第036話 【真実はいつもひとつ!……とか言いそう】

「そう、あれは、俺がその幸運のお守りを手に入れるさらに一年前……。

 俺の心から愛する妻であった愛が……」


「……他界されてしまったんですか?」


「いや、俺の浮気が原因で離婚された」


 おい!今の話し方はどう考えても奥さんが亡くなった感じの語りだっただろうがよ!

 あと、オッサンの名前が『久堂信一』で、奥さん……元奥さんの名前が『愛』って!


「……もしかして、浮気相手の名前は」


「今はそんな話はどうでもいいだろう!?」


 確かにどうでもいい話だけれども!むっちゃ気になるんだよ!


「そう、愛があの日いなくなってから……俺の生活は……荒れた。

 そうだな、あの頃は働きもせず……毎日毎日……」


「ランさん(仮名)の元に通っていたと?」


「猫カフェ通い。子猫のアユミが可愛くてな……。

 というか、俺の浮気相手の名前をどうしてお前が知ってるんだよ!?」


 浮気相手、本当にLANだったのかよ!

 あと子猫のアユミちゃんは本当に猫だったんだろうな!?


「ひと月、み月、半年と、そんな自堕落な生活をしていた俺。

 半年後、なんとか愛にメールでの連絡だけは許してもらえることになり、ようやく立ち直れた俺」


 ゴツい外見なのに豆腐メンタルすぎだろこのオッサン……。


「それからダンジョンにもまた潜れるようになり、そこで見つけた幸運のお守りを……料理、洗濯、掃除に近所付き合いまで、ずっと俺の生活を支えてくれた透と、昔ちょっとだけ憧れていた義姉さんの娘であるアテナちゃんにプレゼントしたいと思ったのはそこまで悪いことなのか!?」


「いや、知らねぇよ……」


「そう、俺はただ、息子と姪に少しだけ幸せになってほしかっただけなんだよ……それなのに、それなのに四年前のあの出来事……」


「確かに……そんな、自分を支えてくれた息子さんがいきなり娘さんに、そして親戚の娘さんまで巻き込んで……」


「そうなんだよ!息子が……息子がいきなり愛する妻に似た娘になるとかどう思う!?あの時の俺の心の動揺、こんな俺を支えてくれた息子、もちろん大好きだ!でも、でもだ!俺は、昔から、娘が欲しかったんだよ!そう、それが、こんな形ではあったが、叶えられた、いや、叶えられてしまった俺の気持ちっ!真紅璃くんにはわかるまいさっ!!」


「はい、一ミリもわからないですし、わかりたくもないです」


 あとちょっと気持ち悪いので帰りたいです!


「そう、それからの娘と俺の幸せな日々。

 パパ、新しい服と下着が欲しいの。

 パパ、新しいスマホが欲しいの。

 パパ、中学からは私立の女子校に行きたいな?

 パパ、友達と遊びに行くからお小遣いが欲しいの。

 ……娘の笑顔を見るためなら一日二十時間ダンジョンに潜ることだって苦にならなかったさ!」


 どうしてだろう?俺の心のスクリーンでは『父娘のアットホームな日常』ではなく、『ソファに座る太客とキャバ嬢』で映像が再生されてるんだけど。


「ああ、あと、ここだけは絶対に勘違いして欲しくないのだが、俺が娘に対して邪な感情を持ったなどということはまったくないからな!

 何故ならば!俺は!妻一筋の男だからな!」


「いや、あんた最初に浮気して離婚されたって言ったじゃん!」


「でも、そんな夢のような日々が……昨日いきなり壊れさってしまったんだよ……。

 いや、息子が娘になるなんて、オカシナことだったとはわかっているんだよ?

 でも、理屈じゃないんだ……だから君に対して、出会い頭から不誠実な態度を取ってしまったんだ……申し訳ない」


 そう言ってこちらに深く頭を下げるオッサン。

 いや、特に頭を下げてもらうような理由も無いんだけど。

 てかさ、おかしなオッサンがよくわからない告白をしてだだけだよね?

 どうして原西家一同はしんみりとした顔になってんの?

 これ、俺もこのよくわからない告白の小芝居に付き合わないと駄目な感じなのかな?


