第037話 【ユウギリは国家権力の片鱗を手に入れた!】

 娘さん、そして影は薄いくせに性格の濃すぎる従兄弟(クズ)の性別も元に戻り、捨てられた奥さんの面影を息子がTSした娘に見ていた叔父以外は全員が幸せになった原西一族。

 てか、従兄弟(トオル)、『最近は女性とキャッキャウフフするだけではなく、殿方も行けそうだと思えてきておりましたのに……』じゃねぇんだよ!

 とりあえず悩まし気な目でこっち見んな!


 あと、『さすがにこの姿では女子校には通えませんし、これからどういたしましょう……』とか言われても知らねぇんだよ!

 そう、残念ながら俺には、残念な親子にしてやれることなんて何もないんだ。

 まぁそんな、久堂家、原西家のご家族だけで話し合ってもらいたい内輪の悩みは置いておくとして。


 原西父が言った『困ったことがあれば何でも相談してくれ』についてである。

 社交辞令として流してしまおうと思ってたんだけど……これだけ(精神的に)迷惑を掛けられたからな?図々しいとは思うけど、早速使わせてもらおうかと思ってるんだ。


「えっと、娘さんの事は偶然の結果だと言っておきながら、舌の根も乾かないうちにこんな事を言うのはそこそこ図々しいとは思うんですけど……原西さんに相談にのっていただいきたいことがあるんですが」


 むろん軽犯罪の隠匿をしてもらいたいとかそういう話では無いからな?

 品行方正な俺は所構わず立ちションも露出もしないし。


 六条さんとも知り合い、魔石を仕入れさえしなければ自由に使えるお金を稼ぐ事はそれほど苦労しなくなってきた今日このごろ。

 ほら、思い出しても腹が立つだけだから、あんまり気にしないようにしてたけど……喉に刺さったままの小骨みたいな存在があるじゃないですか?

 そうだね、戦乱の時代なら真っ先に族滅したい人間筆頭の俺の親戚だね!


「ああ、もちろん構わないが……それは混み入った話なのかね?

 もしも私と二人で話したいと言うのなら場所を移すが」


「いえ、娘さんにも軽く話したことですし、そもそも身内の恥と言うだけで隠し立てするようなことでもないので。

 でも、一緒にもう一人、力を貸していただこうと思ってる方がいらっしゃいますので、そちらの予定を確認してからとなりますが……お時間ありましたら夜にでも食事をとりながら詳しく説明させていただきたいのですがいかがでしょうか?

 もちろん、ご家族みなさんの食事代は持たせていただきますので」


「ははっ、なんなんだねその、どこかの商売人みたいな話し方は。

 君は『娘の同級生』そして『友人』なのだから細かいことに気を使わなくて構わないさ。特に友人というところは非常に大切だからな?

 いや、そもそも警察官である私が食事をご馳走になった上で相談に乗ったりしたら、それは立派な収賄になるからな?

 ふっ、これが本当の汚職事件(お食事券)!ってな!」


「……」「……」「……」「ハハッ!」


「気を使って某ネヅミの様な笑い方をするのは止めたまえ。

 今日は一日休暇を取っているので、この後よほどの大事件でもなければ時間は大丈夫だ」


 原西父の許可も貰えたので、早速六条さんに連絡を入れる。

 アドレス帳を呼び出して名前をタップ、プッシュ音から呼び出し音に変わる瞬間に……通話が繋がった。


『もしもし、綾香です。今日はどうしたのですか?せっかくの夏休み初日、まさかユウギリさんがダンジョンに訪れないなんて。もしかしたら夏風邪でも召されましたか?もしもそうなら仕事は切り上げてこのままお家まで看病に伺いますが。あっ、そのまえに介護用の衣装を用意しないと……ユウギリさんはミニスカ看護師とミニスカ女医ならどちらがお好みでしょうか?私的には白衣がとても似合うと思うのですが。でも私、お料理だけはあまり得意では無くてですね。この前二人で行った中華料理店で海鮮粥でも持っていこうかと思うのですが。あっ、ユウギリさんは魚介類はそれほどお好きでは無かったですよね?えっ?それってもしかして……お料理よりも私を召し上がりたい……つまりそういうことでしょうか?』


「うん、とりあえず何言ってるのかわかりませんので一旦落ち着きましょう?

 はい、すってー、はいてー」


『スー……ハー……スー……ハー……スッスッハー……スッスッハー……ヒッヒッフー……ヒッヒッフー……』


「どうして深呼吸からマラソンの時の呼吸の仕方を経由して最終的にラマーズ法になってんだよ……」


 相変わらず絶好調な様子の六条さんである。


『……久しぶりのユウギリさんからの電話で少し取り乱してしまいました。

 次の納品の予定日まではまだ日にちはありますが、何か緊急事態でも発生しましたでしょうか?

 いえ、もちろん一日二十四時間、あなたからの連絡なら構わないのですが』


「これでも一応は常識人ですので、よほどのことがなければ夜中や早朝には連絡はしませんから待たなくていいですからね?

 そう、よほどのことが、なければ、夜中や早朝に、連絡は迷惑ですもんね?」


 いつの間にか近くで聞き耳を立てているアテナに聞こえるように二回繰り返す。

 おい、目を背けるんじゃない、ちゃんと聞いておくようにな?


