幼馴染のNTR動画が送られてきたことに気付かず動画を家族で鑑賞してしまい地獄が生まれたが、母親がリベンジ特級呪物を幼馴染に送りつけたことで向こうの家族会議に呼ばれてしまい、とんでもないほど地獄です

くろねこどらごん

第1話

『あんっ♡ あんっ♡ 気持ちいいよぉ♡』 


 なんだ、これは。


 とある土曜日。テレビの向こうで行われてる行為に目を奪われながら、俺こと初小岩実はつこいわみのるは驚愕していた。


「これ、路夏だよな……間違いなく……」


 事の発端は、俺宛にとあるアニメの劇場版DVDが送られてきたことだった。

 送ってきた相手の名前が親友のものであったこともあり、俺は疑うことなくリビングで開封したのだが、中には本編のDVDと一緒に、なにも書かれていない白いDVDが同梱されていた。

 なんだろうと思いつつ、とりあえずリビングのテレビでそのDVDを再生してみたのだが、そこには俺の幼馴染にして彼女である、瀬谷路夏せやろかの姿があったのだ。


『へへっ、どうだ路夏? 俺のほうが、実のやつよりずっと気持ちいいだろ?』


 いや、それだけじゃない。路夏を抱きながら熱烈な口付けを交わす男にも見覚えがある。

 宇場津太郎うばつたろう。俺のもうひとりの幼馴染にして親友。

 そして俺にこのDVDを送ってきた張本人でもある男が、画面の向こうで俺を蔑みつつ、裸で俺の恋人を抱きしめていた。


『うん♡ 津太郎くんのほうが、実よりずっとすごいよ♡ ねぇ、だからもっとぉ♡』


 本来なら拒絶しなければいけないはずなのに、路夏の瞳にはハートマークが浮かんでおり、そこには俺など映っていない。

 俺の恋人はもはや、親友だと思っていた男に陥落しきっている。

 それが分かってしまった。同時に理解する。


 俺は恋人を寝取られたのだ。それも、長年の親友に。

 俺は恋人に裏切られたのだ。長年の幼馴染で、初恋の相手に。


『へへへっ、おい見てるか実? 路夏はお前より、俺のことを選んだみたいだぜぇ?』


「あ、ああああ……」


 全身が震える。絶望が襲いかかる。

 これが、これが寝取られ。これが、恋人を奪われるということなのか。

 脳が破壊される感覚で、心が壊れそうになる。いや、既に壊れてしまっているのかもしれない。


『俺はお前のことが、ずっと嫌いだったんだ。俺の路夏を取りやがってよぉっ! お前から路夏を奪えて清々したぜ! ざまあみやがれ!』

 

「うわああああああああああああ!!!!!」


 絶叫とともに、俺はソファーから立ち上がる。

 もうこれ以上、この動画を見ていることなんて出来ない。

 俺の心はこの瞬間、粉々に砕けてしまった。きっともう、二度と立ち直ることは出来ないだろう。

 それほど心に深く傷を負っていたのだ。 


「うわああああああああああああ!!!!!」


 激しい絶望感に襲われながら、俺は家を飛び出そうと――――




「こら、実! いきなり叫ぶんじゃありません!」


「あ、はい。すみません」

 



 したのだが。

 母親に怒られ、俺はすごすごと座り直した。


「いきなり大声出すから、お母さんびっくりしたじゃない。ご近所迷惑にもなるんだから、そういうのは控えるようにしてね」


「う、うん。ごめん、お袋」


「実。寝取られ動画を見るときはな、なんというか救われてなきゃダメなんだぞ。独りで興奮してズボン脱いで満たされて……」


「親父はいったいなにを言ってるんだ」


 現在進行形で近所の幼馴染たちに心を破壊されて迷惑を被ってるのは俺だし、寝取られ動画は救いとは対極にあるブツである。

 どっかの孤独にグルメる貿易商みたいなことを言ったところで、全然名言になってないんだが。


「つーか、なんで親父たちは平然と寝取られ動画見てんだよ! こっちは絶望で脳が破壊されそうだったんだぞ!!!」


 そう。幼馴染たちの寝取られ動画を見ていたのは、俺ひとりではなかった。

 土曜日ということもあって両親が家におり、リビングのデカいテレビでDVDを観ようとしたら暇だったらしい親もソファーに腰掛け、一緒に見ると言い出したのだ。

 特に断る理由もなかったので別にいいかと承諾し、気にすることなくそのまま再生ボタンを押したのだが、その結果生まれたのが家族全員で息子の彼女が寝取られている動画を鑑賞するという、世にも稀な地獄絵図そのものであった。


