第44話 切実な問題
おかしなサンタと五十嵐が初共演した『サンタのまま』が放送されると、ネットは今までにないくらい多大な反響があった。
『今まで見たテレビ番組の中で一番面白かった』
『まさに神回!』
『このDVD、永久保存版にします』
『五十嵐さんのサンタいじり最高!』
『この勝負引き分け!』
『サンタさんが押されている姿、初めて見ました』
『五十嵐さんが終始楽しそうにしていたのが、見てて好感が持てました』
『サンタマリア(笑)』
『カルピス(笑)』
『五十嵐さんが前の奥さんと復縁できることを祈ってます』
『あのサンタさんと互角に渡り合えるのは、もはや五十嵐さんしかいません』
『二人のトーク、アイチューブでも見たい』
『五十嵐さん、次は夕森さんかブートこけしさんと共演してください』
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(始まる前はあんなに緊張してたのに、いざ本番になると自分でも不思議なくらいスラスラと言葉が出た。それは多分、サンタさんがそのように導いてくれたからなんだろうな)
五十嵐は、自らの能力以上のものを引き出されたことで、改めてサンタの凄さを実感していた。
「どーもー! 自称日本一面白いタレントこと五十嵐幸助でーす! みんな、もう『サンタのまま』は観てくれたかな? ……えっ、まだ観てないだって? おいおい。早く観ないと、時代に取り残されちゃうぞ。自分で言うのもなんだけど、あんな面白いもの、他では絶対観れないからな。というわけで、早速始めるぜ。今回の相談者は43歳の男性で、彼は派遣社員として自動車工場で働いてるんだけど、職場の上司にパワハラまがいのことをされてるんだ。その上司は年下の正社員で、事あるごとに『派遣のくせに』と口癖のように言って、相談者を悩ませてるんだ」
五十嵐はペットボトルのお茶を一気に半分ほど飲むと、続きを喋り始めた。
「俺もアルバイトや派遣社員を数多く経験してるから、この相談者の気持ちは痛いほど分かる。ほんと、こういう奴って、どこにでもいるんだよな。そういう差別的な言葉を使うことで、自分が優位であることを相手に再確認させたいんだよ。こういう精神的に幼稚な奴に限ってプライドが高かったリするから、厄介なんだよな。これは俺が実際に経験したことなんだけど、俺が上司のミスを指摘したら、そいつが急にキレて罵詈雑言を浴びせてきたんだ。彼は年下の正社員だったんだけど、それ以来事あるごとに、俺に対して差別用語を使うようになったんだ」
五十嵐は残りのお茶を飲み干すと、最後の締めに入った。
「結局俺は、その苦痛に耐えられなくてそこを辞めたんだけど、今はそれでよかったと思ってる。まあ、俺の真似をしろとは言わないけど、辞めるのも一つの選択肢だと思う。辞めるのは決して逃げてるわけじゃないからな。もし、どうしても辞めたくないのなら、違う部署の上司に相談したらいいんじゃないかな。実際それで解決した例もあるし、そのハラスメント行為を知ってる者がいるということだけで抑止力になるからな。というわけで、今日はこれで終了する。じゃあな」
(この相談者に限らず、これは切実な問題だよな。実際ハラスメントは、多かれ少なかれどこにでもあるものだから、どの職場にも起こり得るんだよな)
五十嵐は難しい問題を取り上げてしまったことを少し後悔しながらも、いつものように編集作業に入り、それが終わると迷わず投稿ボタンを押した。
翌朝、スマホのアラーム音で目を覚ました五十嵐は、眠い目をこすりながら動画のコメント欄を覗いてみた。
すると──。
『意外な答えでしたが、よく聞くと納得できました』
『まさに逃げるが勝ちですね』
『切実な問題に立ち向かう五十嵐さんの姿に感動しました』
『私の会社にも、こういう上司います』
『ハラスメントを軽々しく話題にしないでください』
『今回も的確なアドバイスでしたね』
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(数は少ないが、やはりハラスメントを扱ったことに嫌悪感を抱いてる人がいるな。こういうデリケートな問題はやはり避けるべきだったか……いや。これは多くの人たちが抱えている問題だから、早かれ遅かれいつかぶち当たっていたはずだ。それなら断然早い方がいい)
五十嵐はそう言い聞かせながら、仕事先に向かって出掛けて行った。
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