第3話ウワサ
オレは私立高校で世界史を担当している、石神吉彦だ。歳は32になる。
仕事は順調だが、教頭の大倉のパワハラで心を痛めた教師は少なくない。
4月に働き出した、女性教師は6月にはうつ病になり、休職している。
今日も、残業を終えて帰宅中、面白い事を思い付いた。
職場で、大倉が痴漢を働いたとウワサを流すのだ。
あの高圧的な大倉を不幸のどん底に突き落としたい!
翌朝、同僚にその偽のウワサを流した。
「ねぇ、広瀬先生。大倉教頭は痴漢の常習犯らしうよ」
広瀬は目を丸くして、
「ホントに?捕まればいいのにな?」
「そうだね。この話し、他の先生にも教えて下さいよ」
「分かった」
「石神君!」
呼び止めたのは、大倉だった。
「何ですか?」
「君の受け持つクラスは、前回のテストで最低点を連発していてね。君は担任として恥ずかしくないのか?別に辞めてもらっても構わないんだよ」
嫌味な男だ。ホントに逮捕されやがれ。
2日後、大倉は無断欠勤した。
教師たちは、大倉が捕まったんだとウワサを始めた。
翌朝の新聞の事件・事故欄に、
「私立高校教頭、痴漢で逮捕」
と、あった。読み進めると大倉は19歳の男子学生のお尻を撫でたらしい。
オレが広めたウワサは実際に起きた。
「天網恢恢疎にして漏らさずか。悪い事はできんな〜。あの教頭、よりによって男子学生を……」
と、授業の準備をしていると、
「石神先生、最近、先生が近々退職するのでは?と、ウワサがありますが、ホントですか?」
「は?東先生、ウワサに過ぎませんよ」
「それならいいですけど」
オレは、どっからそんなウワサが流されたのか?と、少し気になった。
昼めし時間。隣の広瀬先生に、
「オレって、退職するウワサ流れてます?」
「そうそう、そうなんだ。石神君はそんなのウワサだろ?」
「はい、根も葉も無いウワサです」
その日の晩は、一杯飲んで歩いていた。
後ろから、衝撃を受けた。
そして、背中に焼いた鉄棒が刺さる様な激しい痛みに襲われて、触ると血が滲んでいた。
刺されたのだ。
犯人の顔を見た。
大倉だ!
「へ、変態ヤロー、何しやがる」
「以前から君が憎たらしくてね。私は全てを失った。職も家族も。もう、失うモノはない。学校で、君が一番反抗的だったからな」
間もなく、オレは意識が無くなった。
お通夜。
「まさか、石神先生が亡くなるとは。犯人が大倉ってえのが、こえぇよな」
「広瀬先生、あの石神先生が死亡退職とはまだ、夢を見ているようで、信じられませんよ」
「東先生のおっしゃる通り」
ウワサが実際に自分に襲いかかって来たら、皆さんどうしますか?
日曜ショートストーリー 羽弦トリス @September-0919
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