「なんでって言われても……うーん、流れ? 元々お母さんたちは実がリビングで映画を観たいっていうから、一緒に観ようとしただけだしね」


「ああ。それがまさか路夏ちゃんの寝取られ動画だったとは思わなかったがな。息子からのまさかのサプライズプレゼントに、もうひとりのムスコも涙を流して喜んでいるぞ!」


「うっせぇわ! 最悪な下ネタ言うんじゃねぇ! 他人事にもほどがあるだろ! アンタらがそんなんだから、こっちの悲壮感がなんかぶっ飛んだだろうが!」


「それは良かった。じゃあ気になるから続き見ていい?」


「よくねぇっつってんだろ!? アンタそれでも人の親か!?」


 とても親のいうこととは思えない鬼畜極まる発言に、俺は目を見開いて驚愕する。

 誰が好き好んで、真っ昼間から親と寝取られ動画を見たいというのか。

 時を巻き戻せるなら巻き戻したいくらいには、最悪も最悪な状況だった。 


「フッ、実はまだ若いな。父さんくらいになると、ホ○イトアルバム2の空港のシーンは満面の笑みで見ることが出来るし、メ○リーズオフ2ndで彼女のほた○ちゃんを振ってほた○ちゃんの姉や親友のもとにスキップでいけちゃうんだぞ? 君○ぞでは茜ちゃんルートで遥に手を出す時なんて、そりゃもうドッキドキのワックワクで……」


「うっせーよ! 今時ギャルゲーの話とか分かるやつなんていねーんだよ! そもそも知ってたら絶対一緒に観てねぇっつーの! もう寝取られどうこうのテンションじゃねーよ! どうしてくれんだよふたりともよぉっ!」


『ほら、路夏も脱げよ』


『うんっ♡』


「あ! いよいよ本番が始まりそうね!」


「実! 父さんが寝取られの素晴らしさを、じっくりしっかり実況解説してやるからな!」


「おいこら無視すんな! 息子の話をちゃんと聞け!」


 いよいよ寝取られる寸前となって、両親のテンションが露骨にあがるが、俺は違う意味でテンションがあがっていた。

 具体的には血圧が向上しており、今の俺の顔は間違いなく真っ赤となっていることだろう。

 こんな状態で寝取られ動画に集中できるわけもない。


『ククク、実。お前が今なにを考え、どんな顔をしてなにをしているか、俺には手に取るようにわかるぜ! 俺たちは親友だったもんなァッ!』


「うるせぇ津太郎! お前になにが分かる!? 俺が両親とお前らの寝取られ動画を見てしまい、寝取られたこととは違う方向にブチキレてることを、お前には予想出来てたってのか、えぇっ!?」