「わかりました。こちらこそあなたの事情も考えずに失礼な発言を……」


「待ってっ!お父様……じゃなくて、父さんは……まったく悪くございませんの!……じゃなくて、ないんだ!

 そう、これは私(わたくし)……じゃなくて、僕が四年前にその石に願った事が始まりなのですからっ!……じゃなくて、なんだからっ!」


 おい!とりあえず何を聞かされてるのかわからない自分語りが終わったんだからもうそれで『聖○たちのララバイ』を聴いて終了でいいだろうが!

 既にお腹いっぱいなんだから事の始まりとかどうでもいいんだよ!

 あと、トオルくん(本物)の一人称は『わたくし』だったんだ?確かに通っていたのがお嬢様女子校らしいもんね?


 てか、何なのその平民の学園に通い出した貴族令嬢が身分を隠してるみたいな喋り方。

 くそっ、ちょっとだけコイツの話に興味を持っちまったじゃねぇかよ!

 そしていつの間にか俺の膝の上に頭を乗せて寝ているアテナ妹!自由人か!


「あの日、お父様と一緒にここ、伯父様のお屋敷を訪れた私。

 そしてお父様から頂いた幸運のお守り……」


 えっ?喋り方は訂正したほうじゃなく、そっちのご令嬢言葉で揃える感じなんだ!?


「そう、当時の私(わたくし)にはとある悩みがございました……。

 ここで謙遜しても仕方がございませんので、はっきりと申しますが、母親似で今よりも中性的な色香を漂わせておりました私、通っていた学び舎でも蝶よ花よと持て囃されておりました。

 もちろん、そんな私でしたので、異性からのお誘いなども……たくさん頂いておりましたのよ?

 そんな彼女たちと楽しく逢引をかさねていた当時の私。しかし、そんな楽しい時間は……長くは続きませんでした……」

 

「うん、確かに小学校の頃の透は毎日女の子と一緒にいたよな」


「あれはユカリさんと遊技場(ゲーセン)の小箱(プリ○ラ)の中で写真を撮っていた時のこと。たまたまそこに遊びに来てきたタカネさんとクルミさんに見られてしまい」


「あー、友達と一緒にプリ撮ってたら違う友達に見られてからかわれたとか?」


「いいえ、その時の私達はチュープリと言うものを撮っておりまして……。

 ユカリさんと、前日同じ様に写真を撮ったタカネさんと、一昨日写真を撮っていたクルミさんで掴み合いの大喧嘩になってしまいました」


「あーそれは……てか、お嬢様言葉で誤魔化されそうになったけど三日続けて違う女の子とチュープリ撮ってたのかお前!?

 いや、ちょっと待て!アテナが男になったのって確か小六の春休みだって言ってたよな?」


 えっ?つまりこいつは小学生でそんな不特定多数の女の子とお付き合いとかしてたの?


「その後、彼女たち……に呼び出された、ユウコさん、アイコさん、リョウコさん、ケイコさん、マチコさん、カズミさん、ヒロコさん、マユミさん……思い出せるのはそれくらいですが、女の子約三十人に追い詰め……問い詰められることに」


「三十人って、小さな学校なら一学年全部の女子じゃねぇか……。

 てか、おそらくは何らかの手をだしたであろう女の子の名前くらい全員覚えとけよ!」


「彼女たちの怒り、血走った瞳……あの日の恐怖を忘れたことは今まで一度もございませんわっ!

 あなたも……同性ならば……わかって頂けますわよね?」


「何一つわからないんだけど?」


「ユウ、胸に手を当ててごらん?……本当にわからないのかな?

 明日は我が身って言葉、覚えておいたほうが良いと思うよ?」


 いや、どうしてこっちに流れ弾が飛んできてるんだよ。


「それからと言うもの、私の一挙手一投足を学友から監視される生活。

 まるで針のむしろのような視線……それまでは毎日誰かが手伝ってくれていた家事もすべて自分でやることになり……そんな日々の生活、とても耐えられるものではなく……彼女たちとの逢引も週に十人から三人まで激減いたしました」


「自業自得だろ!って言おうとしたけどその状況でもデートしてたのかよお前!?

 てか、週に十人って一日に何人計算なんだよ!あと三人でも多すぎだよ!

