第007話 【宅配1秒のネットショッピング】

 可愛らしく……は無い、そこそこ大きな音をお腹から発生させたカズラさん。

 いや、カズラさんからすれば親戚のお家なんだろうけどね?ここは並行世界なので実質的には知らないお家と何ら変わらないわけで。

 つまり、減っていくだけで補充のあてがない食料を分けてくれと言うのは非常に心苦しいのである。


「ということで、食料品、日常品、その他諸々!

 何か欲しいものがあれば買ってもらえませんかね?

 もちろん異世界よりの宅配料が掛かりますので、お値段はスーパーなんかで購入するよりもそれなり以上に上がってしまいますが。

 でも!通常ならおおよそ十倍になってしまう所を!今ならなんと彼女のご実家価格で五倍にサービス!」


「彼女の実家……パラレル世界の娘に感謝すべきなのか、それともいい歳をして高校生相手に何をしているのだと説教すべきなのか……」


 もちろん本当はこっちのお値段と金額は変わらないんだけどね?

 儲けがないと自分たちの分を何も買えないんだから仕方ない。

 うん、早めに金庫(勝手に近隣を荒らしまくりやがったならずもののアジト)と、銀行(銀行)からお金を回収するべきだな。


「入手不可能なモノなのだから十倍が百倍でも高くは無いのだが……

 そうだな、保存の効く物はそれなりにあるし、食材で何が必要なのかなど私では判断しかねるからな。

 妻に相談してくるので少し待ってもらって構わないかな?」


「もちろん大丈夫ですよ?」


 そう言って部屋を出ていく六条さん。

 隆文氏?呆けたような顔でボーッと座ったままである。

 大丈夫なのかこの人……このままボケちゃったりとかしないよね?


「ちなみにカズラさんは食べたいものとかあります?」


「そうですね、今日は高級中華が食べたい気分ですね!

 フカヒレの姿煮、北京ダック、ずわい蟹のあんかけチャーハン……

 エビマヨ、エビチリは伊勢海老でお願いします!」


 世紀末舐めてんのかこいつ……。

 まぁ最近のネットスーパーならそのくらいは取り寄せ可能なんだけどさ。

 てか、いきなり隆文氏が声を殺して泣き始めたんだけど!?


「ど、どうかなさいましたか?」


「多分お父さんもお腹が空いたんだと思いますけど?」


 ダンディなおっさんは空腹では泣かないと思うんだけど……。


「いや、いきなり済まない……そちらの世界の娘も、同じものが好きなのだなと思うとつい……な」


 食欲が無くなっちゃうから、そういう寂しくなるようなこと言うのは止めてもらえないかな?

 あ、六条さんの奥さん――綾香さんのお母さん――に頼まれたのはお野菜いろいろとお肉いろいろとお魚いろいろだった。

 どうやら今晩は鍋にするらしい。いや、それにしても量が多いな!?


 端数はオマケしておくけど、一食分で二十萬円分(実質四萬円分)の食材って……。

 ああ、お野菜はご近所さんにもおすそ分けするのか。

 後は水。二リットルのペットボトルを大量購入。こちらは食材よりも高額な三十萬円分(実質六萬だな)の六百本。

 段ボールで百箱、次々と現れる商品をカズラさんが物置にどんどんと積み上げていった。


「これは……凄いとしか言いようのない能力だな。

 本当に何も無いところから、これだけの量の商品を出してくるとは……」


「何も無いところからではないんですけどね?

 ちゃんとした取引相手が存在しますので。

 なおかつ対価が必要なので無尽蔵というわけにはいきませんし」


 てかついでに確認してみたけど魔石、普通に売ってた。

 ……極小魔石一個で『千円』のボッタクリ価格だけどな!



「ものすごく今更なんですけど、こんな状況なのにお家の中は電気が点いてるんですね?」


 商品の納入も終わり、少し落ち着いた俺の感想。

 『頑張ったのは私ですけどね!?』とか言ってる脳筋娘のことはスルーする。


「ああ、ガソリンなどの補充がきかなくて今は太陽光発電しか使え無いからそれなりに節電しないといけないがな。

 数日続けて雨でも降らない限りはロウソクの明かりにたよるほどにはならないので安心してもらいたい」


 なるほど……メガ◯ーラーとか付近の環境その他の面で問題しか無かったけど、家庭用の太陽光発電はこんな時にこそ、その実力を発揮するのか。

 普通に生活する上で、まさかゾンビ対策にソーラー発電とか思いも寄らないだろうけどさ。

 でも、節電するとなると、夏場冬場のエアコン、普段の冷蔵庫冷凍庫を使うだけでもそれなりにきつそうだよな。


「それなりのお値段になっちゃいますのでオススメはし辛いですけど、商品に発電機もありますよ?」


「いや、発電機自体はうちにもあるのだが……先ほども言ったように燃料の入手が困難なのでな」


「ああ、普通の発電機はガソリンとかガスとか使いますもんね。

 でもうちで……というか、向こうの日本で取り扱ってるのは『魔石発電』ですので。

 魔力を電力に変更するだけですから100%クリーンな新世代のエネルギー!

