第13話 死臭漂う仮面の少女。
心機一転、新入学の朝。
振り袖袴姿の女学生さんたちに囲まれ、ホッコリ気分で登校していた俺。
そんな幸せな時間も、朝っぱらからよくわからないカップルに絡まれたことで、ちょっとゲンナリ。
話を聞いてみたらそいつら、なんと小学校からの知り合い……ギリギリ友達と呼べる程度の付き合いだった『浦之』と、交際を申し込まれて付き合ったは良いものの、何かの度に奢らされ貢がされ、それでいてキスすらしたこともない元カノだったんだけどさ。
ていうかさ。
俺って『異世界から帰還した勇者』なわけじゃん?
普通だったら、十年ぶりの友人と彼女との再会って……涙を我慢しながらの、二人の昔の記憶が頭の中を駆け抜けるような、感動のシーンしなって然るべきじゃん?
それなのに、とうの二人は俺が入院してるのをいいことに付き合い始めたみたいだし?
それに追い打ちをかけるかのように、『向こうの(俺の知ってる)日本の』二人とは外見からまったく違うという。
もうそれ、ただの他人じゃん?
いや、彼氏、友人が生死の境を彷徨ってる時に浮気するような連中はその時点で他人だけども!
どうか俺の知らんところで二人幸せになってもらいたいものである。
……なんて思ってたんだけどさ。
高校というより大学に近い雰囲気の教室で所在なさ気にしてた俺の前の席から声を掛けてきたのは――
「……何よあんた、もしかしてつきまとい?
やっぱりわたしのことが好きで好きで抑えられなかった?」
「いや、髪の毛から足の指先まで好みじゃないから。
最低限金髪になって出直してきてもらえる?
ていうか俺のほうが先に教室来てたんだから、それを言うならコケシさんがつきまといでは?」
「私はマサコ! コケシになんて似てないし!!
それになんなのよその他人行儀な喋り方は!?」
認めたくは無いが元カノである山口。
まさかの同じクラスだったらしい。
……いったいどういう神経で『自分の浮気で別れた元カレ』に話しかけきてるんだろうこいつ?
あと、卑猥だから頭を小刻みに左右に動かすのは止めろ!
まぁそんな、さも構ってもらって当然という雰囲気で一人喋り続ける木工細工のことはどうでもいいとして。
俺が通う桜凛学園の迷宮科。
パンフにもあった通り、幕末、明治の頃の軍服のようなデザインの制服は男女ともに凛々しくて。
もっとも、俺からすれば完全にコスプレ。
男装の麗人とか俺の癖をピンポイントに直撃するんだけど。
「……ショウコさんにプレゼントしたら着てもらえるかな?」
「……ショウコって誰よ!?」
まだいたのかこいつ。
言っておくが俺は男女平等主義。
たとえ女であろうと、同じ土俵(ダンジョン)に立つ以上容赦なく――
「えっ?」
そんな俺の思考を見事に停止させたのは教室の後ろの扉から入ってきた一人の――たぶん女生徒?
スラリとしたプロポーションの体の上に乗っかる『鉄仮面』みたいなフルフェイスのヘルメット。
分厚いスカーフ(布が分厚いのでサラシか?)で首を覆うその姿に目を奪われる。
何なのあの子!?
ここが普通じゃない学校でも、いくらなんでも傾きすぎじゃね!?
俺の記憶が確かならば、あんな格好で学校に通ってるのなんて『不良警察官(スケ○ン刑事)』くらいだぞ!?
そんな俺の驚きを横目に、
「……ああ、あれが……」
前の席の山口が意味深に、それでいて興味なさげにつぶやく。
いや、一度口に出したならちゃんと最後まで説明しろよ!
まぁあのような目立つ形をしていれば目立って当然だろうけど。
不躾だとは思うが、そんな彼女から目が離せない俺。
もちろんマジマジと見つめていれば、こちらにも気づかれるわけで。
マスク越しに目が合ったので……今日一の爽やか笑顔を送ったら『ビクッ』てされたんだけど?
「なによ、あんた、あんなのに興味があるの?」
「コケシ、他人を『あんなの』呼ばわりは失礼だから止めろ」
「元カノをコケシ呼ばわりするほうが失礼でしょうが!?」
少なくとも俺の中で眼の前に居る山口が彼女だったとは思えないんだから仕方ないだろ!
登校してから待つこと数十分。
どうやらクラスメイトも全員そろい、担任教師がやってくる。
迷宮科などという特殊な学科だから?
