第18話 動画投稿は楽じゃない

 五十嵐の挑発に乗るかっこうで動画の投稿をすることになった佐藤、新田、古宮は慣れていないこともあり、それぞれ苦戦していた。

 佐藤は動画の撮影中に子供たちにジャマされ、動画自体をまともに撮れず、新田はカメラを前にすると緊張してうまく喋れず、古宮に至っては、撮影前の準備の段階で既に心が折れていた。


「ほら、言わんこっちゃない。これでお前らも、人気の出る動画を撮ることが甘くないってことを思い知っただろ?」


 行きつけの居酒屋で、五十嵐は佐藤たちを前に得意げに言い放った。


「悔しいけど、お前の言う通りだ。なんたって、最後までまともに撮れないんだから」

「カメラの前だと、あんなに緊張するものなんだな。今回のことで初めて知ったよ」

「俺はスタートラインにすら立ててないから、問題外だよな」


「まあ、そう落ち込むな。確かにお前らの動画は今のところ数字は伸びていないが、この先どうなるか分からないからな」


「別に落ち込んではいないが、俺はもう動画を投稿するのはやめにするよ」


「どうした、新田。まだ始めたばかりなのに、なんでそんなこと言うんだ?」


「向いてないからだよ。さっき言ったように、カメラの前だと緊張してうまく喋れないんだよな」


「それはやっていくうちに段々慣れていくから、もう少し続けろよ」


「無理言うなよ。俺はこれ以上醜態をさらすのが嫌なんだよ」

「俺もやめるよ。というか、俺はまだ一度も投稿してないんだけどな」


 新田に続き、古宮もリタイア宣言をした。


「お前ら、揃いも揃って、ほんとダメな奴らだな。で、佐藤はどうする? お前もこいつらと一緒に途中で投げ出すのか?」


「いや。俺はもう少し続けようと思う。さっきも言ったけど、まだ一度もまともに撮れてないからな」


「そうこなくちゃ! まともに撮影したものがどれだけバズるか、俺も見てみたいしな」


「そういえばお前、今まで何回かバズってるんだよな? どうしたらそんな風になるのか教えてくれよ」


「正直言うと、それは俺にもよく分からない。まあ、ネタが面白いのは当然として、それ以外にもなにかポイントみたいなものがあるんだろうな」


「お前、なんか他人事みたいだな。もしかして、俺に登録者の数を越されるのを恐れて、なにか隠してるんじゃないだろうな」


「俺がそんなせこいことするわけないだろ。お前、俺を何だと思ってるんだ?」


「ちょっとからかっただけなんだから、そんなに怒るな。それよりお前、今何人くらいの登録者がいるんだ?」


「ざっと十万人ってとこかな。目標としては、その先の百万人を目指してるんだけどな」 


「それはいくらなんでも欲張りすぎだろ。芸能人でも、そんなにいる奴はあまりいないぞ」


「まあそうだろうな。でもそのくらいいかないと、タレントに転身するのは難しいと思う」


 タレントというワードを聞いて、佐藤たちはたちまちきょとん顔になった。


「お前らにはまだ言ってなかったけど、俺、動画である程度顔を売ったら、その後タレントになろうと思ってるんだよ」


 五十嵐の無謀ともいる計画を聞いて、新田は透かさず「お前、頭大丈夫か? タレントなんて、そう簡単になれるものじゃねえんだぞ」と、ツッコミを入れた。


「まあ百歩譲ってタレントになれたとして、どんなタレントを目指してるんだ?」


 後に続いた古宮に、五十嵐は「まあ、バラエティ番組を中心に、ある程度実績を積んで、ゆくゆくはMCを任せられるようなタレントになろうと思ってるんだ」と、悪びれる様子もなく言い放った。


「MCとは、また随分とでかい夢を持ったものだな。確かにトーク力だけなら、お前はその辺のタレントより上かもしれないけど、MCはいろんな人に話を振って、それに全部答えないといけないんだぞ。それがお前にできるのか?」


 佐藤のもっともな言い分に、五十嵐は「もちろん、今はまだできないけど、大物MCの司会ぶりを参考にしているうちに、きっと俺にもできるようになるさ」と、自信満々に答えた。


「そのために俺は、最近よくいろんなジャンルの本を読んでるんだ。一つ一つ知識を得る度に、夢に一歩近づいてる気がして幸せな気分になるんだよ」


「なるほど。お前なりに努力してるんだな」


「ああ。これが無駄な努力にならなければいいんだけどな」


 五十嵐の発した自虐的な言葉に、三人は揃って失笑していた。





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