第15話 『入場許可証(仮)』と『水モチ』。

 あくびをしているうちに三限目までの座学(通常授業)も終わり。


「普通なら次は四限となるんだけど、今日はこれから少し早めのお昼にはいります。

 そのあとは大型車両(バス)に乗って第二迷宮まで移動することになるから、正午ちょうどまでには食べ終わって教室で待ってるようにね?

 班決めであぶれてる子はいない――」


 そんな担任の問いかけに、そっと一人だけ手が上がる。

 もちろん俺でもアカシさんでもクドウでもないからな?


「……いたみたいね。

 とりあえず今日はどこか人数の少ない班に――そうね、カシワギくん」


「別れたばかりの彼女と一緒に行動しろとか担任は正気ですか?」


「あっ……なんかごめんなさい……。

 ていうかカシワギくんって彼女がいたんだ!?」


 そこ、そんなにビックリするところじゃないよね?


「で、でもほら、もしかしてこれを機会に仲直りしたりとか」


「もし担任が入院して生死の境を漂っている時、彼氏が友達とシンパシー感じてデキちゃったら、その男とよりを戻そうと思います?」


「……思わないわね。むしろ絶縁するわね」


「そういうことです」


「なんかこう本格的にごめんなさい……。

 ヤマグチさん、とりあえず今日は女子の班の後ろにでもくっ付いて行ってうまいことやってください」


 涙目になったコケシがこちらを睨んでくるが関わるつもりは無いのでスルーである。



 昼食後は予定通り、桜凛学園迷宮科一年生総出でバス移動。

 イスカリアでも旅といえば徒歩(馬車での長距離移動は尻が死ぬ……)だったし、こちらに戻ってからも歩きか電車、たまにショウコさんの車――それなりの高級車だったので、揺れる乗り物は久しぶりで。


 乗り物酔いしそうになりながら到着したのは、久しぶりの『第二迷宮総合複合商業施設(ダンジョン・モール)』。


 どうやら今日は各班に案内のお姉さんが付くらしく。

 ずらりと並んだ迷宮管理局の綺麗どころ……やはりその中でもずば抜けてるのはショウコさんなわけだが。

 俺のことを見つけた彼女に軽く手を振るとニコリと微笑んでくれる。


 おそらくこの施設のえらいさんであろう、しっとりとした感じの、上品でいて色気のあるお姉さんの挨拶が始まる――前に手を上げて質問。


「担任! 案内してもらうお姉さんの指名はありですか?」


「カシワギくん。先生、学校を出る前に騒がないように言ったよね?

 ここはそういうお店じゃないから指名とか出来ません」


 出来ないんだ……ショボンとしそうになったとき、えらいさんが答えてくれた。


「ふふっ、面白い生徒さんですね?

 どの職員がどの班の担当と決まっているわけではありませんので、学生さんから指名していただいても別に構いませんよ?」


 とたんにざわつく男子生徒一同。

 ……まぁ女子生徒からはゴミを見るような、冷め切った目で見られてるわけだが。

 でも、オッサンにとって女子高生に蔑んだ目で睨まれるとかただのご褒美だからな?


「ありがとうございます! じゃああなたに」


「カシワギくん!?」

「ユウギリさん!?」


 そのまま前に出てえらいさんの手を握ろうとしたら――後ろから担任に羽交い締めにされ、前からショウコさんに手を広げてブロックされた。何そのテロリスト扱い。


「ふふっ、本当に面白い生徒さんね。

 でもごめんなさい、今日は仕事が詰まっていて私は案内は無理なの」


「いえいえ、こちらこそ騒がしい人たちばかりで申し訳ないです。

 ほら! 担任もちゃんと謝って?」


「なんで先生が悪いみたいになってるの!?」


 その後、『六条さん(さっきのえらいさん)』の短い挨拶が終わり、俺たちはショウコさんの案内で施設の中に。


「……いや、どうして担任まで付いてきてるんです?」


「あなたがこれ以上何かやらかさないか監視してないと怖いからです!

 ていうか迷宮管理局の支部長を口説こうとする学生とか前代未聞だからね!?」


「いや、ノリの良いお姉さんだったからつい?

 ていうか担任、ただの探索者ジョークにそこまで過剰反応してたら、これからお笑い芸人としてやっていけませんよ?」


「私は芸人じゃなくて教師なんだけどね?

 いやもう、フリとかじゃなくて本気で控えてね?

 もしも先生がクビになったら、その時はあなたに責任取ってもら――」


「タンニンさんいくらユウギリさんが可愛らしくて頼りがいのある殿方でも教師が生徒にそんな冗談を言うのはどうかととりあえず学校に報告後各所からあなたに圧力をかけさせてもらいますね?」


「カシワギくん、職員さんが早口で捲し立ててきて怖いんだけど!?

 ……その方ってあなたの知り合いなのよね?」


「ええ、知り合いというか、『家族(姉)』みたいな人です」


「もう、ユウギリさんったら、いきなり家族『(嫁)』だなんて……」


 頬を押さえてその場でクネクネし始めるショウコさん。


「ははっ、やっぱり君といると面白いなぁ」


「私はあまり騒がしいのは好きじゃないのだけれど」


 ケラケラ笑うクドウと、その言葉ほど嫌そうでもないアカシさんだった。



 リーダーシップを取りそうな見た目のくせに、これといって指示を出そうともしない『男前クドウ』。

 そして鉄仮面姿という、インパクト抜群の『異形のアカシさん』。

 さらには、この日本ではめったに見かけない『金髪のショウコさん』。


 ……他校の生徒どころか、桜凛学園の生徒からも二度見される、なかなかに濃いメンツのパーティで行動中の俺たち。


「許可証の発行って言うからもっと面倒かと思ったら」


「窓口に並んでサインするだけで終わったね?」


「それは学校――正確には担任である私が!