「実、もう動画は撮影済みなんだから、今更画面の津太郎くんにツッコんでも意味ないわよ」


「ちなみに動画の中じゃ、津太郎くんは路夏ちゃんにナニを突っ込んでる最中だがな、ハハハ!」


「なにがハハハだ! さっきから上手いこと言った気になってんじゃねーぞ親父! 小粋なギャグのつもりだろうが、笑えねェーんだよ殺すぞ!!!」


『あんっ♡ あんっ♡ あんっ♡ 寝取っても大好き♡ つったろーくーん♡』


「路夏も路夏でうっせーよ! なにのぶ〇ドラ時代のオープニングみたいなテンポで喘いでんだ! 気が散るんだよ!!!」


「実、落ち着いて! 今は令和よ! そのネタはもう分からない人が多いわ!」


「ママ、それは流石に嘘だよ。ドラ〇ンボールの声優さんはまだ野沢さんだよ? 今度ガン◯ムSEEDの映画もやるし、君◯ぞだってリメイクするんだよ?」


「その人は特殊例だから……ガ◯ダムもパ◯ンコ化したり大人の事情があるでしょうし、君◯ぞリメイクは今クラウドファンディング中だから是非確認を……」


「つーか脱線しすぎだろ! 俺は寝取られてる最中なんだぞ! ネタに走るな! 舐めてんのか!!!」


「あ、丁度路夏ちゃんは舐め始めたな。ひと仕事やり遂げた津太郎くんを」


「えっ、嘘でしょ!? 早すぎない!?」


「俺からすれば展開が早すぎるんだが!!??」


「じゃあとりあえずリピートしようか」


「しなくていいっ! やめ『あんっ♡ あんっ♡ 気持ちいいよぉ♡』二周目始まっちゃったよもおおおおおっっっ!!!」


 怒涛の展開に、思わず頭を抱えてしまう。

 あまりにハイスピードすぎて、こんなんついていけるはずがない。


「実、お母さん、ひとつ提案があるんだけど」

 

「今度はなんだよ!? いいから今は動画の再生を止め……」


 いい加減俺も限界に近づいていたので、話しかけてきたお袋にもついキレ気味に対応しかけたのだが、



「リベンジポ◯ノをしましょう!」



 お袋からの予想外すぎる提案に、思考が一気に停止した。


「…………はい? リベ、え?」


「リベンジポ◯ノをしましょう!」


「なんで!?」


 ホントになんでだよ!?

 親の口からリベンジポ◯ノとか、絶対聞きたくなかったんだが!?


「だってホラ、路夏ちゃんはこんなに気持ちよさそうにしてるのに、実は私たちと一緒に動画を見ることしか出来ないとか可哀想じゃない」


「だからってリベンジポ◯ノはないだろ! 同情とかいらんし、そもそも動画なんて撮ったことねーよ!」


「あらそうなの? 真面目なお付き合いしてたのね」


「チッ、なんだ実、お前動画撮ったこともないのか。父さんたちはよくプレイ動画を撮影しているというのに、そんなことだから寝取られるんだぞ。我が息子のくせに使えんやつめ」


 舌打ちしたうえ、露骨に蔑んだ目で見てくるクソ親父に、俺は思わずブチ切れる。


「知らねーよ!? てか知りたくたくなかったよ!? 息子に親の性事情とかゴミみたいなこと教えてんじゃねぇぞコラァッ!?」


「そうだわ! 実が動画を撮ってないなら、私たちの動画を送ればいいじゃない!」


「お袋はお袋でなに言ってんの!?」


 親父も親父で大概だが、お袋もとても正気とは思えないことを言い出した。


「あら、なにか問題あるの?」


「大アリだよ! 俺の寝取られからなんでお袋たちの動画送る話になるんだよ!? 意味わかんないんだけど!?」


「だって私、パパに喘いでる時の声が汚くて萎えるってよく言われるのよ。お母さんはただ気持ち良くなってるだけなのにねぇ」


 知りたくなかった、そんな情報。


「確かにママの喘ぎ声は汚いからなぁ。ママはテンションが上がってくると『お゛お゛っ♡』とか『これやっべ♡』とか『おほぉぉぉぉ♡』とか言ってくるし。寝取られ好きのパパとしてはノリノリすぎて、完堕ちしているみたいで萎えるんだよね」


 もっと知りたくなかった、そんな情報……!


「でしょ? 幼馴染ちゃんみたいに綺麗な声で喘ぎたいし、幼馴染ちゃんにママが喘いでる動画を見せれば、アドバイスを貰えるかもしれないし、まさに一石二鳥だわ!」


「どこが!? 元カレの母親からそんな動画送ってこられたら恐怖だよ!? リベンジどころかただの特級呪物だろそれは!?」


 俺が路夏の母親からそんな動画を送ってこられたらと思うと、正気でいられる自信が全くない。

呪いの動画が領◯展開されて、頭無◯空処まっしぐらだ。

 そんなことを自分の親がやろうとしているというのだから、今の俺の心境はヤケクソになった夏◯状態というか、もうこの世の終わりみたいなもんである。


「ちなみに言っておくと、ママのオホ声があまりに頭に残りすぎて、実の名前を決める時の候補にオホ太郎が残ってたりしたぞ。初小岩オホ太郎に初小岩本気大工マジでイク……うーん、どちらもなかなか語呂がいいから迷ったなぁ。いい思い出だ」


