召喚された異世界で(知らない奴が)魔神を退治したら日本に送り返された俺。向こうでは役立たずだった祝福、『異世界商人』で日本初のダンジョン攻略者になる!
第017話 【もしかしてこれが『俺、何かやっちゃいました?』ってことなのだろうか】
第017話 【もしかしてこれが『俺、何かやっちゃいました?』ってことなのだろうか】
「まぁあれだ、デカいだけで大した相手じゃなかったな!」
「アシッド・キューブって普通なら中級どころか上級探索者が入念に準備をしてから相手にする魔物らしいけどね?」
「たまたま貴方が覚えていたスキルと相性の良い相手でラッキーだったわね」
「ラッキーじゃなく……ただの力技だった」
ちなみにドロップアイテムは『直径二十センチほどの魔石』が一つだけ。
うん、デカい、デカいんだけどさ……これって異世界商店に入れたらどうなるんだろう?
もしも極小魔石と同じで一個扱いだったら、それなりに高額になりそうな売値を考えると大損しちゃいそうで、とても試してみる勇気が出ねぇ……。
「てか、これどうする?売ってからみんなで分ける?」
「さすがに何もしてないのに僕らがソレの分け前を貰おうとは思わないよ」
「そうか?……よし!なら、もしも高く売れたら俺の奢りでみんなで焼肉でも行くか!」
「焼肉……そう言えば貴方がくれたトレーナーからも焼肉の匂いがしていたわね」
「俺の記憶ではあげたんじゃなくて取り上げられた、むしろむしり取られたと思うんだけど?」
「ふん、贅沢イコール焼肉って。小市民のあんたっぽい選択肢よね」
「隣の席の人は不参加……っと」
「な、何よ!行くに決まってるでしょ!
あれよ?私を連れて行くんだから、駅ビルに入ってるJOJO園しか認めないんだからね!」
「焼肉に行くカップル……それは肉体関係がある証拠……」
「カップルじゃなくグループで行くんだけどね?」
「私は別クラスですけど参加してもいいんでしょうか?」
「もちろん!紅一点ならぬスイカ二点だからな!」
「何なんですかそのスーパーのレジでバーコードを通した商品を読み上げるみたいな呼び方は……」
やっきにっくやっきにっく♪と、アホの小学生のような鼻歌を歌いながらダンジョンから帰還する俺たちだった。
このメンバーで、帰り道にエンカウントするような魔物(つまりスライム)に苦戦するようなことは、もちろんあろうはずも無く。
今日は売れるアイテムが少ない(狼の革とコボルトの革とスライム・ローションが少量)上にいつもと違う装備品。パタには鞘とか無いから剥き身のままだしさ。
先に着替えをしてから装備の返却、その後で買取カウンターにGO!である。
「お帰りなさい……でいいのかしら?
今日は全然納品に来てくれないからお休みなのかと思ってたわ」
「ただいまです!いや、今日は久々にグループ活動で二階層まで潜ってまして。
まぁそのおかげって言うか、いつもはスライム相手だったのが今日はキューブなんて変わり種の魔物と遭遇しましたよ」
「……えっ?」「……えっ?」
どうしたんだろう?何やらおかしな表情をする受付のお姉さん。
「……ちょっと待って?キューブ?今、キューブって言った?」
「何なんですその美少女がDTに『何でもします!』って言った時のようなテンションは……。
確かにキューブって言ったけれどもっ!
アレってもしかして、そんなに珍しい魔物だったりします?
もちろん俺も遭遇したのは今日が初めてなんですけど……。
友人が言うにはアシッド・キューブって魔物だったみたいですね」
「えっ?二階層なんて浅いところでキューブが出たってだけでも大事(おおごと)なのに、よりにもよってアシッド・キューブだったの!?
ちょっとここで待って……いえ、詳しく説明して貰う必要があるでしょうから奥の部屋に来てもらってもいいかな!?
西村さん!学生さんを第二会議室まで案内してください!
あと六条さんって、今日はまだ支部長室に居たわよね!?」
えっ?ちょっと変わった魔物を倒したからお姉さんに自慢したかっただけなのに、そんな大騒ぎになるようなことだったの?
トオルとか他のみんなも珍しいけどそこまで……みたいな雰囲気だったから、それなりに出てくる魔物だと思ってたのに。
まぁ異世界では見たこと無かったけどさ。それは俺が野外活動メインですぐにリタイアしたからじゃないの?
