小さい秋~動き出す世界
第001話 【青い空、飛行機雲、帰り道】
夏休みが始まり、トオル――今はアテナだな――が家に泊まりに来て……まぁその日は泊まらずに帰ったわけだが。
翌日、原西家で色々とあり、俺の親戚(フィラリアげんちゅう)の対処も一段落したので、毎日のんびりとダンジョンに通ってたら……いつの間にか9月である。
『いや、なんでやねん!
高校生の夏休みってもっとこう……イベント事があるだろ!
浴衣とか……水着とか……水着とか!』
と、思われるかもしれないが……それほどは無いんだな、これが。
だって毎日ダンジョンに通ってたんだよ?
長期休暇のはずなのに、通学から通勤に変わっただけだよ?
好きでやってることだからまったく苦にはならなかったけど。
一応知り合いからお誘いもあったからいろいろと参加はしてたんだけどね?
ティアラちゃん&秋吉と海に行って、静たんとプールに行って、アテナと近所の商店街の夜店に行って、担任とナイトプールに行って、六条さんとはホテルの部屋から花火鑑賞。後半そこそこアダルティな遊びに見えるけど気にしてはいけない。
てかさ、花火大会って、人混みの中でもみくちゃになるだけの地獄の責め苦みたいな場所だと思ってたけど、お金を出せば涼しいところからのんびりと見れるのな。
まさに地獄の沙汰も金次第である。
うん、こうして振り返ってみるとそこそこ遊んでる気もするけど……特に男女間のどうこうは無かったから成果としてはゼロである。
「待って、ちょっと待って!
君、僕がそこそこ頻繁に誘ったのに『忙しいから』って断ったよね?
それなのに何なのさ!そのとっかえひっかえ女の子と遊んでる状況は!
あと、『担任とナイトプール』は色んな意味でアウトじゃないかな!?」
「嘘はついてないぞ?『他の子と会うから』忙しかったんだから。
担任は……たまたまホテルのプールで出会っただけだからセーフ。
ホテルのフロントで待ち合わせしたけど」
「待ち合わせしてるのはたまたま出会ったとは言わないんだよっ!
何なのさ……それなりに暇だったんならもっと僕と遊んでくれてもいいじゃないか!」
「やだよ……お前ん家に行ったら一日中筋トレさせられるし。
『おにいたん!ムラサキと一緒に動画をみるのです!』とか言われたから、可愛いにゃんこ動画でも見るのかと部屋についていったら『ベリーズブートキャンプ』をエンドレスリピートされたんだぞ?
妹もノリノリで『サコーサコーワンモアセッ!』とか言ってるし。三日くらい教官が夢に出てきたわ」
そして、教室内で喋ってるのはもちろんアテナ。
うん、ネームロンダリングして早くも転入してきてるんだ。
転校生、そして美少女ってことで、普通に男子からは大注目されてるんだけど、男から女に変わった事により、友達もいなくなって前よりも俺にべったりと……いや、そもそもこいつ、この学校で俺以外に友達とかいなかったわ。
俺もそうだったから人のことは言えないんだけどな!
「ユウギリくん、あなた、転入してきたばかりの女性とえらく仲がいいのね?
ええと、原西亜帝奈さんだったかしら?
なんとなく、雰囲気が私の知っている少し気持ちの悪い男子と似ているのだけれど、もしかして関係者なのかしら?」
「ああ、こいつ、トオルの従兄弟だから雰囲気は確かに似たところもあるかもな」
「雰囲気どころか話し方とか完全に一致しているのだけれど……」
夏休みの間に修正するのかと思ったら未だに『僕』のままだもんな。
「ユウくん……浮気は良くない……エリスと三人で、海であんな破廉恥なことをしたのに……」
「いや、アレは不可抗力だろ!
てか俺は騙されたんだ!むしろ被害者だ!」
こいつ、秋吉と二人で溺れたふりしやがったからさ、ちょこっとだけ人工呼吸……的な?
もちろんマウストゥマウスじゃなくて胸を押す方の?
まぁ最初から小芝居だってわかるような演技だったからただのじゃれ合いである。
……ちょっとだけおっぱいを揉ん……触れたけど、じゃれあいったらじゃれあいなのである!