 そしてなんと!その、魔力変換効率は脅威の98%!」


「なんだその胡散臭い、新手の詐欺にしか聞こえない品物は……」


 向こうでは普通にどの家庭でも似たようなものを使ってるからまったく詐欺要素は無いんだけどね?

 まぁ安いものでも五萬円、ちょっと大型のものだと二十萬円はするから気軽にはオススメ出来ない金額なんだけどさ。

 お友達価格でも二十五萬と百萬になっちゃうからね?


 まぁそんなことはどうでもいいとして、朝飯食ってから十二時間以上経過しての晩飯である!


「てことで、今日の俺の晩ごはんは少しお高いお肉で焼き肉です!」


「あれ?高級中華は……?」


「そんなものはない。

 てか、カズラさんも一緒に食べるの?」


「食べますけどっ!?」


 いや、お前に食わせる肉など無い!とかそういう意地悪じゃなくてね?

 向こうでご家族……みたいな人たちと食べるのかと思ってたからさ。

 巨大ネットショップ『ストロンガー』でお肉と一緒にホットプレートも購入。

 もちろん焼肉のタレは『エ◯ラ黄金の味・中辛』である!


 脳筋娘のそのイメージから、もっとこう口いっぱいに頬張るように、シマリスみたいになりながらワンパクに食べるのかと思ったカズラさんであるがその食事風景は完全にお嬢様のそれ。

 そういえばこの人、ルックスも育ちも完全にお嬢様なんだった。


 てか、六条さんが興味津々な感じでむっちゃこっちを見てたから、


「お肉……食べます?」


 って聞いたら、興味があったのは肉ではなく魔石稼働のホットプレートに対してだったらしい。

 コンセントが無いだけで、形はこちらの世界のものと同じなんだけどね?

 もちろんその『コンセントが無い』というのが物凄いことなんだけどさ。


「てか、焼き肉食ったら体が脂っ臭せぇな……」


「それは……遠回しに一緒にお風呂に入りたいと誘ってますか?」


 もちろん誘ってないです。

 んー、でも、水のペットボトルを大量購入したってことは生活用の水もそれほど豊富では無さそうだし?

 そんなお宅で『風呂に入りたいです!』とは言い出しにくいんだよなぁ……。

 てか、向こうでは水道ってどうなってたんだろう?

 見た目は蛇口のある普通の水道だったからまったく気にして無かったんだけど。


 先ほどと同じ様に異世界商店日本支部、ショップストロンガーを開いて『キャンプ用品:風呂』で商品を確認してみる。


「なるほど、浄水じゃなくて『造水』が出来る道具があるのか。

 で、水を貯めたバスタブはこの電気アンカみたいな道具を沈めて水を温めるてお湯にすると」


 普通にそれらの機能がセットになったバスタブなんかも売ってるんだけど、当然のようにクソ高いので今回はその二つの道具(これらも魔道具と呼ばれてる)『みずイレール』と『あったマール』の二つを購入。

 ネーミングセンスが完全に某青狸の出す秘密道具のそれだな……。


 『お風呂貸してください!』とひと声かけてからそれらの道具を使用する。

 来客用の風呂だからそこまで大きくないのと、みずイレールの造水量が想像以上にパワフルだったのであっという間に水張りは完了!

 あったマールの方はそれなりの性能だったので結局半時間くらいは掛かったんだけどさ。


「な、なんなんだその非常識な道具は!?

 何も無いところから水が湧き出して来たのだが!?」


「何もなくはないんですけどね?魔石から魔力を取り出し、それをなんやかやして水に変換してますから」


 もちろんその何やかやの説明は出来ない。だって俺文系だし。


―・―・―・―・―


そいつがアマゾンならば、こちらはストロンガーだっ!

仮面ラ◯ダーもウルト◯マンも名前以外はあんまり知らないあかむらさきであった(笑)

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