第3話 名前のない少年

男とミチルは街に出て白月という名前に見覚えがある人を探していたが、そこで問題が生じた。

男は人と話すのは恋人以来で久しぶりだったのだ。物を盗むときか、人を殺すときくらいしか人に関わることがなかった男はどうやって話せばよいのかわからなかった。

結局、会話はミチルにまかせ男は隣で見守ることにしたが、そう簡単に見つかることはなかった。

「今日はもう諦めるかい?」

「そうね……この街じゃないのかもしれないわ、母が探すように言っていた街は他にもあるからそちらの方も探しに行きましょう!」

他の街を探したところで見つかるのだろうか。そもそもミチルの父親は生きているのかもわからないのだから。男はそんなことを考えながらも見つかることを願っていた。それは全くもって男らしくない思いだった。


次の日の昼頃、お腹が空いた男とミチルは盗んだパンを食べながら街を歩いていた。そんなとき、一人の少年が街角から飛び出しミチルからパンを奪い、その場から去ろうとした。男はあわてて少年を追いかける。男は物を盗んで暮らしているが、自分の物を盗まれるのは許せない性格なのだ。男はあっさり少年をつかまえパンを取り戻した。ミチルはその様子を見て少し呆れたように頭を抱えた。

少年はしばらく悔しそうに男を睨みつけていたが、やがて諦めたように大人しくなった。男は怒るつもりも警察に突き出すつもりもない。そのため少年を無視してその場から立ち去ろうとしたが、ミチルは少年に近づき話しかけはじめた。

「ねぇ、白月って人知らない?三日月の形が彫られている赤い指輪を持っている人!」

少年は違う国出身らしく片言の日本語を話し始める。

「白月……、知らない、赤い指輪知ってる、隣の街……金持ち……持ってる!」

「そうなの!良かったら一緒に来てくれないかしら?」 

「一緒行く……パン盗んだ……ごめん……」

少年は少し嬉しそうに微笑んだ。どうやら少年には何か事情があるようだが、男もミチルも聞こうとはしなかった。みんなそれぞれの過去を持って生きているのだから。

「私はミチル、こっちはおとくん!」

「僕……名前ない……」

名前のない少年……。

「じゃあヒカルって呼ぼうか!」

男は少年に自分と同じものを感じた。もちろん男の方が何倍も悪人だ。だからこそ少年には自分と同じ道をたどってほしくないと思い、明るい名前をつけた。

「ヒカル……いい名前ね、さすがおとくん!」

「ヒカル……僕、ヒカル!」

どうやら少年は男が考えた名前が気に入ったようだ。こうして男とミチルはヒカルという新しい協力者と共に、隣の街の金持ちを探すことになったのだった。

その結果、男は悪人のはずが二人の子供の世話をすることになってしまったのである。




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