第024話 【☆愛する二人、噛み合わない二人(妄想が暴走)】

 私のことをよほど信用してくれたのか、事故で亡くなられた家族の事、そして今の自分の生活のことを話してくれた彼。

 ……話している時のその寂しそうな、それを我慢しているような表情。

 もしもテーブルを挟んで座っていなければ、思わず抱きしめ、彼を困らせてしまったことだろう。

 もう……私の女の部分だけでなく、母性までくすぐるなんて、とっても悪い子なんだから。


 食事も終わり、最上階にあるレストランから、リザーブしておいた部屋に向かう私とユウギリさん。

 べ、別に?お部屋ではこれからの事についてお話をするだけなので、なんらやましい事では無いのだけど……殿方とお部屋で二人きりになるというのはとてもドキドキすることみたいで。

 私たちは他の人から見ればどのような関係に見えるのだろう?恋人?それとも仲の良い姉弟?

 他には誰も乗っていなエレベーターの中、手ぐらいは繋いでくれても良かったのに……。


 足ざわりの良いカーペットが敷かれた廊下から、予約しておいた少しお高めのお部屋に入る私たち。

 特に緊張したふうもなく、L字に並べられた柔らかいソファ――二人掛けに私が、三人掛けに彼が腰を沈める。

 ……もう、どうせなら寄り添うように、私の隣に座ってくれればいいのに。


「とりあえず何か飲み物でも頼みましょうか?それともルームサービスで食べ物でも……」


「いやいやいや、十分くらい前まで中華料理を食べてましたよね!?

 ……六条さん、もしかして緊張とかしてます?」


「だ、だって、見えるところにベッドがあるんですよ!?

 こんなの、色々と想像とか妄想とかしないほうがオカシイと思うんですけど!?

 それよりもどうしてあなたはそんなに堂々としているんですか?

 もしかして……色々とご経験豊富だとか?」


「ベッドを見ただけで興奮するとか、あんたは男子中学生ですか……怖いのでいきなり真顔にならないでください。あと、鼻息がとても荒いです。

 堂々としてるわけじゃなく、どういう風に話を切り出せばいいのかで頭の中がいっぱいなだけですからね?」


「それはつまり……どうやって私をベッドに連れ込むか……って事ですか!?」


「全然違いますけどね?

 クッ、真面目系お姉さんのお茶目な一面……なかなかの破壊力だな……」


 何でしょうこの少しだけ会話が噛み合っていないもどかしい感じは……。

 はっ!?これは……もしかして私、すでに彼の『愛の権謀術数』に嵌められてしまっているということなの!?


「いえ、そんな……いきなりハメられるなんてはしたない……」


「何いってんだコイツ……じゃなくてですね。六条さん、そろそろ俺の事をからかうのは止めてください。

 ここからは……真面目な、そう、俺と貴女の……これからのお付き合いの事を話し合いたいですから」


「それはつまり……サプライズ要素を多分に含んだプロポーズという事ですか?

 もしかして、お風呂場やクローゼットからお友達が出てきてフラッシュモブとか始まります?」


「あれれー、おかしいなー……ここに来て、まさか会話がまったく成立しなくなったぞー?

 てか、六条さんが取ってあった部屋にどうやって俺が友人を仕込むんですか……」


「そのへんはほら、ホテル側も一致団結して?

 そろそろケーキとかシャンパンとか指輪とか届くんですよね?」


「オーケイ、六条さんがまったく何を言ってるのか分からないので、一旦お互いの認識のすり合わせから始めましょう」


「もう!ユウギリさんはどうして先程から綾香ではなく六条呼びになってるんですかっ!」


「普通に真面目な話をする予定だったからだよっ!」


「だったら綾香って呼び捨ててください!」


「いきなりソファから立ち上がらないでください!

 瞳孔が開いていますし、さらに呼吸が荒くなっていてとても怖いですから!

 とりあえずテーブルを挟んだままでお話しましょう!

 こっちの椅子に座ろうとしないで!ちゃんとソーシャルなディスタンスを維持して!」



【六条は混乱状態から回復した!……けど反動で落ち込んだ】


「うううう……何と言いますか、色々と暴走してしまい申し訳ありませんでした」


「いえいえ、こちらこそ……」


 いや、『こちらこそ』って言ってはみたけど、別に俺には何の非も無いよね?

 てかさ、六条さん、こちらに向かって土下座状態なんだけど、その場所がベッドの上で、チラッチラッて感じでこっちを伺ってるのは本当に謝罪の気持ちがあるのだろうか?別に謝って欲しいとか全然思ってないんだけどね?


「小一時間ほど無駄にしちゃいましたんで、ここからは単刀直入にいきますけど」


「チェックアウトは明日のお昼ですので時間は存分にありますよ?

 もう……私のことをあれだけなじっておいてチョクニュウとかイクとか何なんですか一体……」


 もしかして、このお姉さんの頭の中身はカウパーか何かで出来てるのかな?


「明日もお互いに朝から学校と仕事ですからね?

 色々と不安要素が露見してきましたので、ここでする予定だったお話はこのまま持ち帰って再考して来てもいいですかね?」


 いや、明日は日曜日だから俺は一日オフなんだけどね?

