第030話 【夏休みの初日、友人の秘密 その1】

 トオルの家で知り合い集合からのよく分からない流れで、『俺が勇者の能力(ちから)で美少女ハーレム、クラスメイトのあの子も学校の先生も職場のお姉さんすら虜になっていた件』疑惑が現れ……たが、すぐに消えた昨日。

 何そのそこそこ面白そうなラノベのタイトルみたいな状況……。

 てか、そもそもそんな力があったなら異世界で『ケモミミハーレム』を構築してるんだよなぁ。


 まぁ、仮にそんな能力があったとしても自動発動(パッシブ)系のスキルだろうし?自分でどうこう出来る問題でもないので気にするだけ無駄な事に気づいた。

 今のところ不利益は無い……と、思うしさ。

 でも、これからは受け流されるの前提で『意味ありげな軽口』を叩くのだけは控えよう。

 さて、俺の異世界商人――というか、異世界商店のランクが上がったことにより、商品ラインナップがヤベェことになってきた今日このごろ。


 とりあえず『商品ラインナップがヤベェ』の語彙力の無さよ……。

 もっとも商品が増えたからといって、今すぐに買える商品は限られてるんだけどな。

 何事も地道に、ひたすらに地道にってことで、毎週六条さんを通して『下級のお薬』を数本ずつ販売することで魔石を大量ゲット、貯金ならぬ貯魔石しながらスライムをジェノサイドでジョブレベルもアップ。

 少しずつ、そう、少しずつではあるが順調に能力の強化がされている俺!

 ……なのだが、


「……なんだろうこの『熟年夫婦』のような倦怠感と停滞感。

 迷宮科なんていうよく分からない学科に所属した上でダンジョンなんてモノに潜ってるのに、日々の生活に変化がなさすぎてツライ」


「そもそも僕たちはまだ探索者でもないただの学生だからね?

 それも入学したての一学期だしさ。

 なのに既に一度全滅しそうな目に合ってるだけでも、十分過ぎるくらいの体験をしてるんだよ?

 それなのに君と来たら……いや、これ以上はよしておこう」


「人をトラブルメイカーみたいに言うのは止めろ」


「みたいじゃなくて完全無欠のトラブルメイカーなんだよ!

 本人はもっと自覚してくれないかな!?」


 だって、同じことを繰り返してるだけなんだよ?飽きてくるのは仕方ないじゃん!


「というか、もうすぐ学期末のテストだからね?ちゃんとテスト勉強してる?

 夏休みに入ればレベルのあまり上がっていないグループには課題も……少なくとも君は、レベルに関しては何の問題もなさそうだけどさ。

 そういえばユウって今はレベルっていくつくらいなの?」


「基本的にスライムしか倒してないからな。

 トオル達と一緒に二階層に潜ったのを最後に全然上がってないぞ?」


 そう、アシッド・キューブで上がってからはいっさいの変化なし。

 一学年の一学期で『レベル7』の学生なんて他にはいない(担任談)らしいから詳しくは教えないんだけどな!

 むしろ下層に進まないでこのままずっと一階層でスライムと戯れてたら卒業までレベルがこれ以上上がらない可能性もあるからな?


「てか、テストかぁ……一応予習復習はしてるから赤点はない……といいな?

 隣に座ってサービスとかするから担任の買収出来ねぇかなぁ……」


「考えてることがクズ過ぎる!?

 そこはほら、学生らしく?集まって勉強会をするとかさ」


「あー、アニメとかでもよくあるやつな!

 個人的には集団で集まることに何の意味も見いだせないけど。

 そもそもさ、あれって勉強が出来る奴に負担が掛かるだけじゃね?むしろだれも勉強なんてしてなくね?みたいなことをヒッ○ーが言ってたような言ってなかったような」


「誰なのさヒ○キーって……。

 それも含めての勉強会なんじゃないかな?」


「もうそれただの足の引っ張り合いじゃねぇか……」


 おそらくレベルアップの恩恵だと思うんだけど、最近記憶力と言うか集中力も上がってる気がするからテストくらいはどうにかなるだろう、たぶん、きっと。



 季節は流れ……いや、数週間で季節は変わらないんだけどさ。

 学期末のテストも終わり、試験休みに入り、そして一学期の終業式。

 思ったよりも点数も取れたので担任も大喜びである。……いや、どうしてあんたが身内のように喜んでるんだと。


 久々の長期休み!やったね!毎日ダンジョンに通えるよ!

