第43話 お笑いモンスターVS自称日本一面白いタレント

『サンタのまま』に五十嵐が出演することが正式に決まると、ネットはたちまち騒然となった。


『ブレイク中の五十嵐さんとサンタさんの共演なんて楽しみ過ぎる!』

『混ぜるな危険(笑)』

『天才同士の夢の共演!』

『裏番組がかわいそう』

『勝つのはどっち?』

『五十嵐に千円!』

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(そりゃあ、観る方は楽しいだろうけど、こっちはそれどころじゃないっつーの)

  

 サンタとの共演が近づくにつれ、五十嵐のボルテージは下がる一方だった。



 そして『サンタのまま』収録当日、五十嵐は緊張で朝から何も食べられないまま、望の運転する車でテレビ局へ向かった。


「いよいよサンタさんと共演するわけですが、今どんな心境ですか?」


「本音を言うと、このまま逃げ出したいです」


「では、テレビ局には行かず、どこか別の場所へ行きましょうか?」


「えっ」


「だって、そうしたいんですよね?」


「……いえ。このままテレビ局に向かってください」


「それでいいんですね?」


「はい。ここで逃げたら、俺のタレント人生は終わりですからね」


 望とやり取りをしているうちに、五十嵐の表情から徐々に硬さが消え、テレビ局に着く頃には吹っ切れたような表情へと変わっていた。


 その後、ディレクターとの打ち合わせが終わると、五十嵐は本番が始まるまでずっと楽屋にこもっていた。


(サンタさんと事前に会ったら、萎縮して持ち味が出せなくなるって小川さんに言われたから楽屋挨拶は控えたけど、本当にそれでよかったんだろうか。もしかしたら、サンタさんに無礼な奴って思われてるかも……)


 五十嵐がそんなことを思っているうちに時間となり、いよいよサンタと対面することになった。


「どーもー! 自称日本一面白いタレントこと五十嵐幸助でーす! 今日は憧れのサンタさんと会えるということで、朝からずっと楽しみにしてました。何分まだ素人なもので、迷惑をかけるかもしれませんが、何卒よろしくお願いします」


「こちらこそ。あっ、飲み物何にします?」


「じゃあ、カルピス原液で」


「カ、カルピス⁉ しかも原液って! そんなの甘過ぎて飲まれへんやろ!」


 五十嵐のボケとサンタの鋭いツッコミが相まり、客席はたちまち大爆笑となった。


「さすが、サンタさん。言葉が速射砲のように次々と出てきますね」


「まあ、こっちは50年これでメシ食ってますからね。ところで、飲み物何にします?」


「じゃあ、カルピスお湯割りで」


「もうええっちゅうねん!」


 前日から考えていたネタがウケたことで、五十嵐はすっかり緊張がほぐれていた。


「ところで、そのふざけたキャッチコピーは誰が付けはったんですか?」


「事務所の社長です」


「最初、抵抗はなかったんですか?」


「もちろん、ありましたよ。ハードルが高くなるからやめてくれって言ったんですけど、社長はこのくらいのインパクトがあった方がいいの一点張りで、ぼくの意見はまったく聞き入れてもらえなかったんです」


「なるほど。やっぱり、そういう小さなバトルがあったんですね。でも、今となっては、社長に感謝してはるんじゃないですか?」


「はい。でも、よく分かりましたね?」


「五十嵐さんがここまでこれたのは、半分はそのキャッチコピーのおかげでしょ。そもそも今の時代、キャッチコピーのあるタレントなんてほとんどいないですからね」


「それが狙いだと社長も言ってました。あと、『日本一面白いタレント』の前に自称を付けることによって、視聴者の反感を和らげる効果があるとも言ってました」


「ははー」


「ちちー」


「はあ? 『ちちー』ってなんですか?」


「自分では気付いていないかもしれないですけど、サンタさんて感心した時とかに、よく『ははー』って言うんですよ。それで、もしサンタさんと共演することになったら、『ははー』と言った後にすぐ『ちちー』をかぶせようと、ずっと考えてたんです」


「それはつまり、母と父を掛けてるってことかいな?」


「はい。さすが、サンタさん。よく気付きましたね」


「そんなん褒められても、全然嬉しくないわ。というか、そんなこと言われたら、恥ずかしくてもう言えんようになるやないか」


「サンタさんの場合、もう条件反射みたいになってるから、相手が感心させられるようなことを言うと、自然に出ちゃうと思いますよ」


「いや。もう絶対言わん」


「はははっ! そんなかたくなにならなくてもいいじゃないですか。あと、サンタさんて、時々机とか台に突っ伏して笑ってる時がありますよね? あれって実は本気で笑ってるんじゃなくて、次に何を言おうか考えてるんでしょ?」


「アホ言え! ちゃんと笑ってるわ!」


「はははっ! 『ちゃんと』って何ですか」


「……ぐぬう。それにしてもあんた、俺のことをよく研究してるな。ほんま、俺のこと大好きやないか」


「サンタさんの出てる番組は、ほぼ全部観てますからね。もしかすると、ぼくは芸能界一のサンタマニアかもしれませんね」


「サンタマニアって……サンタマリアみたいに言うなよ」


「はははっ! まさかサンタマリアが出てくるとは思いませんでした。サンタさん、さすがですね」


「だから褒められても、嬉しくないっちゅうねん。それより、五十嵐さんのプライベートのことを訊きたいんやけど、よろしいでっか?」


「もちろんです。なんでも訊いてください」


「結婚はしてはるんですか?」


「いえ。サンタさんと同じバツイチです。ついでに言うと、娘が一人いるところもサンタさんと一緒です」


「余計なこと言わんでええねん。で、その娘さんとは、今も会ってるんですか?」


「はい。月一で会ってます」


「そうでっか。で、前の奥さんとは今どういう関係なんですか?」


「サンタさん、よくぞ聞いてくれました! 実はぼく彼女と復縁したいと思ってるんですけど、今からテレビを通じて告白してもいいですか?」


「あかん、あかん。この番組はそんな番組とちゃうねん」


「えー。そんなケチ臭いこと言わないで、告白させてくださいよ」


「言うに事欠いてケチ臭いとはなんやねん! ほんま、あんたとはやっとれんわ」


 その後、二人はまるで昔からの知り合いのような軽快なやり取りで、客席を沸かせていた。 



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