第005話 【鎧が強いんだから当然剣も強い!】

【バリケードの向こう側】


 今日は一日何事もなく、もう日も暮れそうだという頃に俺達のコミュニティにやってきたのはやたらと軽装の若い男女。

 このご時世に、あんな小綺麗な格好で、プロテクターも何も着けずに散歩をするように外を出歩くなんて……。

 その腰には武器らしきものを装備してはいるが……そんな剣だか、刀だかわからないモノだけで大量にいるゾンビを処理しながら長距離の移動など出来ようはずもなく。


 つまり、彼らは歩いてきたわけではなく車での移動。

 そして、二人きりで来たのならわざわざ離れた所で車を降りて、それを隠す必要などない……。

 おそらくは他のコミュニティの人間で、我々の様子を探りに来た斥候役のような者たちなのであろう。

 この様な状況になって既に半年以上、それなりに……場数も踏んでいる俺達である、年若い女を連れているからといって簡単に騙されたりはしない。


 同じ様に感じた西村さんが緊急時――敵対者が来たと判断した時以外では使うことのない拡声器を使い、二人に話しかける。

 ……が、その二人からの返事は、このコミニュティの相談役である六条さんの身内だと言うもの。

 そういえばあの女の子……六条の綾香ちゃん――いや、すでに『ちゃん』を付ける年齢ではないのだが――と一緒にいる所を見たことがあるような気がするな?


 ……まずいな、もしもそれが本当ならば音に釣られたゾンビがやって来る前に六条さんに確認を取らなければ!

 慌てて動き出す今井さんと興梠さん。

 しかし、近くに潜んでいたのか、彼らの後ろには既に数体、いや、数十体のゾンビが!

 その存在に、向こうでも気づいたのか、彼らが腰から刀を抜き放ち……はぁ!?何だあれ!?


 光ってる!むっちゃ光ってるんだけど!?

 そう、彼らの抜いた刀、まるで映画、『宇宙戦争』で主人公たちが使っている何か蛍光灯みたいな剣と同じように刀身が輝いているのだ!!

 ……意味がわからない、腰に蛍光灯を差して歩く、その行動に一体どのような……いやいやいやいや!?

 消えたっ!?ゾンビが消えたっ!?


 あれだけの数のゾンビ……銃で始末するとしてもどれだけの手間が掛かるか……そして、その銃の発砲音でまたどれだけのゾンビが寄ってくるか……などと考えていた自分たちの眼の前で、まるで踊るように刀を振るう二人の若者。

 そしてその刀が触れた瞬間に『パンッ』と弾けるように消えて無くなるゾンビの体。

 何だあれは……何なんだいったいあれはっ!?



【武器を渡せ?だが断る!】


 集まってきたゾンビを撃退して、さらに待つこと数分。いや、十数分か。

 静まり返っていたバリケードの向こうから話し声が聞こえたかと思うと、見張り台に現れたのは――


「おお!葛!無事だったのか!」


「伯父様もご無事なようで何よりです!」


 俺も何度か顔を合わせたことのある六条さんのお父さん。

 とりあえず話は中に入ってからと縄梯子を降ろされたので、車のプチ迷路を超えて見張り台の方に向かう。

 バリケードを乗り越えた先にはカズラさんのお父さんである鷹司隆文氏。

 そして、その後ろには大勢の――銃を持ったおっさんと兄ちゃんの集団。


 うん、むっちゃ警戒されてるな。

 もちろんこんな世界であるからには身内であろうが危険視する、警戒するのはとても良いことなんだけどな?

