第004話 【コミュニティとの接触】
魔石がドロップしない代わりに(?)、日本円での購入が可能な『異世界商店日本支部』が開店した俺の祝福(ギフト)。
まぁその、購入するために必要な『円』を持ってないから今のところ使えないんだけどさ……。
「お手軽にコンビニのATMから出金しようと思ったのに全滅してやがる……」
「お兄ちゃん、叩き壊して抜き取る行為を出金とは呼ばないんですよ?」
「俺の(林檎名義の)通帳にはちゃんと億単位の金が入ってるんだっ!
なのに電気が来て無くて引き出すことが出来ないっ!
つまり、これはもう自助努力でどうにかするしかないじゃん?」
「言ってることが正しいからと言って、その行動が正しいとは限らないんですよ?」
まぁいつまでも?無い物強請りを続けるのはアイウォンチューなので素直に次の行動に移ることにする前向きな俺。
「てことで、カズラさんを囮にして、この辺を荒らし回ったであろう窃盗団をサーチ&デストロイ、そいつらのアジトから根こそぎお宝を頂こうかと思うんだけど……どうかな?」
「つまり窃盗団が強盗団に退治されるんですね?
あと、囮にはなりたくないです!」
「誰が強盗だ誰が!
放っておいたら他人の迷惑にしかならない連中を処理しておけば、生き残りの善良な市民が助かるだろう?その上、残り少ない食料の消費量も減らせてまさに一石二鳥!
ほら、地味な青年の俺では囮役として役者不足だからさ。
ここは美しすぎる探索者でおなじみのカズラさんに頼るしか」
「ふふっ、そうですか、やはり美しすぎる私の魅力が必要ですか。
仕方ありません、なぜならば、美しさは罪なのですから!
微笑みさえも罪なのですから!」
まぁ、あれだ、脳筋チョレぇな……。
「それで、どうやって窃盗団を見つけるつもりなんですか?
まさか地道に足で捜索……なんてしないですよね?」
「もちろん!」
スライム退治に飽きたから、手抜きをしようと大量のゾンビが湧いてるらしいダンジョンに来た俺なのである。
……そのおかげでゾンビが湧いてるダンジョンどころかゾンビが湧いてる世界に迷い込んでしまったわけだが。
あれか?『有栖川』って名前が悪かったのか?不思議の国の有栖川的な。
「てことで、はいこれ」
「はい!はい?何ですかこの鉄の棒は?」
「それでそこらへんに生えてる街灯とか停めてある車両を叩き回してください」
「もしかしてお兄ちゃんは私のことをストレスの貯まった◯◯◯◯だとでも思ってますか?」
うん、似たようなモノだとは思ってる。
ぶつぶつと言いながらも、叩き始めたら案外楽しかったらしくとてもいい笑顔でそのへんの色々を叩き回すカズラさん。
やっぱりただの◯◯◯◯じゃねぇか……。
その音でまず集まってくるのはもちろんゾンビの集団。
「お兄ちゃん!ゾンビ!いっぱい!」
「気にせずそのまま続けて?」
ピカピカと光りながら次々とそれらを処理していく俺。
これ、カズラさんにも鎧を着せてしまえば魔法力を流して強く光る必要もなくなるな!
騒音おば……騒音カズラさんの近くにいるだけで経験値(普通の経験値&ジョブ経験値)が貯まっていく簡単なお仕事である。
細かくチェックしながらどんどんジョブを育てていかなきゃ!
そんなこんなで小一時間――
「お兄ちゃん!さすがに腕が疲れてきました!」
「チッ、役立たずが……ゾンビもあんまり集まらなくなってきたし、違うところに場所を移すか」
「ひどい……あれだけ頑張ったのに役立たず扱い……ひどい……でもショタの罵倒……嫌じゃない……」
なにこの秋吉の上位互換みたいな変態……。
「と言うか、そろそろお腹が空いてきました!
あと、どうせ移動するなら私のお家を活動拠点にするのはどうでしょうか?」
「いや、そのお家ってパラレルな世界の話しだよね?
この世界でも同じ建物があるのかどうかなんて……建物はあるかもしれないな。
でも、お家の鍵とか持ってきてるんですか?」
「無いです!でも大丈夫!入口は指紋承認システムですので!」
「それ、電気が止まってたら使えないやつだからね?」
駄目じゃん……。
でも、拠点となる場所自体は確かに確保しておきたいよな。
かと言って、さっきの子供のところに戻るのは嫌だし……。
「このへんに使い勝手のいいホテルとかあるかな?」
「お兄ちゃんのエッチ」
「俺がカズラさんに対して湧くのは性欲ではなく殺意だけなので大丈夫ですよ?」
「大丈夫要素が皆無なのですが!?
……というよりも、それなら六条の屋敷に向かうのはどうでしょうか?
世田谷区ですので、ここから港区に向かうよりはずっと近いですし、もしもこの世界がパラレルな場所であったとしても、私が居れば話しくらいは聞いてもらえるかと思います」
脳筋からまともな意見が出ただと……?
「確かに、まったく知らない人間を頼るよりは良いかもしれないけど……はたしてこの状況で、六条さんご一家が自宅にいるかな?」
「あのあたりの屋敷はどこも塀が高いですし、シェルターを備えている家も多いので下手に出歩くよりは安全ですよ?
