第038話 【心の中はピンク色した曇り空】
思ったよりも長くなったアテナと久堂の今後の動向の話――久堂に関しては一切興味が無いんだけど――が終わった後は、俺の今までの家庭環境……というか、生活状態の説明を原西父にしておくことに。
さすがに予備知識無しで六条さんとの話し合いだと、説明に時間がかかりすぎるからさ。結局ダンジョンに入る時間は取れなかったよ……。
そもそもいきなり『迷惑は掛けないから後ろ盾になってくれ』では納得してもらえないだろうし。
六条さんやアテナと、過去話はすでに二回しているのでそこそこスムーズに、物語仕立てで俺の話は始まる。
両親が事故で二人とも一度に亡くなったこと。
いきなりのことで、ただただ呆然としたこと以外は殆んど何も覚えていないんだけどさ。
……異世界からこっちに帰ってきて、まだ一度も両親のことで泣いてないどころか、家には仏壇も無いし、写真すら飾りもしてない俺は情の薄い人間なんだろうな。
そして、そんな放心状態だった俺を他所に、その財産――持ち家や遺品、両親名義の預金、保険金などもすべて親戚連中(にほんじゅうけつきゅうちゅう)に持っていかれたこと。
これと言って思い出の品もなかったけど、形見分け名目で全部持っていかれたからな。
今となっては自分で最高級なゲーミングPCでも買えるけど、親父に頼み込んでやっと買ってもらえたパソコンをクソ従兄弟に盗まれた恨みは必ず晴らしてやる。
そんな火事場泥棒のような親族の筆頭が、ほぼ絶縁状であった父方の祖父母と大叔父で、祖父母が現状では俺の未成年後見人となっていること。
昔から金にがめつい上に、兄弟揃って暴力的な爺さんとヒステリックな婆さんだったらしく、父の結婚と同時にこちらから三行半を突き付けていたらしいんだけど……両親が死んだと聞いてこれ幸いと家に乗り込んできたわけだな。
うん、火事場泥棒がこれほどしっくり来る人間もなかなか居ないだろう。
もちろん後見人などというのは名ばかりで、ひと月目から俺の生活費の振り込みすら滞っているということ。
このへん、頭の悪い連中なんだよな。
だって、もしも俺が公的機関に相談でもすれば家賃も、食費すらも振り込んでないんだから責任問題になるのはわかりきってることじゃん?
まぁ、あいつらの知ってる俺は心神喪失状態だったし、そのまま野垂れ死ぬか、勢い余って自殺でもすると思われてたんだろうけどさ。
……なんだろう、こうして一つずつ並べていくと無性に腹が立ってきたんだけど。
いや、これからその仕返しをしようって言うんだから別にいいんだけどさ。
「なるほど、高校生で一人暮らしだとは聞いていたがまさかそんな理由があったとは。
よく聞く話といえばそれまでだが、そこまでまともな大人が回りに居なかったとは……。
そんな中、君はよく、それほど早く立ち直れたものだな。
そもそも何なのだその年寄り連中は!食費も生活費も出さないなど、育児放棄どころか下手をすれば殺人未遂だぞ!?」
「まぁ俺から連絡が入ればその都度嫌味でも言いながら、自宅まで小銭を取りに来させようとでも思ってたんでしょう。
ありがたいことに、今の自分にはそんな連中に頼らなくとも生活できるだけの生活基盤と稼ぎがありますので、春から今まで一切の関わりは持ってませんけど」
現金は多くはないけど魔石貯金はそれなりに溜まってるしな!
「それに、立ち直ったというのは……どうでしょうか。
ただ感情が壊れて、おかしくなってるだけかもしれませんよ?」
少なくとも異世界で魔物と戦うときに恐怖心とか、生き物を殺す忌避感とか感じなかったからなぁ……。
うん、薄情ななんてレベルの話ではなく、やっぱりどこか人間としての感情が壊れてるんだろう。
我が事のはずなのに、ちょっと危ないやつだなと他人事みたいに考えている自分に苦笑いする。
「……そうか……君は……頑張ったのだな」
何が琴線に触れたのか、滂沱の涙を流し始めた原西父と、いきなり俺のことを抱きしめる原西母。
いや、マジで、一体何がどうした!?
「大丈夫、もう一人で頑張らなくても大丈夫だからね……。
そうだ!あなた、ユウギリちゃんをうちの子にしましょう!」
「確かに、彼にはまともな保護者が必要だとは思うが、さすがにいきなりそれは……」
「だって、だってこの子はこんなに健気に頑張っているんですよ!?
言いたくないこと、悲しいこと、寂しいことだったでしょうに!
感情を押し殺して、それほど付き合いすら無い私たちを信用して話して、相談してくれてるんですよ!?
明るく振る舞ってますけど……心の中はいつも曇り空どころか台風なんですよ!?」
いや、十年前ならともかく、今はそんな自暴自棄になってはいないよ?
普段から普通に喜怒哀楽も感じてるしさ。
むしろ、最近の俺の心はほとんど毎日青空なんだけど?
同世代の学生さんに比べればビックリするほどお気楽なんですけど?
今なんてほら、少し年上ではあるけど綺麗なオバ……お姉さんのおっぱ……ちっぱいが顔に押し付けられていてそこそこ桃色のオーラを漂わせてると思うよ?
てかさ、俺的には鬱陶しさ以外には何の感情もわかない親戚(たにん)の話をしてただけなのに、彼女の中ではどんな物語に仕立て上げられてたんだろうか?
あと、優しくされると何もしない怠惰な人間になってしまいそうなので勘弁してください。
「まぁ、これまでの話を簡単にまとめるとそんな感じでして……言い方は悪いですが、何かの際の後ろ盾になっていただけないかと」
警察関係者が後ろに控えているとなればいくら馬鹿な連中でも現状を理解するだろうしさ。
てか、原西母(愛唯、メイさんと言うらしい)、そろそろ離して欲しいんだけど?
娘さんが無表情のままこちらを見つめ続けていてとても怖いので。
まぁわりと幸せな状況なので、自分から脱出しようとは思わないんだけどな!
……数分と立たずにアテナの手により引き剥がされちゃったけど。
「君、ろくでもないことを考えてる時の顔になってるよ?」
マジかよ!?人妻のちっぱいの感触を反芻してただけなのに!?
……うん、ろくでもないことなのは確かだな。
「おにいたん、おにいたんがこれからムラサキのおにいたんになるのなら、そのままでは駄目だと思うのです。
おにいたんは確かに腹筋は良いものを持っていました。
しかし腹筋だけで筋肉が完成するわけではないのです。
つまりおにいたんはまだまだヨワヨワおにいたん、ザコザコおにいたんなのです!」
「ムラサキ?ゆ、ユウは別に、お兄さんに……僕のお婿さんになると決まったわけではないからね?
あと、他所様に筋肉を強要するのは止めなさいといつもいってるでしょ?」
「この愚姉は何を言ってるのです?
まったく、お腹のぷにぷにした駄姉はこれだから……。
頭お花畑にしている暇があるなら庭でスクワットでもしてきてください」
「この妹、僕が男から女に戻った途端に態度が辛辣すぎるんだけど!?
あと、僕のお腹はなんかこう、ちょうどいい感じの柔らかさであってぷにぷにはしてないからね?」
「さあ、おにいたんはこっちに!
今のままでは肉体に筋肉余裕がありすぎるのです!
とりあえず背中に平家蟹が現れるまでバックエクステンション!チンニング!デッドリフトなのです!
これからもっと鍛えて、最後はビクトリーと叫ぶのです!」
ちょっとどころではなく何を言ってるのかわからないです……。
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