第027話 【先日お預かりしたブツのお話なのですが】

 迷宮事務所の支部長である六条さんと二人きりで食事。まぁそこに色気のある要素は特に無かったんだけどさ。

 彼女と、色々と話しをしてみた結果、とても頼りになりそうなお姉さんだと言うことがハッキリと判明。

 異世界の貴族相手ですら交渉事でこんなに手玉に取られるようなことは無かったのに……。


 これだけ有能なら、『異世界商店』で買える物の仲介をしてもらっても問題はないだろうと、まずは下級のポーション類を預けてみた。

 預けてと言っても一本ずつだし?最悪の場合でも『ソロでコッソリとダンジョンの奥に潜って見つけました!』でどうにか言い逃れする方向でさ。

 もちろんあの人相手に、そんな誤魔化しがとても通じるとも思えないけど……。


 本来ならこんな田舎のダンジョンではなく、もっと大きな、それこそ最上級の探索者を相手にやり取りしているような女性だからな。

 きっと、キレすぎるが故に、こんなところに押しやられ……。

 いや、違うな、多分本人があの、のらりくらりとしたやり方で昼行灯を演じているんだろうな。おそらくは『陰の実力者』ということなのだろう。

 何にしても非常に掴みどころの無いと言うか難しい人ではあると思うけど、味方にさえなってくれるならばこれほど頼りになる相手は居ないからな!


 そんな六条さんから、


『お預かりした品物の値付けが完了いたしましたのでお会いできますか?』


 と、連絡が来たのは六月二週の土曜日の朝。思ったよりも時間がかかったようなそうでもないような?

 まぁ色々と手を尽くしてくれた結果だと言うのは理解できるので、もちろん何の問題も無いんだけどね?

 いつも通りのダンジョン探索をこなした後、いつもの受付でスライム・ローションを納品して、いつもの受付の人に会議室に案内される俺。


「ユウギリさん、お久しぶりです。

 ……連絡先も交換しておりますのでもう少し頻繁にご連絡頂いてもよろしいのですよ?」


「えー……一日に五回くらいはメールのやり取りをしてたと思うんですけど……」


 それも、俺が返してるのが五回ってだけで、六条さんからのメールはその十倍くらい来てるし。

 いや、毎度毎度食事の写真とか送られてもさ、返事のしようも無いじゃん?

 もしかして俺のアドレスとイン○タの投稿画面を間違えてるのかな?

 『どうぞ』と手で席を勧められたので素直に椅子に腰を下ろす。


「もう、意地悪なんですから……」


 そして『増田さん、貴女は腰掛けなくていいですからね?』と、六条さんに部屋から追い出される受付の人。

 そんな、こっちを恨めしそうに見られてもどうしようもないからね?とっととあなたのお仕事に戻って?


「では、早速ですが……もしよろしければこの後お食事でもいかがでしょうか?

 ではなく、先日お預かりしたブツのお話なのですが」


「何なんですかその違法気なヤベェモノ扱いは……お渡ししたのはいたって健全なお薬ですからね?

 あと、ご飯は前回出して頂きましたので、今回は俺の奢りということでいいのでしたら大丈夫ですよ?」


 『もう、そんなこと気になさらずともそのうち二人のお財布は一つになりますのに』とか言ってるけど、ならないからね?

 てか、ちょくちょく『今の自分の年齢』を二十五歳だと思っちゃうけど、俺、日本ではただの十五歳だからね?

 ある程度より年上の女性と何かあれば、相手の方が刑事事件になっちゃうからね?


「まぁ食事のお話は後にしてですね、まずはこちらをお受け取りください」


 てか、いきなり机の上に一千萬円の束がドン!と置かれたんだけど!?

 えっ?もしかしてここから五時間、笑うと退場させられるアレを一人でやらされるの!?

 どうしよう?とりあえずお寿司のフィギュアをチ○チンに……などと考えていたら、さらに追加される百萬円の束。


「こちら、合計一千三百萬円となります。

 買取額の内訳といたしましては、

 下級治療薬が一本二百萬円、

 下級MP回復薬が一本五十萬円、

 ドワーフ鋼のナイフが一本五十萬円」


 ポーション類が想像してたよりも高ぇな!?確か、店売りの品物は傷を回復させるのも、MPを回復させるのも両方とも店売り価格で二十萬くらいだったような?

