第031話 【夏休みの初日、友人の秘密 その2】

 玄関先でいつまでも騒いでいて隣人に『隣の学生がうるさい』とか管理会社にチクられるのも嫌なので室内にトオルを招き入れることに。


「へぇ、男の子の一人暮らしなのに綺麗にしてるんだね?」


「綺麗にしてるっていうかただ物がないだけなんだけどな?

 まぁ適当にその辺に……いや、ベッドの上じゃなくてちゃぶ台の回りに座ってくれ」


「普通のテーブルをどうしてちゃぶ台呼び……。

 だって床にカーペットも敷いてないしクッションも座布団も無いからそのまま座ったら下半身が冷えちゃうじゃないか」


「男が細かいことを気にするなよ……。

 てか、何なのその家族で運動会に参加するような大量の重箱は?」


「もちろん晩ごはんだけど?」


 少なくともそれは二人で食いきれる量じゃないだろうが……。

 人の言うことを聞かず、ベッドに座ったままのトオル。


「いや、人のベッドをポスポスしてマットの具合を確認するの止めろや!

 なんかもうお前の存在にお腹いっぱいになってきたから弁当だけ置いて帰ってもらえる?」


「まだ何の話もしてないからね!?

 ……まぁいいや、少し早いけど先にご飯にしちゃおうか」


 一人用の小さなテーブルの上に大量の重箱に入った料理を並べていくトオル。

 今日はと言うか今日もメインのオカズは中華料理みたいだ。

 取り分け用の小皿に割り箸、冷蔵庫から缶に入った飲み物だけ追加する俺。


「トオルはどっちがいい?」


「何なのさ、その実質一択の選択肢は……。

 少なくとも中華料理と一緒に『おしるこ』は飲まないよ!」


「あー、確かに食事と一緒ならホットのほうが良かったよな?チンしようか?」


「冷たいか温かいかが問題じゃないんだけどね?

 あと、缶のまま温めたらレンジの中が大騒ぎになるからね?」


 仕方なくコーンスープを冷蔵庫からもう一つ出してくることに。

 男同士で友人とは言っても、学校ではそこまで深い話なんてしたことのない俺とトオル。


「どうする?魚鳥木とかする?」


「それ、ご飯食べながらすることじゃないと思うんだけど……いや、そもそも高校生がすることじゃないんだけどさ」


 普段通り、だらだらと二人で料理を摘む。

 家中華ってなんていうかこう、ちょっと甘みが強いところが店で出てくる料理とは違って美味いんだよね……。

 入れ物は大きかったけど中で小分けにされていて、品数は多いけど一品の量はそれほどでもなく。


「いや、それでも二人で食う量じゃないだろ……全部食ったけどさ」


「僕の二倍くらい食べたよね……」


 さすがにちょっとお腹が苦しい……。


「こんな時、担任とか六条さんなら率先して膝枕してくれるのに」


「前々から思ってたけど君と桐野先生はどういう関係なのかな!?あと六条さんって誰なのさ」


「へぇ、担任って桐野って名前なんだ?」


「まさか知らなかったの!?まぁ君らしいと言えば君らしいけどさ。

 最初の頃は僕のこともずっと『キラ』って呼んでたくらいだもんね?」


 そんなジト目されても……ほら、あの頃はダンジョンに入れる資格さえ手に入れば学校なんて直ぐに辞める気まんまんだったからな?

 精神的に十歳も年上の俺に今さら高校生の友人が出来るとも思ってなかったしさ。


 そういう意味では、何だかんだでこいつがいるから、ずいぶんと学園生活を楽しめてるところはあるんだよな。

 惜しむらくはこいつが男じゃなく女の子だったら……いかん、男の手料理を食って、二人きりの空間で居るうちに妙な事を考え始めたぞ!?


「もしかしてお前……俺をそっちの道に引きずり込むためにこんな巧妙な罠を仕掛けてきたのか!?

 だが残念だったな!これでも俺は生粋の女好き!それもケモミミ少女大好きおじさんなんだからなっ!」


「君は一体何を言ってるのかな?

 まったく……はぁ……やっぱりこのまま何も言わずに……でも、それだと、いつまでも君を騙していることに……」


 先程までの、友達の家に遊びに来た、楽しそうな雰囲気から一変、苦虫を噛み潰……すのはあまりにも気持ちが悪すぎるな。

 ピーマンとシシトウを口の中いっぱいに詰め込まれたような表情になるトオル。


「まぁ……あれだ、話はいつでも聞くし?とりあえずアイスでも食うか?」


 冷凍庫からアイスを二本出し、どちらか選べとトオルに差し出す。


「いや、だから何なのさその選択肢があるようでまったくない二択は!

 コーンポタージュ味もナポリタン味も両方食べないからね!?」


「えっ?お前が食わないなら誰がコレの処分するんだよ?」


「自分で食べる気が無いものを買ってきて、あまつさえ他人に食べさせようとするのはどうかと思うよ!?」


 その後は二人でネット動画――有名探索者がダンジョンで戦闘しているシーンや、探索者の一般常識の説明の動画などを視聴。

 その間もチラチラソワソワと時間を確認するトオルなのだが……泊まっていくとか言ってたし、おそらく着替えであろう荷物も持ってきてるしで、特に何時でも関係な気がするんだけど……。


「さっきからやたらと時間を気にしてるけど何なの?あっ、もしかして、陰時間になったら棺桶に変身するとかそういう?」


「陰時間って何なのさ……いや、ほら、君に話したいことがあるって言ったでしょ?

 その時に君に見せたいものがあってさ……それで、その前にお風呂を借りようかなって。

 でも、他所でお風呂を借りるとか……恥ずかしいじゃないか」


「……先に行っておくけど、大きかろうが小さかろうが他人のチソチソは見ないからな?」


「そんなもの僕も見せる気は無いよっ!もう!なんなのさ!

 僕だけ色んな気持ちが心のなかでぐるぐるしてるこの状況になんだか腹が立ってきたんだけどっ!?」


「いや、そんなこと言われてもさ……なんなの?お前はRGなの?

 そこまで言いたいならとっと言えばいいじゃん。

 とりあえず先にごめんなさいしておけばいいかな?」


「別に告白とかしないけどね!?

 いいよ!わかったよ!わかりましたっ!お風呂借りるねっ!?」


「お、おう、別に勝手に使ってくれて構わないけど……」


 何となくいつもとは違い、ちょっと面倒くさい感じのトオルだった。


―・―・―・―・―


いよいよトオルの秘密が明らかに!


次回!『トオル、死す!』


いや、死なないし。

てか、たぶんみんな薄々、むしろ厚々気づいてるだろうし。

でもあれだぞ?知らなかった体でビックリしないとダメなんだぞっ!(笑)

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