第029話 【もしかして、俺だけ強く……はないけど引き継ぎニューゲーム状態なの?】

 放課後、帰り道、トオルの家ナウ。

 うん、それなりに抵抗はしたんだけど、安倍さん以外のいつものメンバー全員に囲まれて普通に連れてこられてしまったんだZE☆

 てかさ、トオルと静たんだけじゃなくティアラちゃんと秋吉まで一緒なのはどうしてなんだろう?

 流れ的にはどうせ何らかのお小言をいただくだけだろうから、別に全員集合する必要とかなくね?


 たった一つの俺の希望の光だった『久堂家のお母さん』はいつも通りお留守(お仕事)だったので、ここに留まる意味をこれと言って見いだせない俺。

 まぁそのままトオルの部屋まで連行されたんだけどさ。


「いや、君ってその……色々と隠し事があるよね?

 そのくせ脇が甘いと言うか脇が臭いと言うか頭が悪いと言うかさ」


「ストレートな罵倒止めろや。あと脇は臭くねぇわ。

 と、特に隠してることとかないし?むしろフルオープンな人間だし?」


「あなた、もしも隠そうとしてないとすれば、それは隠してるよりも尚悪いことなのだけれど……。」


「これだから性癖に素直なドMは」


「大丈夫……私ならユウくんを受け入れられる自身がある」


 どうして俺は全方向から同級生に罵られなければならないのだろうか?

 あと、ここん家の妹様が扉の陰から覗き込んでいて非常にオカルティックなので止めさせてもらいたい。


「はぁ……まったく。いや、今回の話は君だけの責任ってわけでもない……かもしれないね。

 少なくとも一度はその現場を目撃しているし、話も聞いていたんだから僕も、もっと早く気づくべきだったよ」


「何なの?その浮気現場を目撃した彼女みたいな遠回しでいてくどい言い回し」


「あなた、浮気してるの?」


「どうして静たんはこっちをテレビから出てくる髪の長い奴(貞○)の様な目で睨みつけてるのかな?どちらかと言えば静たんは分裂する系の美少女(富○)だよね?

 そして、それは浮気どころかまず彼女が居ない俺に対する当てつけなのかな?

 ……じゃなくてだな。それで、トオルは一体何に気づいたんだ?先生、怒らないから正直に言ってごらん?」


「誰が先生なのさ!そもそも怒られるのは僕じゃなくて君なんだけどね!?

 君、昼休みに『最近レベルも上がって体力が付いてきた』みたいな話をしてたよね?」


「ああ、レベルアップの効果なのか、持久力とか腕力とか器用さとか素早さとかが目に見えて上がったからな!

 てか、そんなの俺だけじゃなくてここにいる全員が体験してることだろ?

 なら別段珍しいことでも無いだろうが?」


「ユウギリくん、確かに、私たちもレベルが上がったことは体感しているのよ」


「なら、一体何処がおかしいと」


「ユウくん……普通の人は、ダンジョンから出ると、体力とかは全部元に戻る……」


 ……えっ?


「それに君、ダンジョンの外で『スキル』を使ったことあるよね?」


「スキル?ああ、ティアラちゃんに手当をした時に……あれ?」


「私にも使ったのハズなのにどうしてこっちはスルーしてるのよっ!

 おかげさまで体の一部から謎液が吹き出して」


「隣の人はそのパパ活をしてそうな外見から発せられる言葉がリアル下品に聞こえちゃうからちょっと控えて?」


 そう言えば……学園に通う前に色々と検索した時に、魔力だか魔素だかがウンヌンカンヌンって記事を読んだような?

 てか、秋吉もあの『顔面スプラッシュ』は治療スキルが原因だと気づいて……まぁダンジョン内で怪我を治してやったこともあるんだから当然か。


「……つまり、ダンジョンの中、魔力がある状態から、ダンジョンの外、魔力のない状態になると、普通の人はスキル……魔法も使えないしレベルアップの恩恵も全部消えちゃう……?」


「大変よく出来ました。いや、どうせならもっと早くそのことに思い至って欲しかったんだけどね?

