第020話 【まさに鍛冶屋のおっさん!てか、ドワーフ鋼って何ぞ?】

 画面をいくらタップしても注文画面(?)から一向に進むこともなく、半ば諦めかけていた俺。


「いや、マジどうすればいいんだよこれ……」


『ん?特に好みが無いようなら剣なら剣、槍なら槍と言ってくれりゃあ無難な品物に仕上げてやるぞ?』


「まさかの音声入力だった!?」


 まぁ出力は相変わらず文字表示なんだけどさ。


「えっと、なら標準的なショートソード……いや、グラディウスで!」


『グラディウス……ふむ、刃渡り五十ほどの幅広のショートソードだな!

 そうだな、こいつなら値段は……魔石1500ってところか。

 素材の持ち込みもねぇみてぇだし一般的なドワーフ鋼を使うけど構わねぇな?』


 魔石1500個……売り換算でも三十萬円か。うん、高いのか安いのかまったくわからねぇ……。

 あと、ドワーフ鉱ってどんな金属なんだよ!

 これまで一度も聞いたことも無いのに、一般的ってどういうことだよ!


「えっと、すいません。あまり金属に詳しくないもので……ドワーフ鋼ってなんですかね?」


『ははっ!分からねぇことをちゃんと聞けるたぁ偉いぞ坊主!

 ドワーフ鋼とは……ドワーフ秘伝の配合で作られた鋼(はがね)のことだな!』


 いきなりの上から目線……。てかそのまんまか!

 でも何となく、名前に『ドワーフ』って入ってるだけで強そうに聞こえるな!


「ありがとうございます。えっと、すいませんけど今、持ち合わせがちょっと心もとなくてですね……。

 ちなみにドワーフ鋼の、刃渡り二十センチくらいのナイフっておいくらくらいになりますかね?」


『ナイフ?ああ、もしかして魔物の解体用か?

 そいつなら……魔石500ってところだ』


 ナイフ一本十萬円か……多少買うのをためらう額だな。

 でも、ドワーフ鋼って言うのが、どういうモノなのか、少なくとも地球の鋼とは違うのかどうかの確認はしておきたいしなぁ。

 まぁお財布の中身が484個しか無いから何にしても買えないんだけどさ。


「わかりました。手持ちがちょっと寂しいので、近いうちに発注させていただこうと思います。

 今日は説明だけしてもらうような形になってしまい……申し訳ありませんでした」


『ははっ!若ぇのに細かいことを気にするやつだな!

 装備ってのは自分の命を預けるモンだからな!

 納得がいくまでじっくりと選びゃあいいのさ!

 おう!金が入ったら遠慮なくまた来いよ!』


 ……普通の商品リストに戻った。

 てかドヴォ・ルザーク親方、取っ付きやすい人だったな!

 いや、ドワーフ鋼なんて使ってるんだから人じゃなくドワーフなのかも?

 そもそも『人じゃなく字じゃん!』ってツッコまれそうだけど……。



 さて、武器や防具などの装備品の購入も可能となり、これからは今まで以上に魔石の重要性が高まった『異世界商人』の俺。

 当然の様に翌日と翌々日――金曜と土曜はいつも通りのスライム退治で稼ぎまくることに。まぁどんなに頑張っても一日に六百匹くらいが限界なんだけどさ。

 それでも二日間で魔石が1200個だからね?今までの三日分を二日で稼げたので十分である。


 あ、そうそう、この間のアシッド・キューブ!

 あいつ、レアなだけあって経験値も多かったみたいで、レベルが5から7に上がってた!

 ……だから何だと言われても困るんだけどな。

 ちなみにジョブ経験値のほうはスライムと同じで『1匹分』しか増えなかった……。


「ユウちゃん、相変わらずのスライム・ローションの納品数ですね……」


「無理に名前で呼ばなくてもいいですからね?

 てか、木曜日はあまり稼げませんでしたから、その分を取り戻せるようにいっぱい頑張りました!

 と言いますか、何か怒ってるというか、拗ねてます?」


「むしろ収入は多かったと思うんですけど……。

 別に?私は焼肉に誘ってもらえなかったとか?そんな小さなことで拗ねたりしてませんけどね?」


 どうやら拗ねているらしい。


「JOJO園美味しかったです」


「まさかの高級店じゃないですか!?

 酷い……出会った時からこんなに尽くしてるのに……。

 やっぱり、若い女のほうが……いえ、支部長でも行けそうですし、もしかしたらアナがあったら何でもいいんですか?」


「公衆の面前で人聞きの悪い一人コント止めろや!

