第14話 えっ? 俺って『魅了(チャーム)』されてるの!?
『桜凛学園・迷宮科』に入学して、はやくも三日が経った。
もっとも新入生向けの行事に参加するばかりで、ようやく今日から半日授業が始まっばかりなのだが。
「はぁ……三日も経つのに、いまだにアカシさんが隣に座らせてくれない件」
「というか君、なんでそこまで彼女に固執してるのさ?」
俺の独り言に答えたのは、なぜか俺の隣を定位置としている『久堂(クドウ)透(トオル)』。
中性的な整った顔立ちをした、それで人当たりも性格もいい『いけ好かないイケメン野郎』である。
「えっ? そんなこと決まって――」
『何をそんなわかりきったことを……』と、呆れ顔でクドウの質問に応えようとして、そこで言葉に詰まる。
どうして彼女に固執しているのか、その理由が自分でもまったくわからないのだ。
少なくとも彼女――アカシシズカという名前は俺の記憶には無い。
「……確かに……初対面のはずの、それも顔も見えない。
そこそこ強めに拒絶されている女の子に対して三日も執着し続けるとか……俺、おかしくね?」
「その理由を訊いているのは僕なんだけどね?」
女性が好きか嫌いかと言われれば、大きな声で『大好きです!』と即答できる俺ではあるが、さすがに見ず知らずの相手をストーカーするような人間では無かったはず……なのに。
「……もしかして俺が卵から孵って最初に見たのがアカシさんの顔だったとか?」
「君って卵生だったの!?」
しかし、しかしである。
振り返ってみれば、家に帰ってから彼女のことを考えたことはないんだよなぁ。
……あれ? もしかして学校でだけ、何らかの状態異常(デバフ)でも掛けれられてるんじゃ?
半信半疑ながらも、小声で『鑑定』と唱える。
視界に浮かび上がったステータス画面、俺の名前の隣には【状態異常:魅了・軽度】という追記。
「いや、学校に通ってるだけなのに状態異常ってどういうことだよ!?」
「わっ!? いきなり大きい声を出さないでよ!!」
「お、おう、悪い悪い」
プンスコと頬を膨らませるクドウ。
近くの席の女子から上がる『可愛い~!!』の黄色い声。
口元が引き攣る程度にイラッとしてしまうが……今はそれどころじゃない。
状況からして、俺を魅了してるのはアカシさんだろう。
隣のこいつもなんかこう、やたら甘い匂いがするし? 時々仕草に妙な色気を感じてしまうこともあるから可能性はゼロではないが……やはり彼女だとしか思えない。
でも、それならそれで――
「なぁ、クドウはアカシさんにこう……熱いパトス的なものを感じたりする?」
「君って頻繁に意味不明な横文字使うよね。
んー、そうだね。彼女とは中学が同じだったから、その境遇に同情はしてるけど、それ以上の感情を持ったことは無いかな?」
「なるほど。同情、ね……」
現状で俺が彼女に持っている気持ちを言葉にするなら、『興味』『仄かな恋愛感情』そして役に立ちたいと思う『奉仕の心』。
同情などこれっぽっちも感じていない。
それにトオル以外のクラスの連中にしたってこの数日、彼女に話しかける人間は一人もいなかったのだから、魅了されているのはたぶん俺だけだろう。
「いや、それはそれで……」
どうして俺だけなんだ?
もしシズカさんが魅了系のスキルを持っていて任意に使えるとして、それを俺だけに掛ける理由が解らない。
「つまりアクティブな物ではなくパッシブ系のスキル?
それも対象が勝手に選ばれるような?
仮面越しではあるが、彼女とは初日に目を合わせているので魔眼という線も……」
「隣に座る級友が自分の世界に籠もっておかしなことを口走りだした件」
さて……どうしよう?
こんな理由の解らないデバフが常時掛かってるとか怖すぎるんだけど?
ていうか、普通に考えればシズカさんを『鑑定』すれば解決できる程度の内容のはずなのに、俺のゴーストが、彼女にそれを行うことを拒否してしまう……まぁ、そもそも敵対者でなければ、相手の許可なく『人』の鑑定はしないって決めてはいたんだけどさ。
ということで、俺が選んだのは正攻法。
視たいなら相手に許可を貰ってから鑑定すればいいだけだもんねっ!
