第019話 【いざゆかん!露店から行商人へ!】

 大きめの魔石(四型魔石と言うらしい)の売却により、これまでの、一日の稼ぎを大幅な更新――五百萬円超えの収入を手に入れた俺。

 もうこれちょっとした社会人の年収だよな?

 もちろん……その場で税金として三割、百五十萬円を引かれたから、手とりとしては三百五十萬円ちょいなんだけどさ。


 わかってはいても、目の前でデカい目減りがあると言いようもない不満と怒りが……。

 いや、税金はお国のためだから!納税は国民の義務だもんな!……ちくしょう!

 六条さんは残念ながらその後もお仕事があるらしく……とても残念ながらその後の食事会には不参加だが、俺たちは学園に帰宅後、今日一緒に探索したメンバー全員で約束通り焼肉(超高級店)に繰り出すことになった。


「いや、ドレスコードとかはないだろうけどさ。学制服姿の集団が一人単価ウン万円もするような焼肉屋とか入れるものなのか?」


「別に問題は無いと思うよ?特にうちは『迷宮科』なんていう、他の学生と比べれば圧倒的にお金を持ってる学生だし」


「ああ、確かにそれもそうか」


 ちょっとだけ心配したけど、何の問題もなくニコニコ笑顔の店員さんに六人掛けのテーブルまで案内された。


「あんた……冗談で言っただけなのにどうして本当にJOJO園なんて連れてくるのよ!バカじゃないの!?」


「確かに、同級生にデートで気軽に奢ってもらうようなお店じゃないわよね……」


「た、多分だけどそれなりにお安いセットとかもあるんじゃないかな?……あればいいな?」


「ナニコレ……高い……怖い……」


 席に着いただけで冷や汗でも流してそうな、小市民なクラスメイトたちと、


「コースは好き嫌いがあるかもしれませんのでアラカルトから選ぶ方が良いですよ?」


 と、マイペースな雰囲気の安倍さん。……もしかしてこの子ってお嬢様なのかな?

 うん?他人のことより自分はどうなのかって?

 俺はほら、異世界ではお城で飯食ったこともあるからな!偉い人が居るわけでもなし、たかだかただ値段が高いだけの店で緊張なんてしないさ。

 そう、この世の中、金さえ持ってれば特に萎縮する必要なんて何もないのだ!

(ただしドレスコードの無いお店に限る)


「面倒だから最初は適当に、まとめて俺が注文しちゃうけど大丈夫だよな?

 えっと、とりあえずは無難に上ネギタン塩、上カルビ、上ロース、上ヒレ……それにごはんを人数分ってところか。

 他はおいおいと追加するってことでオッケー?」


「自然な感じで、全部名前に『上』が付いてるお肉を注文するとかちょっと怖いんだけど!?

 とりあえずさ、お肉を食べる前にサラダとかスープでお腹を膨らませておこうよ?」


「どうして焼肉屋に来てるのに『最初に大量のたこ焼きと唐揚げが出てくる食べ放題の店』みたいな食い方しないといけないんだよ!

 てか、わざわざ肉屋でサラダとか頼むなよ!女子か!」


「そうだよ!君以外は全員女子なんだよ!」


「いや、お前は男だろうが……」


 注文さえしてしまえば、後は並べられた皿が空になるまで食うだけ。

 『ダンジョンアタック』なんていう肉体労働をしてる学生の食欲に、男女の違いなどあろうはずもなく。

 最初は遠慮していた静たんやティアラちゃんも追加注文上等!の、デザートまで綺麗に平らげたのであった。


「一食でうちのお父さんの月収くらいの金額になるとか意味わかんないんだけど……。

 とりあえずごちそうさまでした……今度何かでお返しする……。

 あっ!これからティアラと三人でなんてどう?」


「ふっ、食後の運動……サイコ○ズもたまには良いことを言う……」


「隣の席の人がまさかの殊勝な態度!?かと思いきやブレねぇなこいつ……。

 あとティアラちゃんも無理に話に乗らなくていいからね?

 まぁあれだ、今日売った魔石だけで十回以上はさっきの肉屋に通える収入だったから気にすんな!」


「えっ?アレってそんなに高く売れたんだ!?

 なら少しは安心……でもないね。

 うん、今度また家で何かごちそうするよ!」


 お店から出て我に返ったのか、申し訳無さそうにごちそうさまする面々。

 ちなみにお肉のお味は……いつも行く店とそれほどの違いは無かった。

 そもそも一定の値段を超えたら、肉の味なんてそんなに変わらなからなぁ……そう!大事なのはタレの味なのである!


 まぁそんな、肉の話はどうでもいいとしてだな!