 君、もしも僕たちが何も気づかないままだったら、秋の体育祭とかで大活躍するところだったんだからね?」


 うん、他の人も同じだろうと思いこんでて、間違いなく調子に乗って全力疾走して100mで世界新記録出してたわー……。


「いや、でもさ、どうして俺だけそんなことに……ああ!……いや、何でも無い」


「あんた今、絶対に何か思い当たることがあったわよね!?」


「気のせいです!」


 思い当たることなんてたった一つだけだもん、いくら俺でもすぐに気づくさ。

 間違いなく異世界で勇者をやってたからしかないもん。

 というよりも、異世界に呼び出された時、体内に魔力と言うか『魔法力』を内包して、そのままこっちに帰ってきたかのが原因だよな?

 ほら、向こうから送り返される時『レベルとスキルはリセットされる』って聞いたけど、『異世界で変化した体が元に戻る』とは言ってなかったもん。


「そういえば……ユウくんは初めてダンジョンに潜った日から元気だった……」


「まるでその夜にハッスルしたみたいな言い方やめろ」


 てか、ハッスルって『頑張る!』みたいなイメージだけど、本来は『ゴリ押し』みたいな意味らしい。……うん、今はどうでもいいな!


「言われてみればそうよね。特異体質だからなのか、ダンジョンとの親和性が高いからなのかは分からないけれど」


「まとめると、あんたはやっぱり特殊性癖だったってことよね?」


「特異体質と特殊性癖は似て非なる……いや、そもそもどこも似てないモノだからな?」


 しかし、異世界で変化した力、異世界で手に入れた力ねぇ……。

 俺にはそんな能力は無かったけど、おそらく魔王だか魔神だかの討伐を頑張ってた連中。

 全員顔が良かったからだと思ってたけど……妙に惹かれるものと言うか、放っておけないカリスマ性みたいなモノがあったんだよな、性格はお世辞にも良いとは言えないような連中だったのに。


 もしかしてアレ、異世界転移で手に入れた魅了的なパッシブスキルだったのかもな。

 繰り返すけど、俺には全然そんな力は無かっ……いや、本当になかったのか?


 確かにあいつらみたいに、黙っててもどこからか異性が寄って来るほどの力は無かったけどさ。

 少なくとも取引において、誰かとの交渉事、会話において無理難題を吹っ掛けられたことも、足元を見られたことも無かったよな?


 つまりそれは異世界の勇者の魅了の力が……いや、違うか。

 だって俺が持っていたのは『異世界商人』のギフトだけだったもんな。

 ならば、異世界商人の能力?取引だけじゃなく、会話するだけでも何らかのプラス補正が掛かってるとか?

 そんな、まさかゲームみたいなこと……そもそも『ダンジョン』なんてものが大量にある現場がゲームみたいじゃなくて何だって話だよな。


「ユウギリくん、どうかしたの?いきなり難しい顔をして」


「えっ?あっ、ああ……」


 そもそもさ、今の俺の状態ってちょっとおかしいんだよな。

 だって、クラスでも上位の美少女に囲まれて、男前の友人がいるんだよ?


「つまり……ここにいる美少女全員、本人は気づかないうちに俺に魅了されていた……ってことか?」


「ユウがいきなりおかしなこと言いだしたんだけど!?

 何なの?いきなりナルシストに目覚めたの?」


「ユウギリくん、あなた疲れてるのよ。

 そもそもあなたに他人を魅了出来るような魅力はないわ」


「ふっ……ユウくんにモテ要素なんてほとんど無い……その気持ちのいいゴールド、否、ダイヤモンドフィンガー以外には」


「なんなのあんた、キモキモ先輩なの?」


「ちょっと口を滑らせただけでボロクソかっ!?

 少なくとも最初のやつは美少女じゃねぇし、

 次のやつはネタが古すぎるし、

 人のことを大人のおもちゃ扱いしてるヤツもいるし、

 ガラが悪いだけで可愛くない○瀞さんみたいなのが混ざってるし!」


 最後のやつ!あれだぞ?暴言ばっかりはいてると、コメント欄に『ヒロインに魅力が無さすぎて読むの止めます』とか書かれるんだぞっ!?

 すまない、よく分からないトラウマで少し取り乱してしまった。


 うん、よくよく考えなくても別に俺、モテてるわけでは無いもんね?ちょっと調子に乗ってたかもしれない。

 それでもほら、担任とか、探索者のぺったん子とか、受付嬢とか、六条さんとかさ。

 年上組にはそれなりに好意を持たれてた気がするんだけど……。

 いや、あのへんは金銭欲と婚期に対する焦りで誰でも良い、またはショタコンの可能性も多大なレベルで存在するからあんまり参考にはならないんだよなぁ。

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