすく見えだす全体の動き。急にカットスピードを上げる者。無駄な動作を交え遅延を計る者。あの手この手で、南山之寿の頭を狙う。嬉しくもあり……否、嬉しいわけなんぞない。

待つこと10分弱。南山之寿を呼び出す、店の奥にいた理容師。奥にいたせいか、南山之寿をあまり見ていなかったのであろう。南山之寿の頭を見てこぼれる微笑み。他の理容師はどこか悲しい目をしていたように見えた。

刈る者がいれば、刈られる者もいる。