 と、一瞬だけテンションが爆上がりしたものの、やっていることは賽の河原の石積みの様な作業だとおもいだし、真顔に戻る俺。

 今回はGWの時とは違い、申請さえしておけば休み中のダンジョンの出入りに制限はないらしい……んだけど、グループ申請じゃないと通らないとのこと。


 まぁトオル達の班に紛れ込ませて貰うだけなんだけどさ。

 その事をトオルに伝えにいくも……何だろう?わりといつも元気なこいつにしては憂い顔と言うか、何やら思い詰めたような表情なんだけど……。


「トオル、もしも……どうしてもお前が最後まで責任を取れないって言うなら……金銭面での援助は出来ると思うけど、後悔が残らないようにちゃんと相手の娘さんと話し合えよ?」


「君は一体何の話をしてるのかな!?」


「何って……ナニがナニしてナニしちゃったって話じゃないのか?」


「何一つ伝わってこないんだけど!?」


 どうやらこいつが他所のお嬢さんをナニしておめでたいことになった訳ではないらしい。


「そもそもそれは、僕よりも君のほうにあり得そうな話だと思うんだけどね?

 年上のお姉さんとずいぶん仲良くしてるって話だしさ。

 一年生で迷宮事務所の受付嬢を口説き落とすとか、真紅璃くんは信じられない行動力をお持ちなのですね?」


「いきなり距離感を取るの止めろや。

 あと受付の人とはそれほど親しくはないからな?

 いや、ならどうしてそんな辛気臭い顔になってるんだよ?

 もしかして家族に何かあった……なんて話でもないんだろ?」


「もちろん家族全員夏バテもせずに元気いっぱいだよ。

 ……あのさ、ユウって今日、今晩って何か用事は入ってるのかな?」


「考えるまでもなく何もないけど、どうしてだ?」


「そう……。ならさ、今日……君の家に泊まりに行ってもいいかな?

 色々と……話したいことがあるんだけど」


 いつもなら『畏まった態度が気持ち悪いのでお断りします!』の一言で済ますんだけど……そんな真剣な顔されたら茶化すわけにもいかないじゃん……。


「そうだな、特に問題はないけど……あれだぞ?同じベッドでは寝ないぞ?

 そして自分の布団以外で使えそうな寝具はダンボールくらいしか無いけど問題ないよな?」


「誰もそんなことは求めてないんだけどね!?

 あとダンボールは寝具とは言わないよ!」


「えっ?ダンボールは寝具であり、家であり、荷造りの道具だろ?」


「どうしてメインの荷造りが最後になってるのさ……じゃあ、夕方までには君の家に行くからさ。

 晩御飯は……お弁当でも作って持っていくよ」


 そこは別に外食でいいと思うんだけど……まぁここまで改まって相談されるような話があるみたいだし、他人には聞かれたくないんだろう。



 てか、何だかんだでデリバリー(もちろん食べ物とか荷物だからな?)の人以外では初めての誰かの来宅。

 思ったよりもソワソワしてた俺だけど……やって来るのは男だと思い出した瞬間にスンっとした顔に戻る。

 まぁそれでもお客だし?いつの間にか床に落ちている『例のアレ』の取り残しが無いように掃除機、そして乾拭き、最後に粘着シートで仕上げ……フローリングに強粘着のコロコロが引っ付いてまったくコロコロしねぇ……。


 晩飯は用意してくれるって言ってたから、近所のスーパーで飲み物とおやつと……半額シールの貼られたわらび餅とみたらし団子を購入。

 てか、この二品ってやたらと半額で売られてるのはどうしてなんだろう?

 さすがに布団は今から用意できないんだけど、夏場だし、敷布団と毛布でどうにかなるだろ。


 夕方――十八時頃になってトオルから『今から向かう』と電話が入る。

 あれだ、いつもならベッドでゴロゴロしてるだけの時間なのに、何となくスクワットとかシャドーボクシングとかしてたからな?

 しばらくして、室内に響くのは呼び鈴の音。

 扉を開けると立っていたのはもちろん数少ない友人。


「来ちゃった☆」


「ぶん殴るぞ?」


 爽やかな笑顔に物凄くイラッ☆としたので思わず手が出そうになる俺だった。

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