「思い出の中に閉まっとけよそれはよぉっ! パ◯スト太郎レベルの名前付けようとしてたことを息子に教えんじゃねぇ!!!」


「まぁまぁ落ち着いて実。それより早く私のオホ声動画で路夏ちゃんにリベンジしましょ。実から津太郎くんに乗り換えたこと、路夏ちゃんに後悔させてあげるのよ!」


「俺は今ふたりの子供に生まれたことを猛烈に後悔してるんですけどぉっ!」


 それでリベンジになると思っているのなら、俺の両親はどうかしているとしか言い様がない。

 寝取られたことすら既に吹っ飛び、生まれに対する底なしの絶望が俺を包み込もうとした、その時だった。


「じゃあママ、どの動画を送る?」


「この前撮ったこれがいいんじゃないかしら。一応確認のために再生しましょ」


 息子を置き去りにした両親が、そんなことを話し始めたのだ。

 繰り返し言うが、息子がそこにいるのに関わらずである。

 一瞬思考が停止し、止めることが出来なかったのも無理はないのではないだろうか。


「え、あの、やめ」


『おほおおおおおおおおおおおおおおおお♡♡♡♡♡ やっべ♡ パパのこれマジヤッベ♡ お゛っ♡ お゛っ♡ やべっ♡ つっよ♡ 強すぎてムリ♡ かてね♡ エッグ♡ ハムエッグ♡ ホントスッゲ♡ もうこれマジでイ「うわああああああああああああ!!!!!」


 その結果、ダイレクトに呪詛を耳にしてしまったことで脳が完全に破壊され、俺はその場から逃げ出した。

 地獄だこれ。マジモンの拷問としか言いようがない。


「うわああああああああああああ!!!!!」


 生涯において絶対に聞きたくなかった母親のオホ声を耳にした俺は、記憶から完全に抹消するため街を駆け巡り、深夜まで家に戻ることはなかったのであった。



  ◇◇◇



「それではこれより、両家を交えての家族会議を行いたいと思います」 


「   」


 どうしてこうなったんだろう。

 世にも恐ろしい呪詛を聞いてしまった翌日、路夏の家に両親共々呼び出され、集まった両親と路夏の家族、そして津太郎を見ながら、俺は両手で頭を抱えていた。


「司会は路夏の母親である私が務めさせて頂きますがよろしいですね?」


「はーい♪」


「問題ないですね」


 路夏のおばさんの言葉に、親父とお袋が頷きを返す。

 どちらも能天気な顔をしており、気負いひとつ見られない。

 なんで呼び出されたのかまるで分かってない様子である。


「ヒ、ヒィィィ……!」


 ちなみに路夏は完全に怯えていた。

 青ざめた顔でお袋を見ているが、表情は完全に化け物と出会った人のそれである。

 それだけでもう色々察することが出来たが、なんらかの心的外傷を負ったのは間違いないだろう。

 心中察してあまりあるというか、思わず同情してしまうのも無理はないのではないだろうか。


「あ、あの清楚な見た目のおばさんが、あんな下品なオホ声をあげるなんて……」


 対し、そんな路夏と正反対の顔をしているのが津太郎だった。

 何故か赤らんだ顔でお袋のことをガン見している。

 ハッキリ言って人の母親を見る目じでは断じてない。気持ち悪いにも程がある。


「あの清楚そうな奥さんが、あんな下品なオホ声を……なんてことだ……!」


 ついでに言うと路夏のおじさんも、津太郎と似たような反応をしていた。

 ただこっちはおっさんが明らかに発情した顔でハァハァ言ってるので、危険度が通報レベルに増している。

 目覚めてはいけないナニカに目覚めた感が半端ないが、気持ち悪いことに変わりはない。

 というか、重ね重ね言うが人の母親をそんな目で見ないで欲しい。嫌悪感で吐きそうだ。


「本当に、どうしてこうなってしまったんだ……」


 理由は分かってる。

 分かってるけど、正面から向き合いたくない。早くも逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。  

 そうこうしているうちに、路夏のおばさんが話し始めた。


「では早速ですが、本題に入らせて頂きます。つい先日、我が家に路夏宛てにあるDVDが届きました。前々から路夏が見たがっていた映画であったこともあり、たまたま我が家に来ていた津太郎くんと一緒に私たちは家族揃ってこのリビングで鑑賞することになったのですが……」


