第17話 五十嵐の挑発に乗る三人

 バレンタインのエピソードを投稿した翌朝の九時頃、五十嵐は目を覚ますやいなや、動画のコメント欄に目を向けた。


『タイトルを見て恋愛関係の話かと思ってたら、全然違っていました(笑)』

『五十嵐さん、モテモテですね』

『冒頭のセルフツッコミが笑えました』

『その後、当然男をフルボッコにしたんですよね』

『もらったチョコは全部食べたんですか?』

『うずらの卵を最後までとっておいた五十嵐さんが可愛かったです』

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(どうやら、いつもより楽しそうに喋ったのが功を奏したようだな)


 五十嵐は作戦が成功したことに満足げな表情を浮かべながら、雀荘へ出掛けて行った。






「ポン!」

「チー!」

「カン!」


 久しぶりに佐藤、新田、古宮と卓を囲んだ五十嵐は、動画の好調さもあっていつになく強気だった。


「お前ら、今の俺に勝てると思うなよ。今の俺は、たとえ麻雀のトッププロが束になっても、かないっこないんだからな。はははっ!」


「こいつ、ちょっと動画が好調だからって、完全に調子に乗ってるな」

「そんなこと言ってると、いつか痛い目にあうぞ」

「今日がその日にならないといいけどな」


「今日は気分がいいから、何を言っても許してやるぞ。あっ! そうこうしてるうちに、ツモっちゃったよ。ツモ、ホンイツ、白、ドラ三の倍満だ」


「ゲッ! こいつ、今日は本当にツイてやがる」

「あーあ、今のでハコテンだ」

「ああ、早く帰りてえ」


「だから言ったろ? 今日の俺には勝てっこないって。まあ、この後の飲み会は俺が奢ってやるから、お前ら安心して負けていいぞ。はははっ!」


 その後、五十嵐は今までの負け分を取り返すような勢いで勝ち続けた。






「約束通り今日は俺が奢るから、お前らじゃんじゃん注文していいぞ」


 夕方、雀荘と同じビルに入っている居酒屋に訪れるやいなや、五十嵐は三人に向かってそう言い放った。


「じゃあ遠慮なく、ごちそうになろうか」

「と言っても、いつもは俺たちが奢ってるから、当然と言えば当然だけどな」

「まあ、たまには勝たせないと、可哀想だしな」


「負け惜しみはいいから、早くなんか頼めよ。とりあえず、飲み物は全員ビールでいいな?」


 やがてビールが運ばれてくると、五十嵐の音頭で乾杯した。


「ところで佐藤、今日はまだ帰らなくていいのか?」


「ああ。嫁が子供を連れて実家に帰ってるから、今日は遅くなってもいいんだ」


「そうか。そういえば、お前と飲むのは久しぶりだな」


「家庭を持つと、なかなか時間が自由にとれないからな。お前も結婚してた頃はそうだったろ?」


「いや。俺はそうでもなかったな。いつも仕事帰りにパチンコやマージャンをして、いつも女房に怒られてたからな」


「おい、五十嵐。そんな話はいいから、動画のことを詳しく聞かせろよ」


 独身の新田にとって、二人の家庭話が居たたまれなくなったのか、突然横から割って入った。


「お前、相変わらず強引だな。まあ聞きたいなら話すけど、どこから話そうか?」


「なんであんなものが未だに人気あるんだ?」


「お前、そういえば、この前も同じようなこと言ってたな。さては、俺の人気がなかなか落ちないから、嫉妬してるんだろ?」


「嫉妬なんかしてねえよ! 俺はただ、その秘訣を知りたいだけだ」


「そんなのねえよ。俺はただ、実際にあったことを面白可笑しく喋ってるだけだ」


「じゃあ、なんでまだ飽きられないんだ?」


「自分で言うのもなんだけど、俺の喋りが面白いからじゃないか? 慣れてきたせいか、最近自分でも喋りがうまくなったと思ってるんだよな」


「あの程度の喋りなら、俺だってできるさ」


「じゃあお前、一回やってみろよ。前も言ったが、見るのとやるのとでは全然違うんだからな」


「ああ、やってやるよ。それでお前以上の人気者になってやるから、後で吠え面かくなよ」


 二人のやり取りを聞いて、古宮が「お前がやるのなら、俺もやってみようかな」と、興味あり気に参戦してきた。


「ああ、お前もやれよ。で、カメラを前にして喋る難しさを味わえばいいんだ。あと、佐藤。ついでにお前もやれよ」


「ついでってなんだよ。俺はそんなものには興味ねえよ」


「そんなこと言って、本当はお前、視聴者が全然集まらないのが怖いんだろ?」


「なんだと? お前の動画に集まって、俺に集まらないわけないだろ」


「じゃあ、お前もやれよ。三人の中で誰が一番人気が出るか、俺が見定めてやるからさ」


 挑戦的な五十嵐の態度に我慢できなくなったのか、とうとう佐藤まで参戦することになり、新田、古宮を加えた三人は、動画の投稿に挑戦することになった。








   

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