第7話
「一志兄さん帰らなくてもいいの?」
「心配だからまゆ一人にさせておけない。付き添いの許可はもらった。康介のことだ。そんなことを言った覚えはない。しらばっくれていつものように自分のことは棚にあげて、まゆのことばかり悪く言うだろう。携帯充電しておくな」
「ありがとう」
「敵を欺くならまずは身内からだ。一生車椅子で介護が必要になると言ったら康介と、康介の親がどんな反応を見せるか楽しみだ」
最後まで嘘を突き通せる自信がなかった。どこかでバレるんじゃないか。正直怖かったけど、もう後戻りは出来ない。康介をぎゃふんと言わせて、化けの皮を剥がさないと気が済まないもの。
南先輩がボイスレコーダーに録音した康介との会話を一志兄さんのスマホに転送してくれた。耳を澄ませて聞くと小さな男の子の声で「パパ」と呼ぶ声と、「ねぇ、康介さん」と呼ぶ女性の声がかすかに聞こえてきた。
行政センターで聞いた声と一緒だ。鼻にかかった声。少しハスキーで男の母性本能をくすぐる可愛い声だ。聞いていて嫌悪感しかなかった。
「噂をすれば影。康介から電話だ。まゆは寝てろ。出る必要はない」
「あ、でも……」
「消灯時間の九時はとっくに過ぎてる」
一志兄さんが代わりに電話に出てくれた。
ーおぃ、まゆ。今どこにいるんだよ。鍵を忘れてきて家に入れないんだよ。こんな遅くまでなにをしているんだ。いいご身分だよな。呑気に遊んでいられるんだものな。こっちは朝から晩まで仕事して疲れているんだぞ。おぃ、聞いているのか、黙ってないで何か答えろ!ー
「病院だ」
やや間を置いてから一志兄さんが電話に出た。
一瞬だけ沈黙が流れた。
ーもしかして仁志さんですか?ー
「一志だ」
ー顔も声も似てるから分からなかった。いるならいるって言ってください。水臭いな。一志さんなんでまゆは病院にいるですか?ー
康介の声色がガラリと変わった。
「交通事故にあったんだ」
一志兄さんの顔は気色ばみ目もつり上がっていた。
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