第19話 俺にまかせとけ!
「どーも、五十嵐幸助です。今日は久しぶりにタクシーネタにしたぜ。といっても、今回の内容は明るいものじゃなく、どちらかというと暗い感じなんだけど、そこは持ち前のトーク力でカバーするから、安心して最後まで見てくれ。じゃあ早速いくぞ」
冒頭の挨拶を終えた五十嵐は、幕の内弁当の卵焼きを口の中に放り込んだ後、続きを喋り始めた。
「夕方に街中を流していたら、十歳くらいの女の子が手を挙げているのが目に入ってさ。珍しいなと思いながらも、俺はその女の子を乗せたんだよ。そしたらいきなり『前のバスを追いかけてください』って言ったもんだから、驚いちゃってさ。事情を訊いたら、『バスの中にスマホを置いてきちゃったんです』と返ってきたから、俺はドラマに出てくる刑事みたいな気分になって、『じゃあ俺にまかせとけ!』と言いながら、そのバスを追いかけたんだよ」
五十嵐は焼き魚を一口かじると、続きを喋り始めた。
「俺はすぐにバスに追いつき、そのままバスのすぐ後ろを走ってたんだ。そして、バスが停留所に止まった時に『今だ、早く乗って』と言って、女の子を促したんだ。そしたら、彼女は軽くうなずきながら車を降りてバスに飛び乗ったから、俺は一安心しながら車の中で待ってたんだよ。でも結局、女の子は降りて来ることなく、バスはそのまま走り出してしまったんだ」
五十嵐は焼き魚の残りを口の中に放り込むと、続きを喋り始めた。
「俺は頭の中が真っ白になりながらも、そのバスを追いかけたんだ。そしたら、ある停留所で女の子が降りるのが見えたから、俺はすぐに車を脇道に停めて、走って彼女を追いかけたんだ。そのまま五分くらい走ってやっと追いつくと、俺は彼女に『どういうこと?』って訊いたんだよ。そしたらいきなり『キャー! 誰か!』なんて叫ぶもんだから、俺は怖くなって走って逃げたんだよ」
五十嵐はたくわんをぼりぼりと音を立てながら咀嚼すると、続きを喋り始めた。
「車に戻ると、俺は頭の中を整理して考えたんだ。まず初めに、女の子はバスに飛び乗った後、なんでタクシーに戻らなかったのか。そして、俺が話し掛けた時、なんで叫び声を上げたのか。でも、いくら考えても分からないから、あきらめてそのまま仕事を続けてたんだ。そしたら、たまたま顔なじみの看護師を乗せることになって、ついでにそのことを話してみたんだよ」
五十嵐はペットボトルのお茶で喉を潤すと、続きを喋り始めた。
「すると、『多分それ、女の子に嵌められたんですよ』って、その看護師が言うから、俺は『どういうことですか?』って返したんだよ。そしたら『スマホをバスに置き忘れたというのは嘘で、その女の子は単にバスに乗り遅れただけだと思います。よほど早く帰らないといけない事情があって、運転手さんはそれに利用されたんじゃないかな』なんて言うもんだから、俺は『仮にバスに乗り遅れたのだとしても、なぜ女の子は最初にそう言わなかったんでしょうね。わざわざ嘘をつく必要がありますか?』って訊いたんだ」
五十嵐は切り干し大根を一気に口の中に放り込むと、続きを喋り始めた。
「すると、『多分お金を持ってなかったからじゃないかな。それで咄嗟に嘘をついたんだと思います』って言うものだから、俺は納得できないまま『小学生が咄嗟にそんなこと思い付きますかね? たとえ思い付いたとしても、それを実行できるとは思えませんけどね」って返したんだ。そしたら、『今時の小学生なら、そのくらいのことやっちゃうんじゃないかな。多分、罪の意識もそんなになかったと思いますよ』って平然と言うから、驚いちゃってさ」
五十嵐はウインナーを丸ごと口の中に入れた後、続きを喋り始めた。
「俺は半信半疑ながらも、『そんな軽い気持ちであんなことされたら、こっちはたまったものじゃないですね。挙句の果てに変態呼ばわりされるし、もしあの時逃げていなかったら、私は今頃警察に捕まってますよ』って言ったんだ。そしたら、『それは本当に気の毒でしたね。女の子もまさか運転手さんが追いかけてきてるとは思わなかったでしょうから、声を掛けられた時に一瞬パニックになったんじゃないかな』なんてこと言うもんだから、『パニックになったのはこっちの方ですよ!』って、思わず大きな声を出しちゃったんだよな。はははっ!」
五十嵐はごはんと残りのおかずを一気に掻き込み、それをお茶で流し込んだ後、最後の締めに入った。
「とまあ、ここまでが看護師とのやり取りだったわけだけど、結局真相は未だに分からないんだよな。当時は看護師の言うことが信じられなかったんだけど、今思えば彼女の言った通りかもしれないな。となると、とんでもない小学生ってことになるんだけど、今となっては、彼女が立派に更生してることを願うだけだな。というわけで、今日はこれで終了する。じゃあな」
やがて編集作業を終えた五十嵐は、迷いながらもタイトルを【今時の小学生】とし、投稿ボタンを押した。
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