てっきり冒険者ギルドの武術教官みたいな、ゴツいオッサンが来るもんだと思い込んでたんだけど――現れたのは小柄で年若い女性教師だった。
「今日はこのあと入学式……わざわざ言わなくてもそんなことわかるわよね。
そのあとは自己紹介、席替えまですれば終わりだからとっとと行っちゃいましょ」
やる気の無さそうな担任に促され、体育館へと移動。
迷宮科以外の学科も合同の、これといって代わり映えのない式がつつがなく終り。
担任の言っていた通り、教室に戻ってすぐに始まる自己紹介……なのだが。
そこで一番に立ち上がったのが、あの『仮面の少女』だった。
「おそらくこの格好でわかると思うけど……明石(アカシ)静(シズカ)よ」
名前だけ告げると席に腰を下ろす彼女
それで伝わるとか、俺が知らなかっただけで彼女はそんなに有名人なのだろうか?
それにしても……抑揚はなく、ただただ冷たい響きの声だったけど、何故か心惹かれてしまう美しい声だった。
他にも何人か目立った生徒もいたが、彼女以外に興味を引かれることもなく。
全員の自己紹介が終わると、今度は席替え――というよりは自由に席を移動してグループを作る流れになった。
各々が友達同士で集まる中、俺に声をかけてきたのは。
「もちろんユウはわたしの隣よね?」
「お前の頭には虫でも湧いてるのか?」
どこの世界に、別れたばかりの浮気女の隣で勉強する物好きがいるのかと小一時間……。
というわけで、俺の足が自然と向かうのは――
「隣、いいかな?」
仮面の少女、アカシシズカの座る席である。
「良いか駄目かなら駄目ね」
「駄目なんだ!?
えっと、彼氏が来るとか、友達が来るとか、あるいは有料席とか? 五百円くらいなら払うけど」
「……あなた、もしかして私をからかってるの?」
仮面の下から射抜くような視線……いや、目の部分が鏡面になってるから何も見えないけど。
「それとも分かっていて馬鹿にしている……そんな顔もしていないわね。
そこまで近づいてくれば、これ以上言わなくともわかるでしょう?」
わかるかどうかと言われれば……まぁわかるんだけどさ。
おそらくそれは、彼女から漂ってくる独特な匂い。
とても女子高生の体が発する物とは思えない腐臭――膿の臭いがしている。
「俺だって風呂なしの木造アパートで暮らしてるし?
昨日だって面倒だったから銭湯じゃなく濡れタオルで拭っただけだし?」
コケシが「えっ? あんた亡くなったご両親の遺産でお金持ちなんじゃないの!?」とか言ってるけど無視する。
「……そんな、汗臭いだけで済むような臭いじゃないでしょうに。
わかったらとっととどこかに行きなさい」
吐き捨てるように告げるその声音は先ほどと同じく妙に澄んでいて、それでいて他人を拒絶しているようで。
それでも俺はめげない。
「もう一度聞くけど、隣、いいかな?」
「駄目だと言ったでしょう」
「クッ……意外とガードが固い。
アカシさんってもしかして良家のお嬢様なのかな?
平民と話すと高貴な身体が穢れる?」
「っ……ふふ。あなた、変なことを言うのね」
いや、別におかしなことは何も言ってないとおもうんだけど?
そして、そんな俺とアカシさんのやり取りをポカンとした顔で見つめるクラスメイト。
「あっ、もしかして初対面なのにいきなり口説いてるとか思われてる?
あれだよ? そんな下心とかいっさい……ちょっとしかないからね?
ただ、自己紹介の時に聞こえたアカシさんの声がすごく綺麗で……隙あらば仲良くなれないかなと思っただけで!」
「普通の人はそれを口説いていると言うのではないかしら?
それにしても……声が綺麗、ね。
確かに――声だけは、昔と何も変わらないものね」
何その意味深な発言……。
「あなた、もしも私が、その告白じみた言葉を受け入れたらどうするつもりなのかしら?」
「もちろんお友達から始めるけど?」
「そう……物好きなのね。
残念だけど、答えはひとつよ。『どこかに行って頂戴』」
「……そっか。
あまりしつこくしても嫌われそうだし、今日のところは諦めようかな?」
机ひとつ分だけ離れ、彼女の隣に座る俺。
……コケシ?
俺が金を持ってないと聞いた途端、自己紹介のときにキラキラオーラを振りまいてた男子の隣争奪戦に参加してるみたいだけど?
ていうかそいつがこっち見た……と思ったら微笑みながら近寄ってきた。
「えっと、確かカシワギくんだっけ? 隣に座ってもいいかな?」
「絶対に嫌だけど?」
「僕、君にそこまで拒否されるようなことしてないよね!?」
「いや、常識で考えろよ。
普通知らない男がいきなり近寄ってきたらそういう反応になるに決まってるだろ」
「さっき知らない女子に同じようなことをしてる人がいたんだけど?」
「えっ? 入学早々そんな奴がいたのか?」
……理由はわからないが、眼の前の男前からそっと手鏡を差し出された。
―・―・―・―・―
変更点:
アカシさんが何やらえらいことに……。
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