第034話 【夏休みの初日、友人の秘密 その5】

 深刻そうな内容から一変、なんとなくいい感じに着地することが出来た『アテナ』とのお話。

 いや、その後も、むしろその後のほうが大変だったんだけどな?

 だってほら、もともとは『男の友人』が、話をするついでに泊まりに来るって話だったじゃないですか?

 それが『知らない(知ってる)女の子』と一夜を過ごすなんてことになると……意味合いが大きく変わっちゃうからね?


 もちろん友人相手に手を出すか、他のものを『射精(だ)す』とか、まったく考えてもいない俺だけど。

 本当に考えてないんだからな?


「とりあえず寝る時は一緒のベッドでいいかな?」


「君、最初はダンボールで寝させようとしてたよね!?

 ……君が本当にそれで構わないなら、別に僕はそれでもいいんだけどね?

 ただし、その際は既成事実として大々的に発表させてもらうよ?」


「勘弁してつかぁさい、勘弁してつかぁさい……」


「どうして急に広島弁……。いや、でも、本当にどうしよう?

 冷静になって考えると、さすがにこのままここに泊めてもらうのも……色々とマズイよね?

 もちろん君を異性として疑ってるとかじゃないんだよ?でもほら、僕が帰宅した時の家族の反応とか……さ」


「あー……何ていうか子煩悩そうな親父さんだったもんな。

 この前お前ん家から送ってもらった時も、まるで俺がお前の妹を狙ってるんじゃないかみたいな反応だったし。

 あれ?もしかしてあの時から……妹じゃなくてお前のことを狙ってる耽美系の男だと思われてた可能性も?」


「確かに帰ってきてから君のことを根掘り葉掘りと質問されたけどさ。

 あとその『お前』って呼ぶの禁止ね?

 急に変わったから慣れないだろうけど、ちゃんと名前で呼んでね?

 でも、もうそれなりの時間だし、帰るのも面倒……うわぁ……」


 時間を確認しようとスマホを手に取ったアテナ。

 名前で呼ぶのは……なんとなくまだ恥ずかしいんだよなぁ……。


「てか、何なんだよ今の、物凄く嫌そうな『うわぁ』の声は」


「ん?ああ、父からさ、電話とかメールとかSNSのメッセージとかの詰め合わせセットで合計数百件くらい連絡が入ってて……えっ?近くのビルに狙撃手を配置した?」


「おい!何だ今の、日本ではあり得なさそうな、とてつもなく物騒な発言は!?」


「ち、ちょっと待っててね?早急に連絡しないとそろそろ始まっちゃいそうだから!」


 一体何が始まるっていうんですかね!?

 慌てて電話――父親に連絡を返すアテナ。


「もう、いきなり大量の着信……大きな声出さなくても聞こえてるから、

 ああ、なるほど……トオルが元に戻っちゃったって叔父さんから泣きながら連絡が入ったんだ?

 うん、僕も元に戻ったよ。うん、そう、この前の彼がさ……うん、嬉しいのはわかったからさ、聞き取りにくいから一度泣き止んで?」


 どうやら、息子、娘の体が戻った父親が二人で大泣きして喜んでいるらしい。

 イカツイ顔をしたこいつのお父さんと見知らぬオッサンが男泣きする姿を想像して、少しだけほんわかした気持ちに――


「今?今は普通に彼の家にいるけど?

 というかスナイパーが見張ってるなら言わなくとも分かってるよね?

 カーテンで影しか見えない?いかがわしいことをされていないか?

 ……彼とはまだそんな関係じゃないから!

 一度部屋から出てこい?すでに百人体勢で家を囲んで突入間近?まずは拡声器で人質開放の呼びかけを開始する?」


 ならないっ!!

 えっ?本当にスナイパーとか待機してるの!?


「何なの!?お前ん家の父親ってヤ○ザの親分か何かなの!?

 とりあえず呼びかけも突入も止めてもらって!?」


 そんなことされたら無実でも家を追い出されるから!

 ……彼女の必死の説得と即時の帰宅により、なんとか危険は回避されることとなった。


 てか、こいつのお父さん、その筋の人ではなく県警のトップらしい。

 ……いや、らしいじゃねぇよ!

 個人的な理由(娘可愛さ)で警察官の大量動員とか止めろや!血税の無駄遣い反対!



 そして翌日。もっちゃ(むっちゃの最上級)眠い……。いや、参ったよ、アテナがあれから寝かせてくれなくてさー。

 ……そう、あいつ、お父さんに連れて帰られてからずっと、むしろ、親父さんの車で帰る時からずっとメッセージ送ってきやがるの。

 最初はほら、悩んでた(んだよな?)体のことも解決したし?

 テンションが上がって興奮してるんだろうと思って適当に返してたんだけどさ。


 21時、22時、23時、そして午前零時……ピッコンピッコンと止まらないんだよ、メッセージが。

 さすがに面倒くさいから放って置いて風呂に入ったら……連絡の数がえらいことに……。

 何なの?原西(はらす)家はお父さんからヤンデレヤキモチ遺伝子みたいなのを受け継いでるの?

 六条さんでもこっちからの返信が止まれば翌日の朝七時までは我慢してくれるぞ?

 ……日中だと二時間しか待てが出来ないけど。



 てなわけで、話は戻って翌日。長期休暇を利用した、自由なダンジョン生活が始まる!

 ……と、思ったら、朝からアテナさん家の束縛パパのお出迎え(奥さんと娘さん二人とも同伴)で、原西家に出向くことに。

 まぁいきなり息子さんが娘さんになったからな。何が会ったのかの確認くらいはしておきたいのだろう。


「てか妹、車のシートピッチが広いから狭くはないけど、暑苦しいから膝の上に座ろうとするんじゃない」


「おにいたん、小さい子は体温が高いからこそ庇護欲がわくんだよっ!」


 何処情報なんだそれは……確かに子犬とか子猫とかヒヨコとかほんわか温かくて心地いいけれども。

 てか隣に座ってるお姉さんと、運転中のお父さんが鏡越しで、むっちゃ睨んでるのに気づいて?


「てか、以前お宅にお邪魔した時はまったく話さなかったから知らなかったけど、妹さんってこんな感じなんだ?」


「いや、普段はもっとこう……メスガキ?みたいな感じだけど」


 兄……じゃなくて姉の、妹の性格の説明が『メスガキ』ってなんだよ……。


「まぁそんなことより」


「小学生は最高だぜ?」


「ちげぇよ……お母さんとお会いするのは今回が初めてですよね?」


「僕ができるだけ接触しないように阻んでたからね?」


「貴様、娘だけでなく妻までだと!?

 あと、お義母さんとはどういう意味だ!昨日の今日で娘の恋人気取りか!

 君はただの他人なのだから、妻のことはおばさんと呼びたまえ、おばさんと!」


「あなた、運転中でも遠慮なく殴りますよ?」


 とりあえず挨拶しようとしただけだから!

 話が進まないから全員勝手に喋るの止めて?


 てな感じで、ワチャワチャとしたまま車は走り……原西家に到着。

 そもそも俺ん家からアテネの家までは徒歩圏内だしさ。

 玄関の扉を開き、家の中に入ると……仁王立ちで腕を組んだ不貞腐れた顔のおっさん。


 いや、お前誰だよ!?

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