もちろん六条の屋敷にもシェルターはありますし、当然そこに籠もるための、それなりの量の備蓄もありますので」
なるほど……元の世界では六条さんだけでなく、そのお父さんや叔父さん――カズラさんのお父さん――もそれなりの地位に居たわけだしな。こっちの世界でもたぶん、きっと、一般人よりは詳しい情報を持っている……かも知れない。
「今回はカズラさんの意見を採用で!
どれくらい時間が掛かるかもわからないしとっとと移動を開始!
道すがらならず者が現れるのを祈りつつ歩こうか?」
「はい!ここからの道案内は任せてください!」
そこから歩くこと数時間……時計ではもう十七時近く、日も落ちてきたんだけど、この時間が正しいのかどうかは不明。
冬場だし、十七時で薄暗くなるのは大きくズレていないと思うんだけどね?
途中で荷台を確認したら早くも親方から鎧と刀が届いてたので、早速カズラさんに身に着けてもらった。
「ありがとうございます!お兄ちゃんだと思って大切にします!」
「鎧を俺だと思う意味がわからないから止めてもらってもいいですかね?
あと、向こうに帰ったら即時没収しますからね?返却してくださいね?
どうしてもと言うなら売らなくもないですけど、東京都の予算程度の金額は請求しますので。
そして俺はあなたのお兄ちゃんではないです」
てか、試し斬りがしたかったからと言って、近くにあった郵便ポストとか斬るの迷惑だから止めろ。
ミスリルの刀……思った以上にあっさりとポストを斬り倒してワロタ。
レイピアはあくまでもスライムを突き刺すための武器だし、いっそのこと俺も刀にしようかなぁ。スライムにミスリル……異世界で言う『猫に小判』だな。
まぁそんな道中。ゾンビを五~六千体くらいは倒しながら六条さんの屋敷の近くまで到着。
どこからか、途中で五機ほどドローンが飛んできたけど、こちらも魔法の矢で撃ち落とした。
てかさ、こんな光り輝いてる連中が家に来たら……少なくとも俺なら絶対に中に入れないと思ったので、
「これは私の大切なお兄ちゃんなのっ!」
と、意味不明の抵抗をするカズラさんをなだめながらも鎧をパージさせる。
魔道具があるから銃器の攻撃くらいなら怪我も負わないしね?
「てか、道が完全に塞がれてる上に、自警団だか、ならず者だかわからない人間が見張りまで立ててますね」
車を並べ、細い通路のような小道を作って一度に大量のゾンビを相手にしなくともいいようになってるのかこれ。なかなか頭の良い方法だな。
その後ろにはさらに頑丈そうなバリケード。
さらに後ろにはイ◯バ物置の様な小屋が見える。
うん、百人乗っても大丈夫らしいからな、見張り台には丁度いいのだろう。
車の迷路のこちら側には倒されたゾンビが転がっている……などと言うことも無く。
おそらく道を塞がないように、倒す度に片付けているのだろう。
てか見張りの連中、普通にライフルとか銃器を装備してるんだけど……金持ちだから全員狩猟免許とか持ってて、一家に一ライフルって感じなのか?
「……ご近所さんならいいのですが。
もしかしたら何者かに占拠されているという可能性もありますね。
どうしましょう?吶喊します?」
「どうしてファーストコンタクトが『相手の殲滅』になっちゃうのか……」
『まずは普通に話しかける』という選択肢が一番上に上がってこないのは何故なのか。
ある程度近寄った所で向こうから誰何(すいか)の声が掛かる。
『そこで止まってもらいたい!ここは避難所ではない!
関係者で無いならば、速やかにここから離れてもらいたい!』
拡声器を使い、大きな声で話しかけてくるおっさん。
そんなことしたら、そこかしこからゾンビが集まって……いや、わざとか。
これ、俺たちのことを最初から邪魔者だと認識して、『とっとと立ち去らないなら死ね!』って感じで殺しにかかって来てるよな?
うん、出来るだけ自分の手を汚すこと無く他人を処理するにはなかなかいい方法ではないだろうか?
「えっと、井の頭ご……公園の方から来ました!
こちらにお住まいの六条さんにお話を伺いたいのですが!」
返事をすると、やや間があってから向こうからの返答。
『……六条さんのお知り合いか?
失礼だが、どのようなご関係なのか聞かせてもらいたい』
「私の名前は鷹司葛、六条の伯父様の姪にあたります!
父である鷹司隆文を探しているのですが、伯父様なら何かご存知ではないかとこちらに伺いました!」
『六条さんに確認を取らせてもらうので少々お待ちいただきたい!』
六条さん、こちらの世界でもやはり、それなりの顔役らしい。
てか、カズラさん……ちゃんとした質疑応答も出来るんだ!?
いや、初対面の時はそれなりにまともに……そこまでまともでも無かったな。
奥で何やら動き出す連中。もちろんあれだけ大声で騒げば近くからゾンビがうようよと湧いてくるわけで。
「カズラさん、適当に捌きましょうか」
「はい!ふふっ、こうして背を預けるようにして戦うのはとてもいいですねっ!」
相変わらずよくわからない感性の持ち主である。
てか、ゾンビ……斬らなくても、レイピアがその体に触れるか触れないかで崩れ去っていくんだけど……。
もちろんカズラさんの方もそんな感じなわけで。
「……手応えが無さすぎてつまらないです!」
「まぁ斬った時に臓物とか巻き散らかさないからヨシ!ってことで」
集まってきた数十体、あっという間に処理完了である。
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