 なんだろう。

 内容に凄まじくデジャヴを感じる。

 というか、流れからこの後の展開も容易に想像できるというか……。

 


「DVDを再生した途端、画面に『清楚人妻、オホる♡』の文字が浮かびあがったんです……!」



 悲壮感たっぷりな表情で、おばさんはとんでもないことを口走った。


「え、せ、清楚? オホ? えぇ……」


「呆気に取られる私たちをよそに、『おっほおおおおおおおおおおおおおおおお♡♡♡♡♡』という下品すぎる声が聞こえてきたかと思えば、次の瞬間映し出されたのは……うぅ、私の口からはこれ以上はとても……!」


 嘆くおばさんだったが、呆気に取られてるのはこっちも同じだ。

 知り合いの口から、『おっほおおおおおおおおおおおおおおおお♡♡♡♡♡』なんて聞きたくなかったし、なにより記憶の底に封印しかけていたオホ声が蘇りかけて頭がいた……


「ただ、あれを見たことで路夏が強烈なショックを受けたことだけは確かなんです。よりによって送り主が彼氏である実くんだったから尚更……!」


「え!? おれぇっ!?」


 いきなり名前を呼ばれ、俺は思わず目を剥いた。

 全く身に覚えがないし、この飛び火の仕方はいくらなんでも不意打ちすぎる。

 