 そしてドワーフ鋼のナイフ、思ったより安い……。いや、買い値が魔石500個だから元は十分に取れるんだけど、ポーションの値段が圧倒的で……。

 てか、ここまでで三百萬だよな?ということは、


「なるほど。では残りの一千萬円は」


「はい、病の回復薬になります」


「へぇ……思ったよりも効果のある薬だったんですね?」


 えー……。いや、そこまで驚くような結果でもないのか?

 異世界でもそれなりの値段(それでもこちらの世界換算で百萬もしなかったけど)だったし、地球では素材の関係上作るのが難しいモノだし。


「治験の結果といたしましては、末期の悪性腫瘍患者の症状の改善。

 一本では完治にはいたりませんでしたが、もしかすると続けての服用でどうにか出来るかもしれないとのことでした」


「なるほど。でも、さすがに下級ではどうでしょうかね?

 中級になれば、ほとんどの自然発生する病気は治せるみたいですけど」


 もちろん異世界での話なんだけどさ。

 俺は使ったことはないけど、上級回復薬になると『呪病』なんていう魔界の関連する病気まで治せたらしい。


「や、やはり中級以上のポーションも存在するのですか!?……さすがはスライム王国ですね!」


 あ、その設定ってまだ生きてる感じなんだ?

 ……まぁ六条さんがこちらの意を汲んで、入手経路をはぐらかしてくれてるだけなんだろうけどさ。

 当然俺としてもその方が都合がいいので、『ダンジョンの一階にスライム王国がある説』に全力で乗っからせてもらうんだけどね?


「そうですね、とても我々人間の知識の及ぶ場所では無いですよね、スライム王国。

 でも、彼らとの取引には日本円ではなく、魔石が必要でして」


「あっ!確かに!そうでしたよね。

 ……このお金も魔石にしておけばよかったかしら。

 気の回らない女でごめんなさい」


「そんなことはないですよ!むしろ、六条さん……綾香さんほど気遣いの出来る素晴らしい方を俺は知りませんから」


「もう……いくらなんでも褒めすぎですよ?」


 クスクスと笑う六条さん。

 この人、笑い方って言うか、笑顔がとても上品なんだよなぁ。


「本当に、そう思ってるんですよ?

 もしも叶うなら、将来は綾香さんの『ような』女性と結婚できれば幸せになれるんだろうなぁって思いますもん」


「そ、そう、ですか?」


 真っ赤になって照れる六条さんがとても可愛い。


「もう、そんなこと……他の女性なら勘違いしちゃうかもしれませんから、絶対に言ってはダメですからね?」


「えー……もしかして俺って誰にでもこんなことを言う男だと思われてます?」


 トオルじゃあるまいし、似合いもしない口説き文句とか冗談として流してくれる相手以外に言うわけ無いんだよなぁ。

 てか、六条さんの話にもさっき出てたし?どうにかして、迷宮事務所から魔石を仕入れたいんだけど……どうにかならないかな?


「ということで、それは置いといてですね」


「えっ、大事な話なのに置いとくんですか!?」


 いや、ただの冗談だし、そこまでビックリするようなことでもないと思うんだけど……。



【☆大切なのは『ような』の部分】


 ……将来は綾香さんのような女性と結婚できれば幸せになれるんだろうな

 ……ろうな

 ……ろうな


 ……綾香のような女性と結婚できれば幸せだろうな

 ……ろうな

 ……ろうな


 ……綾香、今すぐ結婚しよう

 ……しよう

 ……しよう


 ああ……なんてことでしょう……。

 突然に、そう、まさしく突然に彼の口から出たプロポーズの言葉。

 その言葉の一言一句が、一文字も違えること無く私の中を駆け巡る……。


「まぁそれは置いといてですね」


 えっ!?

 物凄く大切なことだと思うんですけど!?

 どうして置いておくのかしら!?


 

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