第018話 【一人前で五十萬だとっ!?】

 二人での相談が終わったのか、こちらに戻ってきた受付の人と六条さん。


「お待たせしました真紅璃さん。

 なにぶん私がこちらに異動してきてから、初めての緊急事態となり得る事柄でしたので……。

 少々取り乱してしまい、申し訳ありませんでした」


「いえいえ、お気になさらず。どんな綾香さんでもチャーミングですから!

 と言いますか、キューブなんて言ってもデカいだけのスライムでしたけど……。

 それが現れたというのは、それほどの大事だったんですかね?

 あと、よろしければ俺のことはお気軽にユウギリと名前で呼んでください」


「わかりました!

 これからはお名前で呼ばせて」


「いえ、受付の人は今まで通り学生さんでいいです。

 むしろ空気を読んで部屋から出ていってください」


「食い気味に否定された挙げ句に追い出そうとされた!?

 もう!私はユウちゃんの終身担当受付嬢なんだからねっ!」


「増田さん、組合にそのような、夜のお店みたいな永久指名システムはありません」


「受付の人を叱る綾香さん……その姿のなんとクールビューティなことか……」


「特に褒めるようなところは無いと思うけどなぁ……。

 大丈夫?もしかしてユウちゃん、呪いのアイテムとか装備してない?

 それとも何らかのステイタス異常とか起こしてない?

 このままだと支部長が座っておならしてても褒めそうな雰囲気だけど……」


「増田さん、私はそのようなことはいたしません!

 というよりも、このままではお話が進みませんので本題に移らせて頂きますが、真紅……ユウギリさんはここ、桜木ダンジョンの二階層に現れた『希少種三類』に分類されている、アシッド・キューブを討伐された……ここまでは間違いございませんでしょうか?」


「そこまで念を押されるとちょっと自信がなくなりますが……そういうお話で間違いないです」


「了解いたしました。組合にご協力、ご報告に感謝いたします!

 ……と言いたいところなのですが、もしもそのご報告が誤報、または討伐されたと言うのが勘違いであった場合、こちらのダンジョンのメイン層でもある県内の学生さん達にとってはかなり荷が重い魔物ですのでありまして」


「あー確かに、友人も切った張った……じゃなくて、斬った突いたのインファイトは危険が危ないから絶対にするなと言ってましたね」


「はい、そのお友達の判断はとても正しいです。

 いえ、でも、それでしたら……このようなことを探索者の方に聞くのはマナー違反だとは重々承知しているのですが、ユウギリさんはどうやってキューブを討伐されたのでしょうか?」


「そうですね、まだ二人の仲がそれほど進展していませんので詳しくは秘密ですが、遠距離からのスキル攻撃で退治しました」


「新人の学生さんなのに既にスキルをお持ちなのですか!?

 なるほど、わかりました。

 不躾な質問にお答え頂きありがとうございます。

 それで、さらに失礼を重ねるようで大変心苦しいのですが……キューブを討伐したと証明できるような物的証拠、ドロップアイテムなどはございましたでしょうか?」


「ああ、一応ありますけど……」


「あったのですか!?」


「でも、これって証拠になるんですかね?」


 だって拾ったのってただの大きな魔石だからね?

 普通のものとは色合いが違うから……たぶん何らかの属性、青系だからおそらくは『水属性』の付いた魔石だと思うんだけどさ。

 どうしてだかわからないけど、ワクワク顔の六条さんの目の前にゴロンと魔石を取り出すも、


「……魔石……ですね」


「そうですね、魔石ですね」


「えっと、他には……何も無かったでしょうか?

 例えば『赤い月のような色合いに輝く金属塊』などは……」


「いえ、ソレしか無かったんですけど……。

 なんかすいません、ご期待に添えなかったみたいで。

 魔石だけだと証明にはならないですかね?」


 ワクワク顔からむっちゃ落胆されたんでついつい謝っちゃったけど、俺、別に何も悪くないよね?


「いえいえ!こちらこと申し訳ありません!

 その大きさの、それも水属性の魔石がドロップするのは間違いなく二十階層級の階層主、それとも五十階層以降の魔物、または希少種(レアエネミー)で間違い有りませんので!

 お恥ずかしながらアシッド・キューブなんていう世界でも年間にそれほど退治されていない『希少種(レアエネミー)』と言うこともあり、もしかしたら希少な拾得物(レアドロップ)もあったのかな?と、少しだけ期待してしまいまして……」


「なるほど……。

 ちなみにその赤い金属?というのは綾香さんがちょっと取り乱してしまうほどの価値が有るモノなんですかね?」


「そうですね、グラム換算の組合での買い値で……五十萬円は堅いですね」


「グラム……つまり一人前で五十萬円ってことですか!?」


「どうしていきなり『焼肉算』になるんですか……。

 一人前、百グラムのお値段ではなく、一グラムで五十萬円です」


「ちょっと今から第二層を駆けずり回ってきますね?」


「落ち着いてください、相手は希少種ですので。

 何らかの条件を達成しない限り、普通はダンジョンの二階層どころか五十階層、百階層であろうとも発見出来るような魔物ではありませんから」


「なるほど……確かに帰り道でいきなり待ち伏せされるように現れましたもんね。

 もしかしてですけど、その『何らかの条件』って綾香さんは知ってるんですかね?」


「残念ですが、確証のないうえに機密情報ですのでお答えできません。

 ……が、ユウギリさんなら何か思い当たる事があるのではないですか?」


 機密情報なのにヒントはくれるんだ?……まぁ、もしもソレを入手出来たら迷宮事務所が転売で大儲け出来そうなお値段だもんね?六条さんの株も上がるはず。

 てか、思い当たることって言われても……ねぇ?


『俺が異世界に行ったことがあるから!』


 とかではないだろうしねぇ?それだと他の人間が達成できる条件じゃないもん。

 てか、何にしても狙ってどうこうなるモノじゃないなら気にするだけ無駄だな!


「とりあえず報告出来そうな事はこれくらいしかないんですけど……他にも何かご質問はありますかね?」


「いえ、過不足のない情報提供を頂きましたので何の問題もございません。

 改めまりまして。

 ユウギリさん、希少種の発見及び討伐のご報告に感謝いたします!

 あなたのお陰で迷宮での死傷者の発生を回避することが出来ました!」


「いえいえ、綾香さんこそお仕事お疲れ様です!

 ……ああ、この後、その魔石が高く売れたら焼肉に行くんですけど、もしよろしければ綾香さんも一緒にいかがです?」


「焼肉……それは、その後一戦を交える男女がスタミナを蓄えるために食する晩餐……」


「ええっ!?

 ゆ、ユウギリさん、さすがに私たちはまだ出会ったばかりですし……そういうのは少しだけ早急ではないでしょうか……?」


「何なの?焼肉イコールセッ○スってそこまで一般的な話なの!?

 別にそういう意味じゃないですから!他の人もいますから!あくまでもお疲れ様会ですから!

 てか、受付の人がいるからついでに聞きますけど、この魔石っておいくら位で引き取ってもらえるモノなんですかね?」


「そうですね、大きさは……おそらく四型。それに水属性も付いているみたいですし……五百萬円ってところですね」


「えっ?五百萬!?魔石ってそんなに高く売れるんだ!?」


「一型(極小)と二型(小)はお安いですけど三型以上はそれなりのお値段になりますよ?

 もっとも、うちのダンジョンでは三型ですら滅多に見かけることはありませんけどね……」


 高級焼肉店で散財が決定した瞬間である。

 下級MPポーション』との交換で、魔石150個分も使ったから少しだけ後悔してたけど、終わってみれば大儲けだったな!

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