第10話

「おはよう奥さん。はじめまして、ですよね?」

朝八時。御飯を食べていたら予想もしていなかった人が病室を訪ねて来たから驚いた。

直接会うのは今日がはじめてだった。お腹まわりがゆったりとしたワンピースを着ていた。

「面会時間は午前九時からです」

「そう固いこと言わないの。すぐに帰ります」

その人は康介の押し活仲間のハンドネーム・ルーナさん。去年の夏、康介と一回だけラブホテルに一緒に行った女性だ。路上ライブで遠征した時、電車が止まって足止めされて、泊まるホテルを探したんだけどこも満室で、それでやむを得ずラブホテルに行ったけどやましいことは何もしていない。tiktokとユーチューブにあげる動画を編集していたと康介は釈明していた。

彼のお姉さんやお義母さんが一回や二回女とホテルに行ったくらいでぎゃぁーぎゃぁー騒がないの。見苦しい。康介をちゃんと構ってあげないからでしょう?康介に女として見てもらうようにもっと努力したら?魅力がないから飽きられるんじゃない?散々嫌味を言われた。

「ねぇ奥さん、康介浮気してるよ」

私が動揺しないのを見て、

「なんだ知ってるんだ」

ルーナさんが残念がっていた。

「私ね康介に捨てられたのよ」

スマホを片手で弄りながらポツリと呟いた。

「もしかして康介と本当に付き合ってたの?」

「出会って二年。そういう関係になったのは一年前からかな?もう忘れたけど」

ルーナさんが他人事のように笑った。

「去年の8月、花笠祭りのときの路上ライブのあとラブホに行ったときは本当に何もしなかった。連勤の疲れと長距離移動の疲れで康介、横になるなり爆睡だったから。でもね、そのあと康介の姉と母親が訪ねてきて、子どもが出来れば出来の悪い、くそ生意気な嫁を追い出さすことが出来るから、今度こそちゃんとした康介の子どもを産んでくれって頼まれたの。堂々と不倫してても奥さんにバレなかったのは康介の母親と姉が全面協力してくれたから」





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