リテイク:一章・サクラサク ~迷宮科入学と仮面の同級生~
第12話 通学路と呪いのコケシ。
時は少し進んで四月最初の日曜日。
まぁ、カズラさんと会ってからまだ数日しか経ってないんだけどさ。
商談がまとまったその日のうちに、ポーション200本分の代金である6,000万円が『現金で』ショウコさんの家まで届けられる。
「……帯の着いた現金が黒いカバンに詰められてるとか、裏金感ハンパないですね」
「帳簿に乗らないお金という意味では当たらずとも遠からずですからね。
取引している品にしても薬物ですし」
モノは違法薬物ではなく、安心安全な異世界産ポーションなんだけどね?
てかカズラさん、あれだけ俺のことを疑ってたくせに行動が早すぎるだろ……。
あまり時間を掛けるとまた詐欺師疑惑が浮上しかねないので、ショウコさんに無理を言って、翌日には迷宮管理局から社員価格(一個150円)で魔石を二万個購入。
お値段三百万円也。
その日のうちに異世界商店――エタン教会から商品を仕入れ、翌日には鷹司家の別宅に納品まで完了した。
そうそう、エタン教会と言えば!
……いや、今はそのことより今回の取り引きの詳細だな。
「ということで、今回の売却額は6000万円ちょうど。
手元にあった1本はおまけでサービスしましたので、渡したポーションの数は201本です」
「まさか本当にあれだけの数の水薬を数時間で用意されるとは……。
もちろん製薬会社の製品ならそれも可能だとは思いますが」
そのような企業と繋がりの無さそうな俺がそれをどうやって用意したのか?
購入させられた、あれだけの数の魔石を何に使ったのか?
そもそも何も無い空間から荷物を出した意味がわからない。
と、色々言いたいことはあるだろうがそれを口には出さないショウコさん。
「一方で掛かった経費となりますが。
といっても魔石の購入費用だけなんですけどね?
一型魔石が『20,100個』で302万円。
うちわけはショウコさんに迷宮管理局から社員価格で仕入れてもらった2万個が単価150円の『300万円』。
先に俺が買った1本分は小売価格が200円の100個で『2万円』です」
「あの、事細かにご説明いただけるのはたいへん嬉しいのですが、原価が丸わかりになって……あと、魔石で水薬を購入出来るとかどう考えても極秘事項だと思うのですが」
「ショウコさんにだけはごまかすつもりはありませんので。
ということで、残りの5,698万円が今回の純利益となります。
これを二人で折半……という形でいいですか?」
「もう、あなたはまたそうやって、私の心を揺さぶりにくる……といいますか、折半とかとんでもないことを言い出しましたね!?
今回に関しましては、私はそこまでの報酬を受け取れるほどの働きはしておりませんのでご辞退させて」
「却下です。
こうしてまとまった生活費――というには大きすぎる金額ですが。
もしもショウコさんと知り合えなければ、俺は今頃途方に暮れながら路頭に迷っていましたからね?」
俺の説明に、それでも納得いかない顔をするショウコさん。
「これからもずっと(お仕事的な)パートナーとしてお付き合いをしていただけるのなら、利益は二人で折半以外ありえません」
「……これからもずっと……(恋愛的な)相方としてお付き合い……。
それってつまり(夫婦の共有財産だから私にも半分)貯蓄しておいて欲しい……ってこと?
お金という形ではあるけど半分づつ持っていることで(自分はあなたのそばから離れないと)信用して欲しい……そういうことでしょうか!?」
「うおう!? えっ? あっ? はい?」
ぶつぶつ呟いていたかと思えば、いきなりグイッと顔を寄せてくるショウコさん。
鼻息荒くてちょっと怖い。
……まぁ納得してくれたみたいだからいいんだけどさ。
ということで!
異世界(イスカリア)ではまったくの役立たずだった『商人(ギフト)』のおかげで、しばらくは遊んで暮らせそうな大金を手に入れてしまった俺。
……ではあるのだが。
かといって、「ヒャッハー! 左うちわで酒池肉林だぜぇ! シャンパンタワー持ってこい!!」などと浮かれ気分にもなれず。
……ギフトなんて、所詮は借り物だからな?
今回の商売だって、ショウコさんやカズラさんという人に恵まれたからこそ成立した取引にすぎず。
普通なら、俺みたいな胡散臭い小僧が出どころ不明のポーションを売ろうとしても、誰にも相手にされないだろうし。
あまつさえ、魔石の仕入れが途切れてしまえば異世界での二の舞になるのが目に見えてる。
「……とりあえず生活費の心配はとうぶんしなくてよさそうだし、このまま迷宮科に通うのが無難かな?
でもさすがにあの、風呂なしのボロアパートで生活するのはキツそうなんだよなぁ。
何にしてもまずは生活基盤を整える必要が」
「そ、それってつまり、二人の同棲生活が始まるということですよね!?」
「いえ、違いますけど」
「違うのですか!?」
「ははっ、ショウコさんは俺のことを弟みたいに思ってるかも」
「思ってませんけど?
むしろ出会って五秒で異性として認識していますけど?」
「お、おう」
えっ、そうだったの!?
「……いや、それなら余計に一緒に住むのはまずいじゃないですか。
確かにショウコさんからすれば、俺なんて人畜無害な好青年だと思ってるかも」
「思ってませんけど?
むしろ心を蕩けさせる夢魔のような殿方だと認識していますけど?」
「お、おう」
それ、アレだよね? チソチソの先っぽに角笛みたいなの付けてるヤツ。
……なにげにひどい評価を受けてる気がするんだけど?
