第003話 【異世界商店・日本支部】

 集まってきたのがゾンビだけだったので、サクッとピカって殲滅する俺。

 ……これ、ピカとか言ってたらよくわからない(ピー)の(ピー)みたいな集団に絡まれるかもしれないな。

 あと、オランダ嫁の夢を見そうな電気鼠の会社とか。いや、その二つは別会社だ。両方ともスキあらば色んな所と裁判してるイメージがあるけど。


「一応聞いておきますけど……もしもさっき集まってきてたのがゾンビではなく、こちらに敵意を向ける『人間の』武装集団だったらどうしてました?」


「敵意のあるなしに関わらず武装してるならそれはもう敵、むしろ的(てき)として認識することに何か問題でも?」


「とてもナイスな考えだと思います」


 そうだね、『殺られる前に殺れ!』だもんね!

 そこまで腹を括ってるなら……いや、カズラさん、向こうでもこんな感じのひとだったわ。

 でもここ、世紀末世界だからね?

 やはりチヨダ嬢のような、異世界で盗賊を退治するのにすら忌避感を抱くような人間とは一緒に行動は出来ないな。


「てことで繰り返しますけど……カズラさんは俺の指示に従えますか?

 むろん、あなたの命に関わるような命令は拒否していただいて結構です。

 あと……ここで何があっても他人には一切公言しないと誓えますか?」


「従いますし誓います!!カズはお兄ちゃん第一主義ですので!!

 でも、初めてはベッドの上がいいです!!」


「誰がお兄ちゃんか……

 あと、あなたには何もしませんのでベッドは不要です。

 異世界商店……開店」


 一緒に行動するなら、どうせどこかで見せることになるだろうし?

 遅いか早いかならとっとと見せておいたほうが行動に制限が掛からなさそうなのでカズラさんの隣で異世界商店を呼び出す俺。

 ……おお……ちゃんと、いつも通りにリストが開いて一安心……。


「いや、いつも通りではないな。

 リストに『日本支店』ってのが増えてるし」


「お兄ちゃん、さすがに隣でブツブツと独り言をいわれるのはちょっと……」


 ん?あれ?この開いてる画面とか他の人には見えてない感じなのかな?

 まぁそれはそれで都合がいいから彼女の発言はスルーしてそのまま進めることに。

 『荷台』から、静たん達用に用意してあった、バリアの腕輪を一つ取り出す俺。


「まさかのプレゼント……これってお姉様が持っていたマジックアイテムらしき腕輪と同じモノですよね?

 つまり……プロポーズだと受け取ってよろしいんですよね?やはりベッド……」


「まったく違います。てか、綾香さんが持っていたのはプレゼントで合ってますが、カズラさんに渡すのはレンタルです。貸出です。

 ……ダンジョンの中とは違って、こんな街なか、それもゾンビが跳梁跋扈してるような世界だと、どこから狙撃されるかわかったものじゃないですからね?」


「……つまり、これは銃弾を防げる魔道具だと?

 そのようなモノが……いえ、そんな性能の魔道具のまったく同じモノが二つもあるなんて……」


 ミスリル製の鎧なんて着てるから大丈夫だとは思うけど、一応俺も同じものを付けてるんだけどね?

 そもそも数だけで言うならば纏めて十個作ってたりするし。


「あとは武器と防具の変更ですね。

 鎧はコレと同じモノ、武器は……そんな感じの戦斧がご希望です?」


 少なくとも街なかでは……いや、ダンジョンの中でもそこそこ取り回しの悪い武器だと思うんだけどな、戦斧。


「いえ、別にこれといって斧に思い入れがあるとかではないんですよ?

 たまたま手に入ったダンジョン産の高性能な装備品だったので愛用していただけで。

 一応これでも剣道と薙刀と華道と茶道の有段者ですので!

 出来れば刀、それも大小で揃えていただければ……」


「そこそこ図々しいなこいつ……

 てか華道と茶道はまったく関係ないですよね?

 ではそのように……繰り返しますけど、あくまでもレンタルですからね?」


「お兄ちゃん大好き!」


「鎧の上からだと何も嬉しくないので抱きつかないでください」


 最近はまるで通い慣れた模型屋さんのような、気安い感じで話せるようになったドヴォ・ルザーク親方の店を開く。


「ご無沙汰しております親方!今日もまた注文に来ちゃいました!」


『おお!坊主か!……ブフッ、フッハハハハハハ!