「アカシさん! 俺に君のすべてをさらけ出してくれないか!?」
「あっちへ行きなさい変態」
「大丈夫、恥ずかしいのは最初だけだからっ!!」
「警察を呼ぶわよ?」
しかし、彼女の返事には取り付く島さえもなく玉砕してしまう。
「……なぁトオル。どうして彼女はあんなに頑ななんだろう?」
「むしろ君はどうしてあのお願いが受け入れられると思ったのかな!?
そもそも君は彼女に何がしたかったのさ?」
「何って……そうだな。
俺がシズカさんに魅了されてる理由を知りたかっただけ、かな?」
「魅了って……それって彼女に一目惚れってこと?
ていうか、どう思い返しても『肌を見せろ』って言ってたようにしか聞こえなかったんだけど?」
「マジかよ!?
はぁ……日本語って……難しいんだな」
「それはただ、君がおバカなだけなんじゃないかな?」
入学から一週間。
相変わらず『クラス(アカシさんの近く)』でいる間だけ、『状態異常(チャーム)』が続いてるが、彼女のそばに居たいという気持ちが抑えきれないことと。
「あなた、人の言ってることが理解できないのかしら?」
「関わらないでって何度も言っているわよね?」
「それは同情? それとも哀れな女に施しでもしてるつもり?」
「自己満足なら他でやってほしいのだけれど?」
「……もしかしてあなた、そういう性癖なの?」
彼女に散々罵倒される以外の弊害は無いので放置中の俺。
……もちろん未だに彼女の隣の席に座ることは許してもらえてはいないんだけど。
ただ、俺のことを罵るその声音から怒りや苛立ちは感じられず。
勝手な思い込みだが会話のドッヂボールを楽しんでいるふしさえあったりなかったり。
もっとも、迷宮科なんていう特殊なクラスに通ってることもあり、そんな普通の学生のような毎日を送るだけで終わるはずもなく――
「先週末に連絡してあるので覚えてると思いますが、今日は午後から逢坂第二迷宮の施設見学に向かいます。
目的は『学生用仮許可証』の発行と『貸出装備品の試着』ね。
学校から出るからといって羽目を外さないように。
あたりまえだけど向こうで他校生と揉めたりしないでね?」
ダンジョンの探索もカリキュラムとして組まれているわけで。
「あと、次回――といっても明日のことなんだけど。
次は迷宮の中に入ることになるから、それまでに各自で班もちゃんと決めておいてね?」
班。
たぶんパーティのことだよな?
「えっ? 誰が前衛か後衛か、『クラス(職種)』すら解らないのに、そんなの無理だろ?」
「クラス……って学級のことだっけ?
一年では班をくめるのは同じ組の人だから、そのあたりは気にしなくてもいいと思うよ?」
会話になっているようでなっていない俺とトオル。
それにしたって、情報も何もなく――ああ、あれか!
許可証の発行をする時に職業とかスキルの鑑定……いや、有名探索者のカズラさんですらスキルのことを知らなかったし、アイテムの鑑定もまともに出来ない魔道具しか存在しないんだった。
「担任! 質問いいですか!」
「何よその斬新な呼び方……どうしたの、カシワギくん?」
「迷宮に入るには絶対に班を組まないと駄目なんですか?」
「そうね。玄人の中には一人で潜るような強者もいるみたいだけど、迷宮科の三年間は強制だと思ってちょうだい」
「担任、世の中には友達のいないクドウくんのような男も居るんですよ!?」
「カシワギくん、現実を見なさい。
クドウくんに居ないのは男友達であって、一緒に活動したいという女子はごまんといるのよ?」
「死ねばいいのに」
「勝手に話に巻き込んでおいて辛辣すぎじゃないかな!?」
何にしてもソロ活動は許されないらしい。
ていうか、その話を聞いてたアカシさん。
表情はわからないけど、明らかに挙動不審になってるんだけど?
……これって間違いなくチャンスだよね?
「てことでアカシさん! 一狩り行こうぜっ!」
「今日は迷宮に入るわけではないのだけれど?
はぁ……そうね。
あなた以外に私を誘ってくれるような物好きはいないでしょうし、いいわよ」
よし! これで一歩前進だぜ!!
「担任! 一人じゃなく二人なら大丈夫なんですよね!?」
「ええ、学校としては四人以上の編成を勧めてるんだけど……というかあなたの隣に座ってるクドウくんが泣きそうな顔で見てるわよ?」
「気のせいです」
「気のせいじゃないから!
えっ? 君、ここにきて唯一の友人である僕に声を掛ける気ゼロなの!?」
「むしろお前ならどこにでも入れるだろ。むしろどの女子にも入れ――」
「そんなことしないけどね!?」
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