第39話 壮大な夢
五十嵐は加奈への質問を散々考えた挙句、ようやく一つの答えを導き出した。
「加奈さんは昔からモテたんですか?」
(この質問は一見浅いようで実は奥が深い。なぜなら、どう答えるかによって、その人の印象がガラリと変わるからだ)
そんなことを思いながら加奈の返答を待っていると、彼女は「昔も今もモテませんよ」と、あっけらかんと答えた。
「そんな訳ないでしょ。加奈さんは昔から可愛かったんでしょ?」
「私、男兄弟で育ったから、男の子とばかり遊んでて、ちっとも女らしくなかったんですよ」
「へえー。でも今は、さすがにモテるでしょ?」
「全然。私、お酒が大好きで、毎日のように酔っ払ってるから、周りの男性から女性扱いされないんですよね」
(なるほど。気さくな一面を見せつつ、ちゃんと男性ファンのことを思って、男の影を見せないようにするあたりは、さすがだな)
五十嵐がそんなことを思っていると、加奈がお返しとばかりに「じゃあ、同じ質問をします。五十嵐さんは昔からモテたんですか?」と、ニヤニヤしながら訊ねた。
「その質問、読者はあまり興味ないと思うけど、せっかくだから答えましょう。結論から言うと、昔はそこそこモテました。俺、昔から人を笑わせるのが好きで、高校生の頃は友達とコンビを組んで、みんなの前でしょっちゅう漫才を披露していました。ほらっ、その頃って、面白い奴がモテたでしょ? でも、今は年齢のせいもあって、まったくモテません」
「今更ですけど、私より五十嵐さんの方が全然年上なので、敬語を使うのはやめませんか?」
「俺としては、その方がありがたいけど、本当にいいんですか?」
「もちろん。じゃあ今から、敬語禁止ですよ」
加奈がいたずらっぽく笑いながらそう言うと、五十嵐は「ああ、分かった」と、照れながら返した。
「で、さっきの続きですけど、五十嵐さんて昔から面白かったんですね。そのまま、お笑いの道に進もうとは思わなかったんですか?」
「俺はそのつもりだったんだけど、相方が『俺は真っ当な道を歩む』と言って、さっさと就職先を決めちゃったんだよね。そんな相方を無理に誘うこともできないし、かといって一人でお笑いの道に進む勇気もなかったから、結局そこであきらめちゃったんだよね」
「へえー。五十嵐さんに、そんな過去があったとは意外でした。ちなみに、五十嵐さんはその後どうしたんですか?」
「食品会社に就職したんだけど、上司とうまくいかなくてすぐに辞めてしまってね。それから、どんな仕事をしても長続きしなくて、この先ただ歳を取っていくだけの人生は嫌だと思って職場の同僚に相談したら、動画の投稿を勧められたんだ」
「なるほど。それで動画がバズって、今所属している事務所の社長にスカウトされたんですね」
「そうだけど、よく知ってるね」
「今日対談するにあたり、五十嵐さんが芸能界に入った経緯を、昨日調べておいたんです」
「マジで! ただでさえ仕事で忙しいのに、俺のためにそんな時間を割いてくれるなんて、感激だな」
「こんなの、全然普通ですよ。五十嵐さんも、少しは私のことを調べてくれたんでしょ?」
「も、もちろんだよ。昨夜調べるのに夢中になって、気が付いたらもう朝方になってたから、今眠くて仕方ないんだよね。はははっ!」
本当は調べてなどいなかったが、加奈の手前、五十嵐はそう言わざるを得なかった。
「じゃあ、今度は俺が質問するよ。加奈さんは小さい頃から芸能界に興味があったの?」
「はい。幼稚園の頃、ドラマに出ている女優さんを観て、私もこんな女優になりたいと思ったんです。その後、地元の児童劇団に入って演技の勉強をしてたんですけど、気が付いたら、アイドルグループの一員としてデビューしてました」
「はははっ! まあ、芸能界に入った経緯はどうあれ、今は女優として活躍してるんだから、夢が叶ったってことだよね」
「はい。アイドルとしてはまったく売れませんでしたけど、こうして女優になれたので、今はアイドルをやってて良かったと思っています」
「この先、女優としての夢はあるのかな?」
「はい。テレビや映画はもちろん、ミュージカル等の舞台もどんどん挑戦して、息の長い女優になりたいですね」
「今の活躍ぶりを見てると、そうなる可能性はかなり高いと思うよ」
「ありがとうございます。ちなみに、五十嵐さんはタレントとしての夢はお持ちですか?」
「うん。芸能界のあらゆるジャンルのライバル関係の人を集めて、対談させることが俺の夢なんだ。ちなみに、その時のMCは俺なんだけどね」
「あらゆるジャンルって、例えばどんなものですか?」
「そうだな。例えば、お笑い界のライバル関係と言って真っ先に思い付くのは、ビッグスリーと言われている、
「それ、もし実現したら凄いことですよね。というか、実現できるのは五十嵐さんしかいないので、頑張ってください」
「うん。加奈さんからそう言われると、なんか本当に実現できそうな気がしてきたよ」
最後にお互いの夢を語り合ったところで、対談は終了となった。
「本日はお忙しいところ、我が社のために時間を割いていただき、誠にありがとうございました。この対談は来週発売の本誌に掲載されますので、一度、目を通してみてください」
「「はい」」
偶然声が重なったことで、五十嵐と加奈は思わず吹き出していた。
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