「えっと、今日はお仕事の話ではなくプライベートなお話をしたくてですね。

 お仕事中にご迷惑だとは思ったんですがお電話させていただきました」


『プライベート……ああ……なんて良い響きの言葉なんでしょうか』


「それで、急な話で申し訳ありませんが今晩なんですけど……お時間ありましたらご一緒にお食事しながらお話をと。

 あ、会っていただきたい方がいるのですが……それは大丈夫でしょうか?」


『プライベート……お食事……会ってもらいたい人……わ、わかりました!

 そのお誘い、例えこの桜木迷宮が氾濫して近隣近県が阿鼻叫喚となろうとも受けさせていただきます!』


「何となく最近の運の悪さだと本当に事が起こりそうですので、不穏なフラグを立てるような発言は止めてください。

 時間の方は……はい、十九時ですね。場所は……ああ、料亭を既に押さえてくださったと。

 では、時間までに直接そこに向かいますので……パソコンからメールで地図も送信済みと、はい、それでは後ほど。

 引き続きお仕事がんばってください、では」


 さすがの六条さんである。

 最後にアイシテルのサインがどうとかこうこか言ってたけど気にせずに通話を終わる。


「……何というか、離れていても聞こえてくる、とても元気のいい女性の声だったね?

 それで、今の女は一体誰なのかな?綾香と名乗っていたみたいだけど……うちのクラスの女子ではないよね?

 その人とはすでに一緒に食事をしたことがあるみたいな事も言ってたよね?

 頻繁に連絡を取り合ってるみたいな雰囲気を出してたよね?

 なんなの君、彼女の家族に挨拶に来ておいて、電話で違う女とイチャコラするとかさ。やっぱり透の事をとやかく言えないんじゃないかな?

 ふう……ちょっと怒りで、これほど温厚な僕がジャックザリッパーに変身しそうなんだけど?」


「まず、ここは友人の家ではあっても彼女の家では無いんだよなぁ……。

 あと、アレと同列扱いされるのはさすがに不本意だから勘弁して欲しいんだけど?

 てか、ここで変に反論すると、浮気の言い訳をしてるみたいになっちゃうから物凄く嫌なんだけど……まぁするんだけどさ。

 今のはお仕事の相手で迷宮事務所の六条さんだよ。ダンジョン関連の事で色々とお世話になってる支部長さん。今までにも名前くらいは出してると思うけど?」


 そう、一緒にホテルの部屋でお話したことはあるけど特にやましい相手ではない……いや、そもそもどうして俺が友人であるこいつにそんな気を回さないといけないのか……。

 そして、そんな俺の返事に反応したのはアテナではなく探索者である叔父。


「えっ?最近の学生って迷宮事務所の支部長に伝手なんて持ってんの!?

 それも楽しそうに相談できる様な親しげな関係性で。

 俺、数年単位で同じダンジョンに潜ってるけど支部長どころか受付嬢にすら名前を覚えられてないんだけど……」


「まぁ……ダンジョンに通い出した初日から色々とありましてですね。

 というわけで原西さん、今晩十九時……お時間は大丈夫そうでしょうか?」


「あ、ああ、それは大丈夫だが……迷宮事務所の今の支部長と言えば『あの』六条家のご令嬢だろう?

 こちらに来たばかりの頃はあまり噂にもなっていなかったが、最近ではその手腕、そして美しさから切れ者の才媛と呼ばれる時の人だぞ?

 県の上層部の人間でも、よほどのことでもなければアポイントメントを受けてもらえないと愚痴っているのを聞いたことがあるが……。

 そんな人間を電話一本で呼び出すとか……君の人間関係は一体どうなってるんだ?」


「話してみると案外面白いお姉さんなんですけどね?」


「担任といいその人といい……先の事を考えるなら同級生がいいと思うんだけどね?」


「もっと先を考えるならムラサキくらい年下の方がいいと思うよ?」


 いや、さすがにアテナ妹は年下すぎるから……てか、その声音とこちらを見つめる挑発的な笑顔……うん、この子に深く関わるのは(世間体が)とても危険な気がする!


 とりあえずまだ昼飯も頂いたし?

 時間もまだたっぷりとあるし、このままダンジョンに潜りに……いや、そういえば男に戻った従兄弟(透)だけじゃなく女の子に戻ったアテナもこれからどうするんだろう?


「てか、アテナはその姿だとダンジョンには入れなくなる……。

 いや、入退出はカードで管理してるみたいだし、顔写真があるわけでもないからダンジョンの出入りだけなら問題はないのか?

 でも、さすがに名前も姿も違うとなると、そのまま今の学校には通えなくなるよな?」


 唯一と言ってもいい同性の友だちがいなくなってしまったことに、少しだけ寂しいような心細いような気持ちになる俺。


「そう言えばそうだね……。

 でも、そんな寂しそうな顔をしなくても大丈夫だよ?

 僕の名前で透が通っていた『リリアナ女学院』から転校届けを出せばいいだけの話だからね。

 普段から真面目に授業は受けてるから転入試験も問題はないだろうし」


「何そのお嬢様学校通り越して風俗店みたいな名前の学校……。

 なるほど、確かに名前が戻ったら透とは無関係のただの転校生だもんな」


「えっと、その場合私(わたくし)は……じゃなくて、僕はどうすれば良いのかな?」


「好きにすればいいんじゃないかな?」


「酷い……人の体をあんなに弄んでおいて、そのような突き放したお言葉……」


「アテナのついでに勝手に元に戻ったのを弄んだとか言うんじゃない!

 とりあえずお前は情緒不安定な奴にしか見えないから、まずは喋り方を統一することから始めろよ」


「確かにそうですよね……わかりましたわ!」


「違う、そっちじゃない」

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