第025話 【たぶん、最初から全部……彼女の掌の上だったんだろう】

 それなりに目立たないように(目立っていないとは言っていない)大人しく……してたはずなんだけどね?一応それなりには。

 なのに六条さんには筒抜けだったらしく、それなにり詳しく収集されていた俺の情報。


「それで……それらのお話から六条さんが気づいたことは……何かあるんですかね?」


「そう……ですね、

 『スライムばかり狩っている』

 『魔石をまったく売却していない』

 『ご友人がそれなりの怪我を負っていたはずなのに無傷』

 『スライム系統の希少種を退治』

 『未発見の金属で出来たアイテムを発見』

 これらの情報から導き出されることは……名字ではなく名前で読んでください?」


「いえ、そんな小ボケはいらないです」


「むぅ……ノリが悪いですね。

 これらから予想されるユウギリさんの秘密は……」


「俺の秘密は……」


 大きく息を吸って、こちらにビシッと指を突きつける六条さん。


「あなたは、人ではなくスライムの王族ですね!?」


「わざわざ溜めを作っておいて、的外れで意味の分からない事を言い出すのは止めてください」


「もう、ちょっとしたデミグラスジョークじゃないですか」


「他のソースがすべて過去のものに……」


 てか、どうしてこの人はジョークの例えが全部ソースなのだろうか?独特の感性過ぎてイマイチよくわからないんだけど……。


「そうですね、いくつか思いつくことはありますが、確率が高いと思われる予想は、

 『魔石を消費する事によって、何らかの方法で、何者かと取引が出来る』

 と言う感じではないでしょうか?

 ちなみに私の思いつくところとしましては、

 毎日スライムと戦闘しているうちに、お互いに友情が芽生えたユウギリさんとスライム。

 そんなあなたは桜木ダンジョンの一階層にある、誰も知らない秘密のスライム空間に案内される。

 そこでスライムのお姫様に見初められたユウギリさんはスライム魔石との交換で色々なスライム品物を入手出来るように!

 しかし、そんなスライム姫とあなたの交流を気に入らないスライム王国のスライム大臣であるアシッド・キューブがいきなり襲いかかってきた!

 ……なんとかそれを退ける事に成功するものの……ユウギリさんをかばったスライム姫は」


「スライムスライムうっせぇわ!

 スライムがゲシュタルト崩壊するわ!

 てか、その話はまだまだ続くのかな?」


「もう、せっかくノッてきましたのに!」


 そもそもスライムと取引するところまではいいとして……いや、スライムと取引する魔石を集めるためにスライムを大虐殺するとかどんなサイコパスなんだよ俺は……。


「まぁそんな、スライム王国物語が違うとしましたら」


「違うとすれば?」


「……誰かと……いえ、おそらくは『異世界』と取引出来るようなスキルをお持ちなのではないですかね?」


「ふっ、ははっ」


 まったく。

 この人、最初から何もかも気づいていてからかって来るとかなかなかいい趣味してるよな……。

 いや、でも……もしかしたら……しかし、それにどんな意味が……?



【☆六条綾香は幻想世界で行きている……かもしれない】


 ユウギリさんとの楽しいお食事の後、二人はそのまま一つになるべくホテルのお部屋に。

 だって、傷付いた彼のガラスのハートを癒やすのも彼女、むしろもう嫁と言っても過言ではない私の役目なのだから。

 でも、そこで始まったのは愛のプロレスではなく……彼の秘密のお話。

 ……ええと、これはどういった状況なのかしら?


 えっと、そもそも今日はこのままお泊りじゃないんですか!?

 ま、まぁ、ほら……ね?確かに、出会って三日で合体は、私もさすがに早すぎるのではないかと思っていましたが……。

 色々と慌てている女だとバレると敬遠されるかもしれませんので、とりあえず全部冗談だったと言うことにしておきましょう。


 そんな、顔から火が出そうなほど恥ずかしい勘違いをしていた私に、彼から掛けられた意外な言葉。


「じゃあお話を進めさせて頂きますけれども……本当に大丈夫なんだろうなこの人。

 えっと、自分でこんな事を言うのもちょっと恥ずかしいですけど……六条さんから見て、俺ってたぶん少しおかしな存在じゃないですか?」


 いえ、別におかしなところなんて何も無いと思いますけど……。

 強いて言うならば魅力的過ぎることくらいでしょうか?

 でも、ここで『そんなことないですよ?』などと突き放すような事を言ってしまえば、せっかくノリノリな感じでミステリアスボーイを演じようとしている彼の期待を裏切ってしまうことになるかもしらない。


 ふふっ、大丈夫よ綾香!だってあなたは中学、高校と演劇部の部長をしてきた女なのだからっ!

 とりあえず意味深な感じで、彼と出会ってからこれまでの、この三日間で調べ上げ……小耳に挟んだ情報を淡々と並べてゆく私。

 ユウギリさんの少し驚いた顔と、何かを納得している雰囲気。私の想いはちゃんと伝わっているみたいですね。

 ……それらの情報の中に、やたらと他の女の話が出てくことだけはほんの少し不満なのですが。


 そんな私のお話を聞いていた彼の次の一言は、


「それで……それらのお話から六条さんが気づいたことは……何かあるんですかね?」


 えっ?気づいたこと?どういうことなのでしょう?

 事実を並べていただけなのに、いきなり応用問題とか……困る。

 私が気づいたことなんて、お部屋に入ってからあなたが綾香と呼んでくれないということだけ……あと、近くに寄ると、男の子らしい匂いがすることだけなのだから。


 そもそもお話はしていても、私の意識はユウギリさんに全振り。

 何となく『やたらとお話にスライムが絡んでるなー』くらいの記憶しか残っていない。

 ……これはもうスライムで何らかの脚本を仕上げるしかないわよね?

 なのに彼ったら、


「スライムスライムうっせぇわ!

 スライムがゲシュタルト崩壊するわ!

 てか、その話はまだまだ続くのかな?」


 などと意地悪を言い出す始末。

 あなたから話を振ってきておいて、その返しは酷すぎなのでは!?

 どうしましょう……ここで上手に返せなければ彼に『つまらない女』の烙印を押されてしまうかも……。


 どうしましょう……。

 どうしましょう……。

 どうしましょう……。


 今の私はドとレとミとファとソとラとシとドの音が出ないカスタネット。

 いえ、そもそもカスタネットは『ウンタン、ウンタン』としか鳴らないわ!

 ならばトライアングル?それとも『カーーーーッ!』って鳴る、よくわからないアレ(ヴィブラスラップ)?


 ……はっ!?


 そう言えば彼、アシッド・キューブのお話の時、私がどうやって倒したのか質問したら、『ナイショのスキル』で退治したって言ってたわよね?

 つまり、困った時は適当に『スキル』って言っておけば大丈夫なのではないかしらっ!?

 それに気づいた私のとるべき行動はもちろん、


「まぁそんな、スライム王国物語が違うとしましたら」


「違うとすれば?」


「……誰かと……いえ、おそらくは『異世界』と取引出来るようなスキルをお持ちなのではないですかね?」


 と、物凄く意味ありげに伝えることだけ。

 ふふっ、彼の満面の笑顔。

 私の予想はどうやら間違ってはいなかったみたいね!


―・―・―・―・―


予想より長くなっている六条さん回。

最初は『年上お姉さんとのイチャイチャ回』の予定だったのに、どうしてすれ違いコントになってるんだろう……(笑)

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