「ふふっ、ティアラの水着姿。更衣室で盗撮。部屋のトイレで」
「お前、いつか職務質問からスマホの中身を確認させてくださいのコンボで逮捕されるぞ……」
とりあえず先に俺が、無罪かどうかの確認をしてやるからその画像と動画を送っておきなさい。
たぶんみんなの就きたい職業ナンバーワンだよね?
違法業者から回収された無修正DVDの確認作業をする仕事。
まぁそんなことはどうでもいいとして、久々の学校生活再開である。
毎日通ってるとただただ面倒くさいだけなのに、長期休暇を挟むとちょっとだけ恋しくなる学校なのである。
……三日くらいでまた元に戻るんだけどね?
休み明けの初日なので、始業式以外は特に予定などなく、昼前にはそのまま帰宅する俺……と、アテナ。
「いや、どうしてついてくるんだよ?」
「べ、別にいいじゃないか……」
うん、確かに別にいいんだけどさ。
こいつとは夏休み中一緒にダンジョンに入ってたりもしたから、近くにいることにそんなに違和感はないしな。
問題があるとすれば、もともと男だったから距離感を間違えそうになることくらい?
こうして並んで歩いてるとどこからみてもただの美少女なんだけどね?
「しかしお前、夏休み中もほとんどズボンだったから、制服のスカート姿に違和感が半端ねぇな……」
「悪かったね!自分もヒラヒラスースーするから下に短パンを履いておかないとものすごい不安なんだよねぇ……。
あとお前じゃなくてアテナね!」
「そこはほら、短パンじゃなくてブルマとかスク水とか?そういうのにすればいいのに」
「それ、ただ君が見たいだけなんじゃ?
そもそも、そんなもの何処に売ってるのさ?」
鈍器砲手のコスプレコーナーとかじゃね?知らんけど。
「そういえば、次のダンジョン探索からは前のグループに戻るのか?」
「んー、どうだろう?えっと……君はどうすればいいと思う?」
「知らんがな。なんだよその面倒くさい彼女みたいな質問」
「面倒くさいって言うの止めてもらえるかな!
……なんとなく自分でも少しだけそう感じてるんだから。
もう、夏休みは一緒に入ってたんだからさ。そこは『また一緒に』って誘ってくれてもいいじゃないかな」
「はたしてアレを一緒に探索してたって言っていいのかどうか、甚だ疑問だけどな。
初日に一時間くらいスライムの倒し方の説明と実演をした後は、離れ離れでソロ狩りしてただけだったよな?」
「確かにそうだけれども!……それでも、誘ってほしいんだよ!
そもそも普通なら『こいつ……俺と一緒にいたいのか?何だよ、可愛いやつだな!』ってなるところだよ?
それなのにどうして君は『何こいつ、面倒くせぇ』ってなるのさ!」
「どうしてって言われても……一人暮らしが長かったから?
俺が甘えたい時以外はそばに誰もいないほうが気楽じゃん?」
「何その、逆に清々しいとさえ感じられるほどのクズ男発言……。
君の一人暮らしなんて始まってからまだ2クールくらいだよね?」
うん、自分でもそう思うから何も言い返せないんだけどさ。
こっちでは2クールでも異世界足したら十年以上だからな?
いや、そうじゃなくて、普通の人間は六ヶ月を2クールとは言わないんだよ!
「でも、お前と一緒にいるのはそんなに嫌じゃないぞ?
他のやつと違って気楽だし」
「き、急にそんなこと……」
「たぶん変な色気とか感じないからだと思うけど」
「色々と台無しだよっ!!」
賑やかな二人の帰り道……。
「いや、マンション前解散じゃないの?
どうして一緒に階段上がってくるの?」
「どうせ暇なんだから別にいいじゃん……」
まぁ別にかまわないんだけどさ。
いかんな、こいつが男友達だった頃の補正が入っちゃうからついつい対応が甘くなってる気がする。うん、他人に聞かれたらホ○疑惑が生まれそうな発言だな。
「どうしたのさ?いきなりそんな真面目な顔して」
「いや、友情とは何かについて考えてた」
「玄関先で急に!?」
それもこれも全部お前のせいなんだけどな!
―・―・―・―・―
夏休み明け……上がったステイタス確認回の予定が甘酸っぱい感じに。
なんとなく幼馴染系ヒロインっぽい立ち位置にいるアテナちゃん。
気をつけて!その位置は有利なように見えて負けヒロインの定位置だから!(笑)
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