「……何にしても、もしもの時に責任が取れるような、安定した収入があるわけじゃないですし」
「カシワギさん。
一度の商取引で六千万円を稼ぎだす十五歳が経済的に『不安定』だとおっしゃるなら、この国で同棲できる男なんて一人もいませんよ?」
「お、おう」
なんなの? ショウコさんがグイグイ押してくるんだけど?
でもここで流されるわけにはいかない。
俺は甘やかされれば甘やかされるほど堕落していく、低いところに流れ落ち続ける典型的なダメ人間だから!
……自覚があるなら直せ?
それができる奴は最初からダメ人間じゃないんだよなぁ。
* * *
ということで間(?)を取って。
ちょうどショウコさんの住むマンションに空き部屋があったこともあり、そこへ引っ越すことで納得してもらう。
もっとも手続きやらなんやらで実際の引っ越しは水曜日になる予定だし、保証人どころか借り主にもなれない俺は、すべてショウコさんに丸投げなんだけどさ。
なにからなにまで任せっきりになり、申し訳なさで胃が痛くなりそう……。
で、そんな俺なんだけど、翌日の月曜から新学期。
つまり高校の入学式となっていた。
「大丈夫です! 私が保護者として立派に付き添いますから!」
……十二単みたいな着物姿でアパート前に乗り付け、興奮気味にそう言い放ったショウコさんを、どうにかこうにか職場へ送り出し。
そのまま地下鉄に揺られること十数分。
駅に止まるたび、入れ替わり立ち替わり電車を乗り降りする学生たち。
そんな女子高生の大半が『振り袖袴』姿で。
……なんというか、清楚な雰囲気が非常にいいと思います!
そんな俺はと言えば、学校の最寄り駅である楳田で下車し。
そこからは歩いての登校になるんだけど――
「えっ? もしかしてユウくんなの!?」
同じように登校する、女子高生を見物することに夢中になっていた俺に、同じ『桜凛学園迷宮科』の制服を着た女子が声を掛けてきた。
おかっぱ頭。
地味顔。
それでいて性格が『キツそう』ではなく『悪そう』な目つき。
いや、お前誰だよ?
しかもその隣には彼女を手を繋いでいる、『ザ・野球部』という雰囲気の坊主頭の男子までいて。
てかそいつの方も――
「久しぶりだなユウギリ。
ご両親と一緒に事故にあったって聞いたけど……無事だったんだな?」
いや、お前も誰だよ?
『異世界に飛ばされる前(じゅうねんまえ)』の記憶から、その二人に似た人間を探し出そうとするも、当てはまりそうな知人はまったく見つからず。
「えっと……たぶんだけど知り合いなんだよな? もしかして中学の同級生だったり?」
不思議顔でそう問いかけた俺に、
「はぁ!? あんた、いくらなんでも彼女の顔を忘れるとかありえないんだけど!?」
顔を真っ赤に染めて怒り出す。
……えっ、彼女!?
いやいやいやいや。確かに、中学時代に彼女はいたけどさ。
ハッキリと顔を思い出せるほど記憶には無いけど、たしか彼女はもっとこう……日に焼けた肌をしてたし?
髪だって限りなく金髪に近い茶髪、そこにピンクメッシュが入ってて、目元だって、古い家の土壁みたいなキラキラメイクで――
……本物の金髪美女(ショウコさん)を見た今だから言える。
昔の俺、相手から(おそらく金目当てに)告白されたとはいえ、重度の金髪スキーだったとはいえ、どうしてあんなのと付き合ってたんだろう?
「ていうか仮に?
百歩譲って君が俺の彼女だったとして……知らない男と手を繋いでるのはどういうことなの?」
「お、お前! 小学校からの友達を知らない人間扱いはさすがにおかしいだろうが!」
いや、どうして二人してキレてるんだよ……。
このままでは埒が明かないので、名前を尋ねてみれば。
女子の方は『山口聖子(やまぐちまさこ)』。
……彼女と名前が一致。
もう一人の男子の方は『浦之雅司(うらのまさし)』。
……こちらも友人で間違いなかった。
「えっ!? マジで山口さんなの!?
いつのまに……どうしてそんな呪われたコケシみたいになっちゃったの!?
てか浦之! お前、ロン毛スポーツマンから坊主って! イメチェン激しすぎだろ!?」
俺の心からの叫びに、周囲からドッと笑い声が起こる。
「あ、あんた、いくらなんでもその言い草は酷すぎでしょ!?」
「そ、そうだぞ!
たしかにユウギリが入院してる間に、いろいろと聖子ちゃんをなぐされてるうちに……こうなっちゃったのは悪いとは思ってるけど」
「いや、それに関してはこれっぽっちもなんとも思ってないんだけどさ」
そもそも異世界で思い出すことも無かった相手である。
逆に? 今さら彼女顔されても困るというか?
「まぁどうでもいいや。山口さんとはこれでキッパリとお別れ、これからは赤の他人ってことで」
「ちょっと待ちなさいよ!! どうして私があんたに振られたみたいになってるのよ!?」
「いや、どう考えても浮気された――ネトラレたのは俺のほうだろ?
こんなにたくさんの通行人の皆さんにまで見られて、恥ずかしくてもうお婿さんに行けないじゃん。
もうこうなったら世を儚んで家に引きこもってコケシを彫り続けるしか……」
よよよ……と涙を拭うふりをする俺の姿にまたまた起こる笑い声。
何かを言い返そうとした二人だが、さすがに場の空気に耐えられなかったのかその場を走り去る。
「……まぁ向かう先は同じ学校なんだけどな」
登校初日からまさかの展開に不安しか感じない学生生活の再開だった。
―・―・―・―・―
記憶に無い姿の彼女が寝取られるという、ただの他人が付き合い始めたという報告に困惑するしかない主人公(笑)
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