「そうよ! 実くん! 貴方、いったいなにを考えているの!? 自分の母親のあんな動画を送ってくるだなんて普通じゃないわよ! 私、貴方のことを見損なったわ!」


「待っておばさん! それは誤解だ! 俺はそんなことしてないしするはずない!」


「嘘おっしゃい! 名義は確かに貴方のものだったし、動画に映っていたのも間違いなく貴方のお母さんだったのよ! 他の誰がそんなものを送れるっていうのよ!」


「違うよおばさん! 俺は恥ってもんを知ってるし、そんな黒歴史確定かつトラウマになるようなことをするはずがないってばよ!!!」


 母親のオホ声動画を送りつけるくらいなら、舌を噛み千切って死ぬことのほうを俺は選ぶ。


「まだそんな言い訳を……! 実くんのことは自分の息子みたいに思っていたけど、こんな嘘をつくような子だったなんて!」


「だから違うんだって! 信じてくれよおばさーん!!!」


 だが俺の渾身の弁明は路夏のおばさんには届かなかったらしい。

 怒り心頭としか言いようのない形相で俺を睨んでくるおばさんに、俺は半ば涙目になりながらも、説得と懇願を続けようとしたのだが、


『あんっ♡ あんっ♡ 気持ちいいよぉ♡』 


『!!??』


 突如響き割った喘ぎ声。

 その場にいた全員の思考と意識が、一気にそちらに持って行かれた。


『へへっ、どうだ路夏? 俺のほうが、実のやつよりずっと気持ちいいだろ?』


『うん♡ 津太郎くんのほうが、実よりずっとすごいよ♡ ねぇ、だからもっとぉ♡』


「こ、これは……」


「路夏ちゃんの喘ぎ声よ。自分の娘の声ですもの。聞き間違えるはずがないわよね?」


 動揺を隠せずにいるおばさんに、静かに語りかける声。

 いつもと全然違うけど、それは間違いなく俺のお袋の声だった。


「う、浮気? 路夏が?」


「そう、路夏ちゃんはそこにいる津太郎くんと浮気をしていたの。動画だってあるし、これが何よりの証拠よ。実はなにも悪くなんかないわ!」


 忽然とした態度を見せる母親に、俺は思わず面食らう。


「お、お袋……俺のために……」


 普段は空気が読めなくて、ひどい天然な人だと思っていたけど、俺をかばってくれるなんて……。

 その姿は間違いなく母の、自分よりずっと多くのことを経験してきた大人のそれだった。

 だった、のだが。


「実はただ、路夏ちゃんにリベンジポ○ノをしようとしただけですもの! 私たちはそれを手伝っただけで、実には何も悪くなんてないんですからね!」


 お袋の言葉に、場の空気が静止した。


「え? リ、リベンジポ○ノ? え?」


「そう! 実は彼女を寝取られたのよ! そのことが許せなくて懲らしめるために、私たち夫婦であの動画を送ったの! 見た感じ反省しているようだし、効果はテキメンだったようでなによりね!」


 さらにお袋はとんでもないことを言い放つ。

 てか動画を送ったのお袋かよっ! しかも俺名義とかなんでだよっ!? あまりに迷惑すぎるんだが!!??


「懲らしめとオホ声動画に、一体何の関係が!? なにがリベンジ!? WHY!!??」


 驚愕に目を見開く路夏のおばさんだったが、その疑問には全面的に同意しかない。

 俺にもさっぱり分からんし、息子に黙って送った意味も分からない。

 分からないこと尽くしで頭が変になりそうだ。


「まぁそういうわけで路夏ちゃんも反省したでしょうし、私にアドバイスをくれないかしら。どうしたら綺麗な喘ぎ声を出せるのか、ぜひおばさんに教えてくれない?」

 

「え、ちょ、え???」


「ちょっとなに言ってるんです!? うちの娘に変なことを要求しないでください! 訴えますよ!?」


「待ってくれ母さん!!!」


 既にこの場はカオスの坩堝と化していたが、さらに割って入る人がいた。

 

「な、なに、あなた? さっきから黙っていたのに、急に大声なんて出して……」


「初小岩さんの奥さんになんてことを言うんだ! 奥さんはなにも悪くないんだぞ!」


 なにを隠そう、路夏のおじさんである。

 何故か知らないが、おじさんは奥さんであるおばさんに凄い剣幕で迫っていた。

 

「え、で、でもあんな動画を観たことで路夏がトラウマを……」


「トラウマがなんだ!? 浮気していた路夏が全部悪い! 謝りなさい路夏! そして喘ぐんだ! 奥さんが求めてくれているんだぞ! 期待に応えなくてどうするんだ!!??」


 おかしなことを次々と口走るおじさんの目は血走っていた。

 完全に開いてはいけない扉を開いた人の目をしており、関わってはいけない人と化しているのは明らかだ。


「で、でも! 私には無理だよ! こんなところで喘ぐなんて……!」


「無理じゃない !動画の中では喘いでいただろう!? それともパパたちの前では喘げないとでも言うのか! 奥さんを見なさい! あんなに清楚な見た目なのに、あんなに下品にオホ声を出せるんだぞ! うちの母さんにも見習って欲しいくらいだ!!!」


 しかしこいつら、さっきから清楚清楚言いすぎである。

 高校生の子持ちの母親に今更清楚もクソもないと思うんだが。妙なとこに拘るあたりが手遅れ感半端ない。


「ちょっ、なに言ってるのお父さん!? 貴方正気なの!?」

 

「正気だとも! そもそも母さんには前々から不満があったんだ! いつも上品にしか喘がないから興が乗らなくなるし、もっと下品な声を出して欲しかったんだよ! 奥さんの動画を見て、ようやく目が覚めたんだ!!!」


 正気だとおじさんは言っているが、その言動は明らかに正気な人のそれではなかった。

 言ってることの全てがまともじゃない。


「なっ、なによそれっ! 私にあんなふうに喘げとでもいうの!? 無理よ! 私はあんな下品にはなれないわ!」


「だからダメなんだと言っているだろう!? 男は皆下品な喘ぎ声が好きなんだよ! そうだろう実くん、津太郎くん!」


「はぁっ!?」


 こっちに話振るんかい!?

 しかも答えにくすぎる内容のやつじゃねーか! こんなん答えるはずねーだろ!


「はい、その通りだと思いますおじさん!」


「おお、やはり君は分かってるね津太郎くん!」


「ええ、おじさんも流石です! オホ声は最高ですよね!」


 お前は頷くのかよ!

