第2話 白い月のような瞳
「君と父親の名前教えてくれるかい?」
女の子に協力することを決めた男は女の子に聞いた。手がかりは赤い指輪一つだけ。普通に考えれば父親を見つけるのは不可能だ。しかし名前さえわかればどうにかなるかもしれない。最終的に見つからなかったとしても男には関係のない話だ。女の子を置いて逃げ、もとの生活に戻ればよいのだから。
「私の名前は白月ミチル、父の名前は残念ながらわからないのよ!でも苗字は白月だと思うわ……私の叔父とは違う苗字だから」
白月ミチルか……。まるで白い月のように透き通った瞳を持つ彼女にはぴったりだと思った。男がミチルに協力する理由は暇つぶしだが、この瞳から目が離せなかったからでもある。まるですべてを見透かしているかのような瞳で男を悪人だと見抜いたのだ。白い月……。
「ねぇ、おじさんの名前は?」
急に名前を聞かれた男には答える名前がなかった。
男には名前をつけてくれる人はいなかった。親の顔も知らない、自分が誰なのかも知らないのだ。昔、たった一人男のことを呼んでくれる恋人のために名前を自分で作った。恋人が去ってからは忘れていた名前。しかし男はその名前を教えるつもりはない。もし、その名前を伝えてしまえば知りたくないことが見えてしまうような気がしたからだ。
「オレには名前なんかない、好きに呼んでくれ」
「そうなの……じゃあおとくんで!」
おとくん……。男は少し納得のいかない顔をしたがやがて諦めたかのようにため息を大きくついた。
「赤い指輪についてだが、赤い以外に特徴はないのかい?」
「えーと……確か何か彫ってあるとか……」
「何かがわからないと探しようがないな……」
ミチルが思い出そうと頭をひねっている中、男はごはんをどうしようか考えていた。忘れているかもしれないが男は悪人だ。ミチルの分まで食べ物をわけてあげる優しさを持ち合わせてはいない。ミチルに協力するのもあくまで興味を持ったからである。勘違いされないように一度話をしなければならない。
男がそんなことを考えている間にミチルは何かを思い出したようだ。
「私の記憶が正しければ……三日月の印が彫られていたわ!」
「とりあえず街に出て知っている人がいるか聞いて見るか……」
「ありがとう、おとくん!私も色々な人に聞こうとしたのだけれど悪い人に連れ去られてしまいそうになって……」
それでこの路地裏にいたのだと男は納得した。しかし危険な目にあったあとに男に頼み事をするのは不思議だとやはり男は思った。ミチルの瞳には人を見定める力でもあるのだろうか。そんなバカバカしいことを考えながら男はミチルと共に街に向けて出発した。
男は悪人だが自分が思っているよりはマシなのかもしれないとうまれてはじめて思った。
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