第033話 【夏休みの初日、友人の秘密 その4】

 大きく胸元の開いたTシャツ。

 その胸の間には、赤く輝く菱形の宝石。


「うう……どうしてこの宝石はスイカの人のおっぱいの谷間ではなく、野郎の雄っぱいの真ん中を選んだんだろう」


「コレが埋まる前は僕もスーパー美少女小学生だったんだけどね!?

 あと、石の触り方が、指の動きがいやらしいんだけど?」


 美少女でも小学生にはこれっぽっちも興味なんて無いんだよなー……。

 てか、石に欲情していやらしく触る高校生なんかいねぇんだよ!


「六条さんじゃないけど、鑑定能力もない人間が触ったところで何も分かるはずもなく。

 もうおまじない的な感じで?女の子になーれ、女の子になーれってお祈りしながら優しく擦れば石もチン○ンもポロッと取れ――あ」


「もう、ちょっとくすぐった……今の不穏な感じの『あ』は一体何なの――眩しっ!?」


 マジカヨ!?本当に取れたんだけど!?

 宝石が床に転がり落ちると、途端に強い光を放つトオルの体。

 数秒後、その光が消えた後に現れたのは、


「べ、別に?もともと中性的な顔のだったし?身長が少しだけ縮んだだけだし?

 全体的に髪がちょっと伸びて、骨格が女の子らしくなっただけだし?

 おっぱいがそこそこ大きくなって、尻が柔らかそうになって、太もももむっちりしてるけど……あと、なんか匂いも甘い感じに変わった気がするけど、そんなこと全然気になんてならないし?」


「何を言ってるんだ君は……。

 って、今の光……君、いきなり何したのさ?

 えっ?あれっ?そこに転がってる赤い石は……」


「なんか、撫でてたら取れた」


「取れたんだ!?えっ?えっ?ちょっとまって、それってどういう事?

 いきなりのことで何も考えがまとまらないんだけど……」


「そうだな、一言で言うなら、雄っぱいがおっぱいになりました?」


「おっぱいを繰り返されも何の情報も伝わってこないんだけどね!」


 そ、そんなこと言われても……眼の前にいきなりおっぱいが現れたんだぞ!?

 そんな状況でちゃんとした状況把握が俺に出来ると思うのかよ!


「これ、大きく開いた胸元を覗き込むのと、濡れて張り付いたシャツに薄っすらと透ける突起物を見つめるののどっちに集中すればいいんだろう?」


「とりあえず両方見るのをやめてもらってもいいかな!?

 ていうか、僕の声、いきなり高くなった気がするんだけど?

 それに、いつもより君の視線が高い場所に……どうしてこんなに身長差が……あれ?」


 ようやく本人も自分の体の変化に気づいたらしく、ペタペタと、ベタな感じで体を触りまくる。

 もちろん一番の変化のあった胸も、両手で軽く揉んだかと思うと視線を落としてそのままガン見。


「俺も一緒になって確認していい?」


「いいはずがないでしょ!?ていうか、近い近い!あと鼻息が荒い!即刻離れて!

 むしろちょっと着替えてくるからここでじっとしてて!」


 胸を鷲掴みにした体勢のまま慌てて立ち上がり、浴室に駆け込んだかと思うと中から、


『も、もしも覗いたりしたら絶交……つまり絶対に交際してもらうからね!』


「絶交にそんな意味はねぇよ……」


 続けて風呂場から聞こえる『無い……無くなってる……』と言う声に、ちょっとだけこのままここに居るのが居た堪れなくなった俺は、ちょっとだけ変わってしまった友人のため、二度目の風呂上がりのアイスを買うためにコンビニに向かうのだった。



 往復、買い物込みで二十分程度のコンビニの往復時間。

 部屋に戻ってくると、先程とは違い胸元がガッチリとガードされた服を着込んでテーブルの前に座る少女の姿があった。


「もう着替えてたのか。ああアイスと飲み物を買ってきたんだけどいるか?」


「どうしてさっき出されたのがガリ○リ君、それもゲテモノ系だったアイスが急にハーゲン○ッツになったのかな?

 飲み物も普通のもの、いちごオレとバナナオレに変わってるし……。

 というか、君が今エアコンを切った理由を説明してもらってもいいかな?」


「そんなの北風と太陽に決まってるじゃん!

 風を吹き付けても旅人はコートを脱がないからな!

 じゃなくてだな、ほら、女子って冷え性らしいし?

 あれだぞ?床に直接座ってるとお尻が冷えるからこっちのベッドに!

 ……まぁ冗談はこれくらいにしてだな」


「暑くなっても脱がないからね?

 ていうか、君の冗談はどこまで本気なのか分かりづらいんだよ!」


 先程までの混乱状態から回復したのか、いつの通りの雰囲気にもどった彼……ではなく、彼女。

 紙パックに入った、いちごオレをストローでチューチューするその姿に男だった頃の面影は……それなりにあるんだけどな。


「ええと……とりあえず、突然の事で、何を話せばいいのかわからないんだけど……まずはありがとう……からかな?

 と言っても、今は感謝の気持ちよりもまだ困惑の方が強いんだけどね?