 お前が寝取った路夏はお袋みたく下品に喘がないじゃねーか! なんのために寝取ったんだよ! ツッコミどころが多すぎだろふざけてんのか!!! 


「つ、津太郎くん……? なに言ってるの? あんなふうに喘ぐのが好きだなんて、そんなの嘘だよね?」


「すまない路夏、俺は気付いちまったんだ。俺は実のおばさんみたいに喘いでる人が好きなんだってことに……」


「そ、そんな……!」


「私もそうだ。恥ずかしながらあの動画を見て、自分の本当の性癖を知ってしまった。もう元には戻ることは出来ない……!」


「あ、貴方……!」


 なんか瀬谷家の人たちは盛り上がっているが、俺は完全に蚊帳の外である。

 ふた組の夫婦とカップルの破局模様を目の前で、それも母親の喘ぎ声が原因で見ることになろうとは、お釈迦様でも予想出来なかったに違いない。


「そんなわけで、実のお母さん! 俺と付き合ってくれませんか! そして俺にその下品なオホ声を聞かせてください、お願いします!」


「どさくさ紛れになに言ってんだお前」


「あぁっ!? ずるいぞ津太郎くん! 私だって奥さんの声を聞きたいのに!?」


「おじさんもおじさんでなにを言ってるんだ」


「ついにママを寝取られる時が来たか……! 実、父さんもそっち側に行くからな。お前ばかりいい思いができると思うなよ! ざまぁ!!!」


「頼むから親父は死んでくれないか、今すぐに」


 もうダメだ。いい加減ツッコミきれん。

 この場にいる男で、もはやまともなのは俺しかいないかった。

 どいつもこいつも、あまりに業が深すぎる。


「あらあら。ごめんなさいね。私はパパ一筋だから津太郎くんは無理なのよ。そもそも津太郎くんはもう早いじゃない。すごく早いわ。テクもないしやっぱり早いし。もう少し持つようになってから出直してきて頂戴。今の津太郎くんじゃ満足させられるのは路夏ちゃんくらいのものよ?」


「   」


「お袋、人を殺す魔法ゾルトラークを連射するのはやめろ。津太郎はもう死んでるぞ」


 お袋の口撃は津太郎を貫通し、見事に灰となっていた。

 完全に魂が抜け落ちているが、あまりにも悲惨すぎて全くもって嬉しくない。


「んほおおおおおおおおおおおおおおおお♡ 私を見て、津太郎くーん♡」


「あへええええええええええええええええ♡ これでどう!? 初小岩さんの奥さんにも負けてないし満足でしょ!?」


 あまりの惨状に頭が痛くなっていると、今度は路夏たちがオホ声をあげていた。

 彼女であった幼馴染とその母親が白目を向いて叫ぶ姿があまりにもキツすぎて、俺は思わず目を伏せる。


「寝取られって、誰も幸せにならないんだなぁ……」


 カオス極まる状況の中、俺はヤバ過ぎる現実から目をそらし、そう結論付けるのだった。





 ちなみに後日。


「おほおおおおおおおおおおおおおおお♡♡♡♡♡ みのるぅ♡ 実のお母さんにオホ声について教えてもらったら戻らなくなったんだけど♡ ママも似たような状態だしやっべ♡ マジヤッベ♡ これで日常生活送るの無理すぎる♡ お゛お゛っ♡」


「   」


 ひどすぎる相談を幼馴染から持ちかけられ、さすがに手助けをしたらさらに状況が悪化し、我が家まで離婚騒動に発展することになるのだが、それはまた別の話である。





   ◇◇◇


久しぶりにリハビリがてら短編書きましたがこれはひどい……

読んで面白かったと思えてもらましたらブクマや↓から星の評価を入れてもらえるととても嬉しかったりしまする(・ω・)ノ

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幼馴染のNTR動画が送られてきたことに気付かず動画を家族で鑑賞してしまい地獄が生まれたが、母親がリベンジ特級呪物を幼馴染に送りつけたことで向こうの家族会議に呼ばれてしまい、とんでもないほど地獄です くろねこどらごん @dragon1250

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