 前に出てきた隆文氏がカズラさんに声を掛ける。


「葛……本当に葛……なのか?」


「はい、本当かどうかと聞かれれば微妙なところですが、葛で間違いは無いですよ?」


 父と娘の感動の再会!……の場面のハズなのに、ぎこちない、何やら複雑そうな表情をした隆文氏。


「そうか……いや、いきなりこのような出迎えになって済まない、何分私も混乱しているのでな」


「混乱ですか?確かにこのような状況ですのでそれも仕方ないと思いますけど……」


「あー、横からすまない、私はここで自警団の団長をさせてもらっている今井と言う。

 もしも中に入るなら、申し訳ないがその武器を預けてもらいたいのだが?」


 そんな親子の会話に横から話しかけてきたのは人相の悪い今井と名乗る男。

 後ろにガラの悪そうなのが何人かくっついてるから多分ヤ◯ザか何かだろう(偏見)。

 さっきここからバッチリと見える場所で戦闘行為に励んじゃったからなぁ……。

 知らない人間がよくわからない武器を持ち込もうとしてたらそういう話になるのは当然の結果だろう。


 もちろんこちらの返事としては、


「そうですね、その申し入れは丁重にお断りさせていただきましょう。

 そちらがこちらを信用できないように、こちらもそちらを信用できませんので。

 そもそも、こちらに寄りましたのは『六条さんに』お会いして話を聞ければと思っていただけで、特に中に入りたいとも思っておりませんので」


「ほう、葛の父である隆文ではなく、私に会いに来たと?

 失礼だがそちらの彼と、これといった面識があったとは思い出せないのだが……」


 ジロリとこちらを値踏みするように睨めつける六条父。

 うん、俺のほうが(違う世界で)一方的に知ってるだけだからな!


「てことで、お話が出来るのならば他人の居ない場所で情報の交換をさせていただきたいんですけどいかがでしょう?

 無理だとおっしゃるならこのまま引き上げますが」


「それは君が一人で帰ると言うことかね?」


「もちろん私も一緒に行かせていただきます。彼と私は一心同体ですので!」


 そんな事実は一切ないんだけどね?

 てか、綾香さんがここに居ないのは屋敷から出てきてないだけなのか、それとも何処か違う場所に避難してるからなのか。


「お父さんの眼の前で、それはなかなかショッキングな発言だな葛……

 よかろう、話は屋敷で聞かせてもらおう」


「鷹司さん……お嬢さんだけならともかくそんな怪しい小僧を中にいれるのは……

 いや、話によるとそのお嬢さんの持っている刀も普通のモノではないと聞きましたが」


「別に中でなく外でも構いませんよ?

 少なくとも俺やカズラさんにとってゾンビなんて物の数になる相手じゃありませんので」


「ははっ、こんな世界でそれはなかなかに凄いアピールポイントだな!

 ……だが、ゾンビを倒せるくらいでうちの娘を嫁に出来ると思うなよ?」


「お兄ちゃん……やっぱり……」


 まったくそんなことは思ってませんけどね?

 あと、やっぱりの意味がわからないです。

 ヤ◯ザがもう少しごねるかと思ったが、思ったよりも簡単にバリケードの中、六条さんの屋敷に案内された俺たち。

 いや、話し合いに自分たちも参加させろとはごねてたんだけどね?六条さんが『家族の話なので』と押し切った。


 途中で見かけた他の屋敷も含め、家屋にも外壁にも大きな損傷などは見当たらなかった。

 以前も――向こうの世界で林檎ちゃんがご挨拶に言った時――通された応接間。


「……綾香さんはやっぱり居ないんですね」


「うん?君は葛だけでなく綾香とも知り合いなのか?」


「知り合いというか彼氏さんですよ?」


「なるほど、そうなの……はぁぁぁぁぁぁっ!?

 いやいやいや、君、高校生くらいだよな!?綾香の彼氏だと!?」


 六条パパが混乱するから余計なことを言うのは止めなさい!

 混乱して『あ』とか『え』の単音しか口にしなくなった六条さんと、先程よりも深刻な顔になった隆文氏と向い合せに座る俺とカズラさん。


「さて、まずは」


「あー、いろいろとご質問はあると思いますが、かなり突拍子も無い話を始めますのでこちらから状況の説明をさせていただきたいのですが、よろしいでしょうか?」


「……ああ、いいだろう」


 最初に口を開いた隆文氏の言葉を遮り、そう伝える。

 このまま質問責めにされたら話が進まないからね?


「まず、前提の話としてこれを受け入れてもらえないと会話が成り立たないのですが」


 居住まいを正し、穴があきそうなほどに俺を見つめる隆文氏を見返す。


「俺もカズラさんも……この世界の人間じゃないんですよ」

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