 お前……マジでその鎧を着てやがるのか!?酔狂な奴だな!

 それで、アンデッドの相手はどんな感じだった?』


「いやもうバッチリでしたよ!

 ちょっと強く光るだけで塵一つ残さず綺麗さっぱり!

 ってことで、これとまったく同じ鎧をもう一領!

 あと、前も少し話していた刀を大小で拵えて頂きたいんですけど……どうでしょうか?」


『それ、また作るのか!?いや、もちろん構わねぇけどよ。

 刀の方ももちろん大丈夫だ!そいつも素材はミスリルでいいのか?』


「はい、回りにアンデッドしかいない場所にきちゃいましたので……」


『なんなんだよその地獄みてぇな所は……』


 てことで、鎧と刀の分でまたミスリルのインゴッドを五十キロ購入。

 工賃と一緒に親方に預けておくことに。


「ええと、少しだけ心配になってきましたので、先程の一人遊びが何なのかだけ教えていただけないでしょうか?」


「そうだな……もしも無事に帰れたら綾香さんに『スライム王国』について詳しく尋ねると良い」


 見えてないなら無駄に説明する必要も無いだろうしね?

 後のことは六条さんに丸投げしておけば大丈夫だろう。



 てことで、同行者の装備品――アンデッド特効のミスリル装備の注文が終わった俺。

 物凄く気になったけど後回しにした『日本支部』について確認することに。

 画面をタップしてみると……


「おお!向こうの日本の品物が買えるのか!」


 その姿、某巨大通販サイトの如く……。

 食料品はもちろんのこと、魔石で稼働する電化製品や魔石で稼働するバイクや自動車まで!

 もちろん日本では買えない銃器や薬物なんかは売ってないんだけどね?


「いや、それでも十分すぎるだろこれ!

 特に食料……新鮮な果物とか野菜とかブランド肉まで買えるとか……」


 ……まぁ問題点がなくもないんだけどね?

 だって、買い物に必要な交換対象が魔石ではなく『日本円』だったりするからさ。

 いや、いくら膨大な量をストックしてるとはいえ、こちらでは増やす手段のない魔石よりもこちらで入手可能な日本円の方がラッキーだったと言えなくもないのか?


 でもさ、ダンジョンに入る際に財布なんて邪魔になるだけのモノを持って入ってるはずもなく……。


「よし、まずは近くの銀行を襲うか」


「何がどうしてそうなったのか詳しく説明してもらってもよろしいですかね!?」


「逆に聞くけど、金が欲しい以外で銀行を襲撃する理由があるなら教えてほしいんだけど?」


「その、お金が必要な理由を聞いているのですが!」


 まぁいきなりの奇行に意味もわからず付き合わされるのは可哀相なので、日本円が必要な理由――買い物をするためだとだけ説明する。


「……どう考えてもいろいろと端折られていて説明になってない気がしますが……我慢します。

 でもそれなら銀行じゃなくて、そのへんの店舗のレジから拝借すればいいんじゃないですか?」


「お前……それは犯罪だろ?」


「お兄ちゃんは銀行を襲うのは罪にはならないと思ってたんですか!?」


 いや、もちろんそれも犯罪だけどさ。

 例えるならば国民的大泥棒の三代目。あいつが近所のコンビニで万引きとかするか?否、しない!


「何かこう……ほら、規模の小さな犯罪って良心の呵責がさ……カズラさんは家族経営で頑張ってた小さな商店の金庫を盗むとか人間として恥ずかしくないの?」


「どうして私が責められる流れに!?

 むしろお兄ちゃんが大きな犯罪にも罪悪感を持つべきなのでは?」


「それはそれ、これはこれ?」


 まぁものは試しにと、近くにあるお財布に優しくないお値段のコーヒーチェーン店のレジを覗いてみたのだが。


「むっちゃ荒らされてるやん……

 まったく!火事場泥棒とかマジ最低の人間がやることだからな!

 そもそもこんな世紀末世界で金とか何の意味があるんだよ!」


「お兄ちゃん、全身にブーメランが刺さってるよ……」


 繰り返しになるが、それはそれ、これはこれなのだ!

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