 もちろんこの四年間、ずっと、ずっと元に、自分の体に戻りたいと思ってたんだよ?でもほら、あまりにも突然のことだから……体の変化に頭がまだ追いついていないっていうかさ。

 いや、そうじゃなくて、そもそも今日は君に僕の……私の……なんだろう、一人称を私って言うのがすごく恥ずかしいんだけど?

 私……うち……あーし……あたし……妾……うん、どれもこれも違和感しか無いや。とりあえずはこのまま、僕のままでいいかな?」


「俺もそっちの方が聞き慣れてるからもちろん構わないけど」


 少し早口な話し方に今の混乱具合がうかがえる。


「まぁその、さ。これでもかなり悩んでの行動だったんだよ?

 だって、それこそ僕の体の話を伝えたら、気味悪がられて……君と、友達でいられなくなるかも……なんて思ってたからさ。

 いや、君がそんな事で友人を切り捨てる様な人だと思ってた訳じゃないんだよ?

 でも、この話をするのって……君が初めてだったからさ」


 申し訳無さそうにこちらを見つめる元トオル。


「それが、まさかのいきなり元通りだよ?

 先に言っておくけど今の僕、ちょっとどころじゃなく情緒不安定な状態だからね?

 これまでどうやってももとに戻らなかった自分の体、それを事もなげに、話を聞いただけで治してくれた君。どう考えても白馬に乗った王子様の登場だよ?

 それも相手は仲の良かった友達なんだからさ……」


「俗に言うストックホルム症候群だな!」


「そっちじゃなくて吊り橋効果の方だよね!?

 君って、ほんっとにこういう話が苦手というか……ぜったいに茶化すよね?」


「別に茶化してるわけじゃないんだけどな?」


 ……たまたま、何となく結果が出ただけのことでそんなに感謝されてもさ。

 そもそも俺だってまだ十分に混乱してるんだからな?


「ま、まぁ、今はそんな僕の気持ちは置いておくとして……。

 ユウ、本当に……本当にありがとう」


「俺とトオルの仲だからな!」


 いつもならここで『もしも気になるならお礼におっぱいでも触らせてくれよ!』とか言うんだけど……さすがに生まれたてのひよこみたいな状態のこいつに冗談でもそんな事を言えるはずもなく。


「……そうだね、何だかんだで君はそういう人だもんね

 友達が大勢の上級生に囲まれてたら大して喧嘩が強いわけでもないのに一緒に殴られるために付いてくる。

 ……結果的にはただの勘違いだったけど。

 友達が怪我をしていれば使える人が誰も居ないような魔法で治してくれる。

 ……そう言えばあの時も他の女の子じゃなく最初は僕から治療してくれたよね?」


「あれだ、あの時も言ったけどそれは人体実験的なソレだったし?」


「くすっ、余計なことでは口が回るくせに、器用なんだか不器用なんだか」


「勝手な勘違いは止めろ!お前が思い込んでるだけなのに俺の黒歴史が積み上がってる気がするから!

 まぁ……なんだ、とりあえずおめでとうでいいのかな?

 それとも勝手な行動をして申し訳ない?」


「もちろんおめでとうで大丈夫!

 というか、スーパー可愛い僕と君はこれが初対面になるんだよね?」


「何こいつ、自分で可愛いとか言いだしたんだけど?お前は普段の静たんか」


「……二人きりで居る時に他の女の名前出すの止めてくれるかな?」


「あれー?さっぱりした性格の友人だったはずなのに、性別が変わった(TSした)だけで面倒くさい彼女みたいになってるぞー?」


「普通の人は性別が変われば生身もそれなりに変わるんだよっ!

 いや、普通の人はたぶんいきなり性別が変わるような目には遭わないと思うけれどもっ!

 あっ、あと、『久堂 透』って僕の名前じゃなくて、この体になった時に交換することになった従兄弟の名前だからさ。

 初めまして……じゃなくて、改めまして?僕の本当の名前は……『原西(ハラス) 亜帝奈(アテナ)』……です。

 これから、今日からはアテナって呼んでくれるかな?」


「お、おう。アテナちゃんさん?」


「デッ○チャンさんみたいな呼び方止めて?

 君にちゃん付けで呼ばれるのも気持ち悪いから呼び捨てでいいよ。

 ……僕もこれまで通りユウって呼ぶんだからさ」


「了解した!じゃなくてだな。

 そこは一般的には『さか○クンさん』になるんじゃね?

 デ○カチャンとか令和のヤングはすでに記憶の彼方じゃね?」


「そんな売れてない芸人さんのことなんて今はどうでもいいんだよ!」


 いや、名前出したのお前じゃん……。

 姿勢を整え直し、まっすぐにこっちを見つめるトオ……アテナ。


「これまでは心だけ乙女だったけど、これで、これからは体も乙女になったからね」


 えー、こいつの今までの発言を振り返ると、心はそこそこオッサンだったような気がするんだけど……?


「これからも色々とよろしくね?ユウ」


―・―・―・―・―


ということで、友人枠から筆頭ヒロイン候補にクラスチェンジしたアテナちゃんさん回でした!


そして前話のコメント欄で、『どううやって魔導具を発動させたのか?』の考察が100%正解の方が居てワロタ(笑)

……いや、笑ってる場合じゃねぇんだよなー。

これからはもっと、誰も思いつかないような方法を考えないと……。

でも、解らなさ過ぎるのも違和感があるんだよなー。ちょうどいい匙加減とか絶対に無理……。

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