 事前に必要書類をまとめて申請しておいたからなんだよ?

 遠慮なく感謝してね?」


「なにを恩着せがましいことを。

 割り当てられた仕事をこなすのは、社会人として当然のことでしょう?」


「カシワギくん!

 職員さんが先生にだけやたら辛辣なんだけど!?」


「でも、他の級友と比べても僕達はかなり早かったみたいだし。

 これは三好先生が役に立ったんじゃなくて、カシワギくんの知り合いの職員さんが有能だったんじゃないかな?」


「クドウくんまで!?

 先生、そういうのよくないと思う!!」


 ……ふてくされてる担任のことはスルーして。

 ナンタラカンタラ許可証(顔写真付きの電磁カード)も無事に発行され、次に向かうのは装備品の貸し出し(レンタル)受付。


「お店と言うより倉庫と言う感じね」


 アカシさんの言う通り、乱雑ではないが、それほど丁寧に扱われてもいないであろう武器、防具の数々。

 まぁ俺だって男の子だから武器がいっぱいあるってだけでテンションも上がるんだけどな!


「……てか片手武器も両手武器も、日本刀(カタナ)ばっかりだな」


「向こうに槍や弓もあるけど……逢坂第二の一階層じゃ取り回しが悪いからね」


「もちろんそれは分かってるんだけどさ」


 授業で習ったとおり、この第二迷宮の一階層は洞窟型。

 その内部は三つに分かれ、区画により遭遇する魔物が変化する。


「確認だけど、まずは一階の『甲』区画で『水モチ』を倒す。それでいいんだよな?」


「そうだね。一階層なら他の区画――『乙』の犬小人(ひょろっとしたコボルト)や『丙』の太蚯蚓(ウジ虫のように太ったミミズ)でもいけると思うけど……そこは班長である君に任せるよ」


「私も異論はないのだけど……他の学生がほとんど飛ばしてしまう水モチを、あえて狩る理由は何かあるのかしら?」


 もちろん「レベル1ならスライムからでよくね?」以上の理由なんて何もない。

 ……のだが、正直に言うのも癪なので、それっぽく御託を並べることに。


「全員初めての迷宮だからさ。

 最初の戦闘で変なトラウマ……精神的に追い込まれそうな相手となんて戦いたくないだろ?

 例えば犬人。紛いなりにも愛玩動物に見え……無くもない外見だし、いきなり二足歩行する生き物に斬りかかるとか敷居が高くないか?

 太蚯蚓にしたって、丸々太ったミミズとか気持ち悪いじゃん。

 女の子ならあまり相手にしたくないと思うんだけど……どうかな?」


「へぇ……カシワギくんって奇行が目立つからオカシナ子だと思ってたけど、ちゃんと考えて行動してるんだ?」


 ちなみに『水モチ』はとは『ブルースライム』のことである。

 ……いやまぁ、確かに見た目はそんな感じだけれども!


 あとこの担任は、俺のことを一体何だと思ってるんだろうか?

 もちろん適当にそれらしいことを口にしただけだから文句も言えないんだけどさ。

 それはそれとしてクドウ。

 頬を染めながら、


「ぼ、僕のことは別に女の子扱いしなくてもいいからね?」


 とか言ってるけど、お前のことなんて最初からカウントしてねぇよ!

 ここで言う『女の子』はアカシさんだけなんだよ!


 ため息をつきたくなる気持ちを抑え、スライム用の武器を探す……いや、ここは専門家(おみせのひと)に聞いたほうが早いか。


「……てことでショウコさん。

 刀じゃなく直剣ってありませんかね?

 出来ればレイピアがいいんですけど、なければエストック……いや、ちょっと長いかな。

 そこそこ丈夫で扱いやすい剣ってあります?」


「カシワギくん、余計なお世話だけど、モチを相手にするなら普通は剣じゃなく盾で受けて、鈍器で潰すのが――」


「本当に余計なお世話なので、素人は黙っていなさい」


「素人じゃなくて迷宮科の教師なんですけど!?

 それに管理局の職員さんだって偉そうに言えるような経験は――」


「私は二十階層級探索者ですがなにか?」


「……カシワギくん!

 あの人が先生のことをいじめるの!」


 シランガナ。

 ていうか、ショウコさんって元探索者だったんだ?


「とはいえ、タンニンさんの言ってることも的外れではありません。

 どこで知られたのはわかりませんが、それはあまり初心者にはオススメできない戦い方ですよ?

 水モチといえど、直撃を受ければそれなりに痛いですし」


「ははっ、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ?

 これでも案外小器用なんで。

 それに、いざとなったらその男を盾にしますし」


「……そうですか。なら、いいのですが」


「どうして職員さんはそれで納得したのかな?

 全然よくないからね?

 責任持って思いとどまらせてほしいんだけど?」

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