 さすがにいきなりお泊まりはちょっと……。


「いやですね、ちょっとしたアメリケーヌジョークじゃないですか」


「そんなドロドロしたソースみたいな冗談はいらないです」


 何にかけても美味しいソースだけれども!


「じゃあお話を進めさせて頂きますけれども……本当に大丈夫なんだろうなこの人。

 えっと、自分でこんな事を言うのもちょっと恥ずかしいですけど……六条さんから見て、俺ってたぶん少しおかしな存在じゃないですか?」


 たぶん、落ち込んだ雰囲気を醸し出していた俺の事を気遣って空気を軽くしてくれてたんだとは思うんだけどさ。


「おかしいというよりも愛しい……いえ、何でも無いです。

 確かに、ダンジョンに潜りだしたばかりの学生さんなのに毎週あれだけのドロップアイテムの納品数。

 それもソロで、黙々と飽きもせずスライムばかりを退治する少年……。

 いえ、食事中に聞かせていただいたご家庭のお話、とんでもない親戚の事と一人暮らしをされている現状を考えますとそれだけの頑張りも、そこまではおかしいと言うほどの事ではありませんね。

 もちろん、例えスライムであろうとそれだけの数を倒せる実力をお持ちなのがおかしいと言えばおかしいですが」


「まぁスライムは慣れれば誰でも似たような数は倒せると思いますけどね?」


「少なくとも私には無理だと思われますが……。ここまでのお話でおかしいと言えるのは、

 『それだけの数のドロップアイテムを納品されているのにそれよりも多数入手しているはずの、どう考えても使い切れないほどの一型魔石を売っていない』

 と、言う事。そして、

 『それだけの数の魔石を学園に帰る際に持ち歩いている気配がない』

 事で、間違いないでしょうか?」


「本当なら何とかごまかすべきなんでしょうけど……大正解ですね」


「ふふっ、ありがとうございます。

 続いておかしいと思えるのは先先日のお話となりますが。

 そんな、スライム退治しかしていない学生さんがアシッド・キューブなんていう希少種を何の苦もなく討伐した事。

 ユウギリさんを疑ったと言う訳では無いのですが、その時はダンジョンに入り始めて、初めてパーティを組んでの活動だったと言うことでしたので、その時のメンバーの方にも改めてお話を伺いました」


「初日も含めれば一応二度目だったんですけどね?」


「その方たちのお話では、確かに遠距離攻撃可能なスキルを使用して、ユウギリさんが一人でキューブを討伐されたとのことでした。

 もっとも、その時にどのようなスキルが使われたのか?などの詳細な情報は全員に黙秘されましたので一切聞けませんでしたが……」


 あー……別に口止めとかはしてなかったんだけど、みんな、気を聞かせて黙っててくれたんだろう。

 

「そして女性の方に質問したユウギリさんとどの様な関係なのかという質問にも答えてもらえませんでした」


「どうして絶対に迷宮事務所とは関係のなさそうな情報まで集めようとしたのかな?」


「そう、そんな、初級探索者にも満たない学生さんが『強力なスキルを所持』していて、なおかつ使いこなせているというのが……おかしなことの二つ……いえ、これは三つ目でしたね」


 いや、まったく使いこなせてはいなかったんだけどね?スキルを使ったのもただの行き当たりばったりだし。

 あと、不必要な個人情報を集めようとしていた事に関しては無視ですかそうですか。


「えっと、それが二つ目ではなく三つ目なのはどうしてです?」


「そうですね、あなたの回りにまとわりつく羽ムs……メスネk……異性のご友人が少し気になりましたので、何かおかしなことは無いかとさらに調べたのですよ」


 ……『ハム』とか『メスネ』って一体何なんだろうか?


「そうしたらですね、ユウギリさんが彼女たちと迷宮に潜る前の週に、彼女たちがレンタルしていた防具がかなり傷ついた状態で返却されていました。

 でも、防具にそれだけの損傷があったにも関わらず、彼女たち全員……何の怪我もしてはいなかったみたいなんですね」


「それは……何というか幸運なことですね」


「くすっ、そうですね。私にとってはこちらが……二つ目のおかしなことだったんです。

 そして最後、四つめのおかしなことは『ドワーフ鋼』です」


「アレって、やっぱりおかしいです?」


「当然です。だって、ユウギリさんはブルースライムしか狩っていない、そしてブルースライムのドロップアイテムにナイフなんてありませんから」


「まぁ特に隠していた事でもありませんけど……思ったよりも詳しく自分のことを調べられていたみたいでビックリしました」


「あら、だって……交際する殿方の釣書(つりしょ・履歴書みたいなもの)は必要ではないですか?」


 特にお見合いも交際もしてないんだけどね?

 ……いや、もしかしなくとも、俺がローションの大量納品を始めた四月当初から何かしら調べられてたんだろうな。

 取っ付きやすいようにちょっと抜けた様な風を装ってるけど、迷宮事務所なんていう大組織の支部長に抜擢されるような女性だからさ。

 まぁ、そんな出来る人だからこそ頼りになるし、こうして今後のことの相談をしようと思ったんだけどな。

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