 JOJO園の前で、トオルたちと解散して自宅に帰宅後。

 自転車にまたがり、一人で街を彷徨っている俺がいる。

 食い気の後は色気!お姉さんのいる、エロティックな雰囲気の夜のお店を探してる……とかじゃないからね?年齢的な問題で日本では補導されちゃうからさ。


 なら一体何をしているのかと言えば、


「えっと、一型の魔石って棚に並んでるだけしかないんですかね?

 もしも在庫があるならそれも含めて全部欲しいんですけど!」


「えっ?あっ、はい、すぐに確認してまいります!」


 近所のスーパーやコンビニを回って、魔石の買い占めをしていたりする。

 ほら、最近はスライムを倒しても手に入れた魔石は全部、下級ジョブのスクロールの購入に回してるじゃん?

 だからってわけでもないけど、あぶく銭も手に入ったことだし、これ幸いと『異世界商店』のランクアップ用の魔石を大人買いしちゃおうと思ったんだよ。


 本当ならダンジョンの隣で営業してる迷宮事務所でまとめ買いすれば手っ取り早いんだけど……誰が買ったか即足がつくじゃないですか?

 それでなくともまったく魔石を納品してない上に、ただの学生が魔石を大量に買い集めるとか、一体何に使ってるんだと悪目立ちすること待ったなし!だからね?

 今日知り合ったばかりだけど、六条さんとの関係が良い方向で構築出来れば、こっそりとお願いすることも出来るかもしれないけど……今のところはまだ、余計な事を知られたくないし。

 うん、もう少し信頼出来るだけの何か……いや、お互いに(良い意味でも悪い意味でも)依存し合うような関係に慣れればベストなんだけどな。


 てなわけで、自転車に乗って、近くのお店を回って買い漁った極小魔石の数、おおよそ三千三百個。

 前にも少し触れた通り、極小魔石の売値は二百円だけど、買い値は四百円なので使ったお金は百三十二萬円なり。

 迷宮で稼ぐために、迷宮での稼ぎを食いつぶしてしまうとは笑止千万!潔く腹を切れっ!ふっ、上様がこの様な場所に……何の話だ一体。

 まぁ使えば使っただけ、目に見えて自分が成長できるんだから何の問題も無いんだけどな!異世界で思うように成長出来なかった反動でナチュラルハイな俺である。


 帰宅後、さっそく異世界商店を開き、久々のランクアップ作業に入ることに。


「『プレ・オープン!:露店2・魔石 0112/1000』に、魔石を888個ベットしてターン終了(エンド)!」


 ……自分でやっておいて何だけど、そこそこ以上に面倒くさいヤツのノリしてるぞ俺。


「んんっ、気を取り直して……やっと『プレ・オープン!』の表示が取れたし、今まで『露店』だったのが『行商人』になったな。

 それに伴い、次のランクアップに必要な魔石の量も『0000/2000』になったけど。

 てか、露店と行商人だと露店のほうが店を持ってるだけ強そうな気がするんだけど……どうなんだこれ?」


 イマイチ成長した気がしないんだけど……大丈夫だよね?ちゃんと商品とか増えてるよね?

 先に一度、新入荷した商品の確認をしたいという気持ちを抑え、さらに2000個の魔石をつぎ込む俺。

 『行商人1』からの成長先はもちろん、


「まぁそうだよな、『行商人2』になっちゃうよな」


 てか、トップページ――買い物画面に移動前の納品ページに『お財布』って項目が増えてるんだけど……ああ、なるほど。

 これはでは『クラスアップのための納品』と『商品購入のために入れていく』かで、一度入れてしまえば変更が出来なかった魔石の嫁ぎ先だったけど、『お財布』に入れておくことで好きなように使える様になったのか。


 ……それってもう、ちょっとしたインベントリじゃね?

 もしかしたらさらにランクを上げれば……と、思わなくもないけど先のことを気にしても仕方がないので、余ってる魔石(484個)を『お財布』にしまっておくだけにしておく。


 さて、いよいよ新商品の確認だな!

 2ランクも商店の規模をあげたんだからそれはもう……素晴らしい商品が並んでいると思いたい!

 お財布が増えたことにより、少しだけUIの変わった異世界商店から商品画面を開く俺。


「……おっ、おう?えっと……何だこれ?」


 見た感じだと商品リストはまったく増えてない、増えてないんだけどさ。

 画面の上の方に『オーダー:ドヴォ・ルザーク親方』ってボタンらしきものが表示されてるんだよね……。

 まぁ考えてても仕方ないし?ノータイムで押すんだけどな!


『おう!よくきたな!何か欲しいものはあるのか?』

  :武器が欲しい!

  :防具が欲しい!


 なんかいきなり話しかけてきたんだけど!?

 いや、文字が表示されてるだけだから話しかけてきたって表現はおかしいか。

 もちろん続けて『武器が欲しい!』をタップする俺。


『なふほど、武器か!どんなエモノが欲しいのか詳しく説明しな!』


 ……えっと、何の選択肢も出ないんだけど?

 これ、ここからどうすればいいの?

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