 いや、そもそも家のことってお前じゃなくて彼女達がやってくれてたのかよ!」


「君も頑張れば週に五人くらいなら誘えそうだけど?

 毎日の家事だって、喜んでやってくれる人がいそうだよね?」


「とりあえずアテナが何かを言う度にここん家のお父さんが俺に向かって殺気を飛ばしてくるから黙ってようね?」


「もうすぐ中等部への進学、でも、このままでは私のお先は真っ暗……もう何処か遠くに逃避行するしかございませんのっ!?などと益体もない事を考えていた、そんな時ですわ!お父様が私にあの青い宝石をプレゼントしてくださったのは!

 色違いではありますが、私と同じ様に宝石を持ち、喜ぶアテナさん……そんな無邪気な彼女を見てふと心をよぎった悪魔の囁き……。

『女の子は無邪気でいいなぁ……ていうか、僕が女の子になれば女の子と仲良くしてても誰にも何も言わないんじゃないかな?むしろ女の子同士ならキスだけじゃなくもっと過激なスキンシップも可能だよね?そうだよ、僕が男だからみんなにもっと責任感を持てとか男のクズだとか言われるんだ!』

 そう、幸か不幸かその時の私の掌の中には幸運のお守り……気づけばそれをギュッと強く握りしめ……『女の子になりたい女の子になりたい女の子になって女の子といちゃいちゃしたい責任は取りたくない!』と、強く……とても強く願っていましたわ……」


「透……そうだったのか……まさかそこまで思い詰めてたのか……。

 愛だけに生きていた俺が愛に捨てられて、しかし愛ゆえに愛から立ち直れなかった……そんな俺を支えてくれていたお前まで愛に苦しんでいたとは……父さん、気づいてやれなくてごめんよ!

 真紅璃くん!娘は何も悪くないんだ!全部、全部この俺の責任なんだ!」


「お父様……申し訳ありません……私がもっと早くこの罪をお伝えできておりましたら……真紅璃さん!私はどんな罰でも受けるつもりです!もしもあなたが望むのならこの身体を差し出すことも厭いません!」


「いや、いらないけどね?」


 そのままガバっと抱き合い声をあげ、涙を流す久堂親子。

 その姿はちょっとした地獄絵図である。

 どう纒めるんだよこれ……いや、そもそもの話さ。どうして俺がこの二人を追い詰めてる探偵役みたいな扱いになってるんだよ。


 アテナの治療?にちょこっとだけ関わっただけで、完全に部外者だよな?

 視線をそっと原西父に向けてみる……どうして目を反らした!?

 ならば原西母は……あれ?居ないんだけど?何処に行ったんだ?

 と、キョロキョロしてたら襖が開き、


「はいはい、そろそろいい時間ですしお昼にするわよー」

 

 ああ、ご飯作ってくれてたのか。

 いや、あの混沌とした状況でこの場を抜け出して料理を始めるとかなかなかの剛の者だな原西母!?

 もちろんこの機会(昼食)を逃すとまた妙な小芝居が始まりそうだからこのビッグウエーブには乗るしか無いんだけどな!!


―・―・―・―・―


予定より三話ほど増えてしまいましたが、アテナちゃんのお話は一旦終了です♪


てことで、犯人はヤス。ではなく、透くんでした!

いや、犯人っていうか、情緒不安定な状態での不幸な事故……みたいな。

そして久堂親子の性格がとても濃い……(笑)


長くなりすぎた上にユウギリくんが興味を持たなかったので本編では説明されていませんが、赤いキャ……赤い宝石と、青い宝石はペアの魔導具です。

魔法力については魔石からではなく、こちらもダンジョン産で、信一オジと愛さんがペアで身につけていた『ダンジョン内で二十四時間チャージしておけば、覚えている魔法を一度だけ使える腕輪』から……なのですが、オジ、魔法系スキルは持っていなかったため、ただのアクセサリーにしかなっていないのでまったく気づかれることは無く。


そして『幸運のお守り(性別交換の魔導具)』。

オジが答えたように、ちゃんと鑑定はしていたのですが、簡易鑑定では鑑定できなかった(子供に見つからないように無駄に高性能な偽装機能が付いている)けど、異世界ではマンネリ夫婦が使う『下世話な魔導具(ジョークグッズ)』だったりします。

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