 まぁそんなことよりですね」


「自分で話を振ってきたのに『そんなこと』の一言で流さないでください!」


「まぁまぁ。ちょっと六条さんにお話したいことが出来たんですけど……取り次ぎとかしてもらえないかなぁーなんて?」


「さすがに彼女を他の女へのメッセンジャー扱いとか、俺様キャラが過ぎてドン引きなんですけど……。

 ええと、もしかしてもしかするとまた例のアレに遭遇したとかそういうお話ですか?」


「誰が彼女なんですか……。

 いえ、ちょっと変わったモノが手に入りましてですね。

 もしも値打ちのあるモノだったらいいなーと思いまして」


「このダンジョンで変わり者として名を馳せている、ユウちゃんが認定する『変わったモノ』とかちょっと怖いんですけど……」


 えっ?俺って事務所の人達からは変わり者扱いされてるの!?

 まぁ否定できる要素は無いんだけれどもっ!

 ダンジョン二日目からソロでふらふらしてるヤツだもんね?


 六条さんも今日は(今日も?)急を要するお仕事は無かったらしく、前回と同じ第二会議室に通される俺。

 てか、自分で取り次いでくれとか言っておきながらなんだけどさ、六条さんって言うなればこの迷宮の支部長、つまりギルドマスターみたいな人なんだよね?

 よくわからない新人学生の戯言に付き合ってるほどは暇でもないと思うんだけどなぁ。


「ユウギリさん、お待たせいたしました。

 昨日の今日でまたまた面白いお話があるとのことですが」


「今日も今日とて綾香さんはお美しい……ではなくて。

 はい!出どころ不明の胡散臭い品物になるんですけど!」


「それはそんな楽しそうに報告する内容では無いと思うのですが……」


 一昨日とは色の違うパンツスーツ姿で机を挟んでジト目で腰を下ろす六条さん。

 その前、机の上に昨晩交換?購入?しておいたドワーフ鋼のナイフをそっと置く。


「ええと、これはナイフ……ですよね?」


「はい、ワイフでなくナイフです」


「何なんですかその英語の教科書のやり取りみたいなオヤジギャグ」


 ジト目からの困惑顔コンボ頂きました!あと受付の人、うるさい。

 いや、俺だって『良いもの見せてやる!ポロン』って感じでただのナイフが出てきたらそうなるだろうけどさ。


「えっとですね、このナイフのことなんですけど。

 一応昨日の夜にパソコンで色々と検索してみたんですけど、それの『素材』について何処にも載ってなかったので持ってきてみました。

 綾香さんは『ドワーフ鋼』って聞いたことあります?」


「ドワーフ鋼……ですか?

 そう……ですね、私はこれまでに一度も耳にしたことの無い金属ですね。

 つまり、このナイフはそのドワーフ鋼で出来ていると、未知の金属だとおっしゃるのですか?

 手にとって見せていただいてもよろしいでしょうか?」


「もちろん!そのために持ってきましたので」


 またまた表情が変化する六条さん。

 予想以上に仕事熱心というか、向上心のある人なのかもしれないな。

 ナイフを手に取り、革製の鞘から抜き放ち何一つ見逃すまいと目を見開くと、


「……真剣な目で見たからと言ってこれと言って何もわからないですね?」


「まぁそうでしょうね?」


「わからないんだ!?そしてそれで納得しちゃうんだ!?

 えっ?なにこれ、コント?」


「受付の人のツッコミで我に返って恥ずかしかったのか、耳まで赤くする綾香さん可愛い」


「もう……意地悪なことを言わないでください……」


「いきなりいちゃつきだしただと!?」


 『少々お待ちを』と言って、端末でどこへやら連絡を入れる六条さん。

 しばらくして部屋に現れたのはかなり地味なおば……お姉さん。

 六条さんの説明の後、左手でナイフを握り、何やらゴニョゴニョと唱え始める。


「もしかして鑑定系のスキルとかです?」


「あら、よくおわかりになりましたね?」


「よくも何も他の選択肢がないじゃないですか……」


「ふふっ、確かに」


「……確認出来ました。こちら、確かに『ドワーフ鋼のナイフ』となっております。

 アイテム鑑定書の発行はいかが致しましょうか?」


「そう……ご苦労さま。もちろん鑑定書も用意しておいてください。

 ユウギリさん、おめでとうございます……でいいのかしら?お聞きになられたと思いますが結果は間違いなくドワーフ鋼と鑑定されました。

 ……と、言いましてもドワーフ鋼がどういった性質の金属かと言うのが今のところまったくの不明でして」


「確かに、ネット上ではまだ情報の無い金属みたいですからね。

 迷宮事務所のデータベースにも載ってない感じです?」


「はい。ですので今のところ適正な価格を算出すことが出来ず」


「了解しました!ではこのまま持ち帰り」


 ナイフを握り、しまおうとした俺の手を六条さんの手が『ガッ』と掴む。


「……」「……」


 お互いに顔を見つめ合い、いい笑顔で微笑み合う俺たちだった。

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