第022話 【☆いろいろと拗らせちゃってるお姉さん その2】

 職場ではあるけれども彼と二人きりの空間。

 ……おじゃま虫が一人いるけれでも大丈夫、彼も特に気にしていないようだから。

 このまま、いつまでもこうして彼と他愛のないお話を続けていたいけれど……私は社会人、それも責任ある立場の人間。


 くっ、おじゃま虫……増田さんさえ居なければ三時間くらいこのままでも良かったのだけど。

 私と会うために精一杯の理由を探して来てくれたユウギリさん。

 彼が一生懸命に考えて用意した、鞄から取り出した品物は、何処にでもありそうな一本のナイフだった。

 ……特に胡散臭い要素なんてどこにもないのだけれど? 


「えっとですね、このナイフのことなんですけど。

 一応昨日の夜にパソコンで色々と検索してみたんですけど、それの『素材』について何処にも載ってなかったので持ってきてみました。

 綾香さんは『ドワーフ鋼』って聞いたことあります?」


 はい?ドワーフ鋼?ナニソレ?

 これまでにダンジョンで発見された金属の代表といえば、


『斑鉄(まだらてつ・通称ダンジョン・ダマスカス)』

『聖銀(せいぎん・通称ミスリル)』

『魔金(まきん・通称ヒヒイロカネ)』


 そこに、おそらくは中国で発見されたものの、現地では加工する事が出来ず、しかし他国に利用されないために秘匿されている……と、言われている『超硬鉄(ちょうこうてつ・通称アダマンタイト)』の四種類。

 もしも、彼が言う『ドワーフ鋼』と言うのが本物だとしたら、他国に後塵を拝する日本迷宮事務所初の快挙となりうる新素材。

 でも、本当にそんな凄いものが、この育成ダンジョンで、都合よく発見されるなんて有り得るのかしら?

 まさか彼が、恋する私に会いたいがためだけに口からでまかせなど言うとは思わないけれど……もしかしたら何かの勘違いということもあるものね? 


 彼に許可をもらい、ナイフを手に取り鞘から引き抜く私。

 見た目はやっぱり、どこからどうみてもただのナイフなのだけど……いえ、普通の鋼よりも黒光りしているかもしれないわね?

 とりあえず、私では何もわからないということが確認できたわ!彼の、おそらくは呆れ顔だと思われる表情に、最初から鑑定人を呼べば良かったと少しだけ後悔する。

 迷宮事務所職員でも所持者はそれほど多くない、『簡易鑑定』のスキルを持った山田さんに会議室まで来てもらい、ナイフを鑑定してもらった結果は、


「……確認出来ました。こちら、確かに『ドワーフ鋼のナイフ』となっております。

 アイテム鑑定書の発行はいかが致しましょうか?」


 確かに『ドワーフ鋼のナイフ』となっております……

 確かに『ドワーフ鋼のナイフ』となっております……

 確かに『ドワーフ鋼のナイフ』となっております……


 私の中で、そんな山田さんの声がリフレインする……。

 本当に新しい金属なの!?

 完全に世紀の大発見じゃない!!


「そう……ご苦労さま。もちろん鑑定書も用意しておいてください」


 山田さんにねぎらいの言葉をかけながらも私の心臓はドキドキと高鳴る。


「ユウギリさん、おめでとうございます……でいいのかしら?お聞きになられたと思いますが結果は間違いなくドワーフ鋼と鑑定されました」


 これを持ち込んでくれたユウギリさんに、確かにこれがドワーフ鋼と呼ばれるものであったことのお祝いを述べる私。

 まさか、嫌がらせのように配属されたダンジョンでこのようなモノを発見できるなんてっ!

 私に女としての幸せだけではなく、勤め人としての幸運をもたらしてくれそうな彼との出会いに心からの感謝を!と、安心して喜んでもいられないのよね。


「……と、言いましてもドワーフ鋼がどういった性質の金属かと言うのが今のところまったくの不明でして」


 だって彼が持ち込んだのは『未発見の金属』。


「確かに、ネット上ではまだ情報の無い金属みたいですからね。

 迷宮事務所のデータベースにも載ってない感じです?」


「はい。ですので適正な価格を算出すことが出来ず」


 そう、誰も知らない金属。どのような使い道があるのか解らないアイテム。

 ソレに価値があるか解らない限りは値段の付けようの無い品物なのだ。


「了解しました!ではこのまま持ち帰り」


 えっ!?それを持って帰るなんてとんでもない!!


「……」「……」


 ドワーフ鋼のナイフを手に取り、鞄にしまおうとした彼と、その手首を思わず掴んでしまった私。

 もう!私のこれまでのあれやこれやを気遣って持ち込んでくれたくせにっ!意地悪な人なんだからっ!

 ……もしかして、これが『焦らしプレイ』というものなのかしら?


 可愛らしい学生のユウギリさんも悪くないけれど、こうして好きな女の子に意地悪する、少しサディスティックでバイオレンスな彼も悪くないわね!

 そんな彼の気持ちを察するように、彼の手首を掴んでいた手を彼の手の甲に移動させ、そっと握る私。


「……よろしければ、このあと二人でお食事……なんていかがでしょう?

 お時間があればそのあと、ゆっくりと、誰にも邪魔されない場所で、二人きりでお話したいのですけど……だめ……ですか?」


 これまで誰にもしたことのない様な、少し殿方に媚びるような上目遣いで彼にそう尋ねる私。

 ……増田さん、貴女今ボソッと『BBA無理すんな……』とか言わなかったかしら?

 自分から男性を誘うのなんてもちろん初めてのこと、不安と緊張で心拍数が跳ね上がった私のお願いに答えた彼の返事は、


「もちろんです美しい人!……あ、でも俺って今集団行動中でして。

 集合時間になれば、学園に帰るバスに乗らないといけないんですよね。

 そう、俺なんて売られてゆく子羊のような自由の無い、何も出来ない歯車のような存在なんですよ……」


「そんな……こうして求め合う二人を引き裂くなんて……。

 もしかしてそれはあの小柄な担任教師のせいなのですか?

 それとも同級生の黒髪女?はたまた金髪女?無いとは思いますがショートカット女ということも?まさか……ユウギリさんは大きな脂肪の塊に騙されてたりはしないですよね?」


「いきなり俺の回りの女子に関して詳しいなこの人!?」


「ふふっ、もちろん!あなたに会えなかったこの二日間、登録されているデータだけでなく、人も使って色々と調べましたもの……」


 そう、それはこれから始まる二人の恋のため。

 決してストーカー行為とか、その様なモノではないのですからね!


―・―・―・―・―


Q:お前の作品って熟じ……お姉さん系のヒロイン回だけやたらと力が入ってるくね?もしかして……○○専なの?


A:パトレイバーなら南○隊長、ガンダムならシー○様、女性声優さんなら小清○亜美押しの作者が○○専の訳がないだろ!

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