第22話 まさかの反応
夕方、五十嵐はパチンコ店から帰ると、すぐに動画のコメント欄に目を向けた。
すると──。
『思ったより、つまらなかったです』
『ありきたりな答えだったから、ガッカリしました』
『友達が来ている所に怒鳴り込むなんて無謀過ぎます』
『ごはんは?』
『もっと親身になって相談に乗ってください』
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(なんだ、これは? 否定的な意見ばかりじゃねえか)
五十嵐は今までに経験したことのない洗礼を受け愕然としていた。
(こんなことなら、路線変更なんかするじゃなかった。こうなったのも全部、畑中のせいだ)
怒りの矛先を畑中に向けた五十嵐は、翌朝第一集配課に入室するなり、彼に向かって「君のせいで、視聴者の怒りを買ってしまったじゃないか。この責任をどう取るつもりだ」と、詰め寄った。
「なんで僕が責任を取らないといけないんですか? お門違いにも程がありますね」
「悩み相談をけしかけたのは君だろ? そのせいでこんなことになったのに、なんとも思わないのか?」
「思いませんね。というか、悩み相談自体はなんの問題もありません。ただ今回は、ネタのチョイスが悪かっただけです」
「どういうことだ?」
「あのネタだと、答えは五十嵐さんの言ったように引っ越しをするか、我慢してそのまま住み続けるかの二択しかありません。仮に後者の方を選んでいたとしても、視聴者の反応は変わらなかったでしょうね」
「なるほどな。つまり俺は、このネタを選択した時点で、もう終わってたんだな」
「そういうことです。次はぜひ、答えが幾通りもあるようなネタをチョイスしたうえで、五十嵐さん独自の回答をしてください」
「分かった。今回の動画のタイトルは【隣人ガチャ】だったが、次こそは【ネタガチャ】にならないよう、気を付けるよ。はははっ!」
そう言って笑う五十嵐を、畑中は呆れたような顔で見ていた。
「もしもし。俺だけど、今、大丈夫か?」
萌との面会を二日後に控えた夜、五十嵐はある用件があって百合子に電話をかけた。
「大丈夫だけど、何の用?」
「いや、急にお前の声が聞きたくなってさ」
「…………」
五十嵐の予想だにしない台詞に、百合子は返す言葉が見つからず黙り込んでしまった。
「あっ! 今のは冗談だから忘れてくれ! 本当は萌にあげるプレゼントについて訊きたかっただけなんだ」
「プレゼント?」
「ああ。明後日はクリスマスイブだろ? 前は人形とかぬいぐるみでよかったけど、中二ともなるとさすがにそうはいかないからな。それで、何をあげれば萌が喜ぶか、お前に訊こうと思ってさ」
「ああ、そういうこと。それなら、アイドルグッズがいいんじゃない? あの子、今韓国のアイドルグループに嵌まってるから、それに関するグッズをプレゼントすれば喜ぶと思うよ」
「それって、どこに行けば手に入るんだ?」
「それは私にも分からないけど、ネットで調べれば、すぐに出てくるはずよ」
「分かった。ちなみにその中で、萌が一番好きなグループの名前は知ってるか?」
「たしか、『ATS』とか言ってたわね」
「『ATS』だな。あと、ついでと言ってはなんだけど、お前なんか欲しいものあるか?」
「えっ! 別にそんな無理しなくていいよ。ただでさえ、萌のプレゼントで出費がかさむんだからさ」
「そんなの気にするなよ。と言っても、あまり高いものは買えないけどな」
「ほんと、気を遣わなくていいから。じゃあ、そろそろ切るね」
「おい! ちょっと待てよ!」
五十嵐の叫びも空しく、百合子は電話を切ってしまった。
(あいつ、もしかして照れてるのか? だとしたら……って、そんな訳ないよな。えーと、たしかあいつ結婚してた頃は花をプレゼントしたら喜んでたっけ。でも今は、もっと実用的なものの方がいいだろうな。となると……まあいいか。これは萌の方を片付けてから考えよう)
五十嵐は『ATS』のグッズがどこに行けば手に入るかをネットで検索した。
すると──。
(なんだ、ここは? 若者だらけじゃねえか)
『ATS』のグッズが置いてあるいくつかの店の画像には、すべて多くの若者が写り込んでいた。
(考えてみたら、アイドルグッズを売ってる店なんだから、若者が多いのは当然だよな。としても、俺は明日ここに行かないといけないのか? 想像しただけで憂鬱なんだけど……)
百合子に言った手前、もう後戻りすることができなくなった五十嵐は、頭を抱えるほど自らの言動を後悔していた。
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