第8話

ー 一方的に電話を切ったのは俺じゃなくてまゆのほうですー

「何回も掛けてくるな。こっちは仕事が忙しくて手が離せないんだから。急ぎじゃないなら切るぞとイライラしながら言われたと、まゆはそう言ってるが」

ーは?言ってませんよ。そんなこと一言も。まゆの記憶違いじゃないですか?まゆは最近物忘れが激しいんですよ。それに嘘つきだし、いい加減だし。被害妄想っていうんですか?俺の両親がまゆに気を遣って優しくしてやっているのに意地悪するとかいじめるとかありもしないことをでっち上げてあちこちで言いふらしているんですよ。正直俺も俺の両親も困っているんですよね。お兄さんからもまゆに言ってくださいよ。少しは姉貴を見習えってー

私が疲れて寝てると一志兄さんの言葉を信じた康介。

ここぞとばかりに私の悪口を言い始めた。

康介のお姉さんの真美さんの夫、大輝だいきさんは婿養子に入ったものの義父と折り合いが悪く、喧嘩ばかりでつい先日家を出ていった。康介の家は代々続く米と梨農家だ。真美さんは子どもが三人いてまだ小さいからと農家の手伝いはほとんどしていない。

一志兄さんは黙って聞いていた。

「康介くん、きみから電話が掛かってきたとき、実はスズヤパン店の社長夫妻も一緒にいたんだよ」

ーえ?ー

康介は動揺していた。

「まゆが嘘つきなら、スズヤパン店の社長夫妻も嘘つきだと言うことだよね?」

畳み掛けるように康介にゆっくりと話し掛ける一志兄さん。

ーえっと、それはその……つまり……ー

しどろもどろになる康介。

「康介くん、きみは交通事故に遭い重傷を負ったまゆの心配も、たった一人家に残され留守番をしていた一華ちゃんの心配も一切しないんだね?自分のことばかりだね?仕事が忙しいのは分かるよ。でもね、今日、仕事休みじゃない?」


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