第36話 持つべきものは友

 五十嵐の収録した二本の番組が立て続けに放送されると、どちらも視聴者からの反響が大きく、ネットは彼を賞賛するコメントで溢れていた。


『新人なのに、あのドビ夫人と対等に話してるなんて凄すぎる!』

『キャッチコピーに負けないくらい面白かった』

『ドビ夫人とのやり取りが面白過ぎて、お腹が痛い』

『初めてのテレビ出演とは思えないほどの安定感』

『松沢さんや下田さんのような大物をいじってるところが新人離れしている』

『松沢さんとのバトル最高!』

『他の出演者が完全に食われていた』

『最早、キャッチコピーから自称が取れる日は遠くないかも』


(ふーん。俺って、こんな風に映ってたのか。収録してる時は無我夢中でよく分からなかったけど、とりあえず視聴者が喜んでるみたいだから、これからもこのスタイルでいこう)


 五十嵐は自分のスタイルが間違っていなかったことにホッとしながら、行きつけの居酒屋へ出掛けていった。





「五十嵐のタレント転身を祝して乾杯!」


 新田の音頭で、五十嵐、新田、古宮の三人は、ビールの入った互いのコップをぶつけ合った。


「そもそも、どういう経緯でそういうことになったんだ?」


 新田の問いに、五十嵐は「事務所の社長が直々にDMを送って来てさ。あなたのような才能に溢れた人は芸能界全体にも数える程しかいないので、是非うちの事務所に入ってほしいって懇願されたんだよ」と、ドヤ顔で答えた。


「お前、それ絶対盛ってるだろ?」


 いぶかし気な顔で訊く新田に、「そうだ。ちゃんと本当のことを言え」と、古宮も後に続いた。


「盛ってねえよ! 俺は社長に言われたことを、そのまま伝えただけだ」


「ムキになるところが益々怪しいな。本当はお前の方が社長にDMを送ったんじゃないのか?」

「新田の言う通りだ。お前ならやりかねないからな」


「そんなことするわけねえだろ。そもそも、それでタレントになれるのなら、みんな苦労しねえよ」


「それもそうだな。じゃあ、本当に社長からスカウトされたのか?」


「だから、さっきからそう言ってるだろ」


「俺、芸能界の仕組みがよく分からないんだけど、そういうことってよくあるのか?」


「いや。俺みたいなケースは特殊なんじゃないかな」


 二人の質問に立て続けに答えた五十嵐は、「それより俺、テレビ映り良かったか?」と、興味津々に訊ねた。


「まあ、良かったんじゃないか」

「そこまで意識して観ていなかったから、よく覚えてないな」


「なんだよ、その気のない返事は。お前ら、本当にちゃんと観てたんだろうな?」


「もちろん観てたよ。お前がドビ夫人にツッコんだところが、俺的には一番面白かったな」

「俺は松沢富美男とバトルしてるところが一番笑ったな」


「それ、ネットニュースを見てれば、言える感想だよな? もっと具体的に言ってくれよ」


「お前、友達を疑うのはよくないぞ」と、五十嵐を睨みつけながら訴える新田に、「そうだよ。お前の晴れ姿を俺たちが見ないわけないだろ」と、古宮も賛同した。


「それもそうだな。二人とも、疑って悪かったな」


「分かればいいんだよ。それより、この先のスケジュールはどうなってるんだ?」


「結構詰まってる。それに、テレビに出たことで、オファーが急増してるみたいなんだ」


「マジで! じゃあ、こうして三人で会うことも、今後はできなくなるってことか?」


「そうだな。芸能活動と並行して、動画投稿もしないといけないから、時間を作るのは難しくなってくるな」


「なんか、お前がだんだん俺たちの手の届かないところに行くようで、寂しいな」


「そんなこと言うなよ。合間を見て、時々会いに行くからさ」


「今日はお前を祝うために集まったのに、なんか湿っぽくなっちゃったな。よし! 景気付けに、この後カラオケでも行くか!」 


 新田の提案に、五十嵐は「いいねえ。最近全然行ってなかったから、歌いたくてうずうずしてたんだよ」と、すぐに食いついた。


「でもお前、明日、仕事早いんじゃないのか?」


「いや。明日は昼からだから、なんの問題もない。今日はとことん歌いまくろうぜ!」


 居酒屋を出た後、カラオケ店に向かった五十嵐たちは、この先三人で会うことが極端に少なくなる寂しさを微塵も見せず、それぞれの持ち歌を力いっぱい熱唱していた。

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