あちらこちらと内線で連絡を入れている受付のお姉さんを残して『西村さん(おば……お姉さん)』に連れられ奥に通される俺。
会議室って言ってたけど、それほど広い部屋ってわけじゃないんだな。
どこにでもあるような、長方形の折りたたみのパイプテーブルに設えられた、パイプ椅子に俺が腰を下ろすと『西村さん(推定四十五歳)』はそのまま部屋を出てゆく。
お茶も出てこないまま、ボーッと待つことおおよそ十分、受付のお姉さんと一緒に現れたのは、
「お待たせしました。あなたが桜木ダンジョンの二階層でアシッド・キューブを発見した真紅璃さんでよろしいかしら?」
「はい!真紅璃夕霧です!彼女どころか家族も居ない十五歳独身!
趣味はダンジョンに潜ることです!」
「法律がありますので、日本には十五歳で結婚されてる方は居ないと思いますけど……」
シニヨンにまとめた髪に黒い大きなリボン、赤縁の眼鏡の奥にはクールで澄んだ瞳、そのスタイルを強調するような、ピッチリとしたパンツスーツを着こなすお姉様。
思わず立ち上がり、ビシッと気を付けの姿勢で元気に挨拶をする俺。
「ええと……何というか、とても元気な方ですね?」
「私と話す時と態度がぜんぜん違うんだけど?」
「綺麗なお姉さん、よろしければお名前を伺っても?」
「えっ?ええ……私は六条、六条綾香(ろくじょう あやか)と申しますが」
「六条さん……その立ち姿だけでなく澄んだ声まで美しい……。
よろしければ綾香さんとお呼びしても?」
「あっ、はい、構いませんが……何なのこの子……出会い頭からグイグイくるんだけど……」
「学生さん、その人、見た目は若く見えるかもしれないけど実年齢は超えてる方のアラサ」
「増田さん、余計なことは言わなくてよろしい」
「声低っ!?し、失礼致しました!」
六条さんに、笑顔で小首をかしげながら『どうぞ掛けてください』と促されたので二度目の着席をする俺。
「さて、ご挨拶だけでいきなりの本題で大変申し訳ございませんが……何ぶん急を要する事態ですので……」
「はい!それは、ここからは若い方だけでってことですね?」
「繰り返すけどその人、見た目ほど若くは」
「増田さんっ!余計な事は言わないっ!……じゃなくてですね。
真紅璃さんが遭遇したという魔物、アシッド・キューブとの遭遇場所を詳しくお聞かせ頂きたい、むしろお疲れのところ申し訳ありませんが、これから直ぐにでも現場までご案内して頂きたいのですが。
大至急対処しておきませんと……もしも、付近にいる学生さんが何物かを知らずに攻撃してしまったら……大惨事になってしまいますから」
「あー……確かに。友人の話でも剣や槍などで攻撃してしまうと付近に強酸を撒き散らしてとんでもないことになるって言ってましたね。
でも、心配は御無用ですよ?綾香さんのために……すでに俺が退治いたしましたので!そう!貴女のためだけに!いっぱい頑張りました!」
「……えっ?」「……えっ?」
先程の受付のお姉さんの再現VTRの様にちょっと面白い顔で固まる六条さん。
「ええと……アシッド・キューブに遭遇したのですよね?」
「はい、ダンジョンからの帰り道で通路を埋めるように塞いでいた濁った液体のような魔物を退治しました!」
「その外見、間違いなくアシッド・キューブの特徴を捉えておりますが……し、少々お待ち下さいね?」
「わかりました!たとえこの身が朽ち果てようとも待っております綾香お姉さん!」
「そこまではお待たせしませんけどね?」
受付の人と二人で部屋の隅まで移動して、小声でなにやら話し始める六条さんだった。
【☆内緒の話はヒソヒソ話】
(増田さん、あの子は一体何を言っているのかしら?
アシッド・キューブを倒したですって?
報告ではこの春からダンジョンに潜りだしただけの、ただの新入生の学生さんだと聞いているのだけど?)
(はい、それで間違い有りません。
でも、『ただの学生さん』と言う情報は正しくないですよ?
だって、これまでずっと一人でダンジョンに潜り、スライムを何千匹も倒している学生さんですから)
(それが本当だとしたら、彼はちょっとしたノイローゼではないのかしら……。
というより常識的に考えなさい。
数ヶ月で、たった一人で何千匹ものスライムを倒せるはずなんてないじゃないの……。
なるほど、つまり彼には虚言癖が有ると言うことね?)
(いえ、納品されているスライム・ローションの数を考えると間違いなく数千……もしくは、一万匹以上のスライムを倒してると思われますが)
(一万……ちょっと意味がわからないのだけど……。
いえ、もしもそれが本当の話ならダンジョンの二階層という浅い層でアシッド・キューブなんてレアな魔物に遭遇した辻褄は合う……のかしら?)
(えっと、それは一体どういうことでしょうか?)
(世界のキューブ系モンスターと遭遇した探索者の履歴に、『それまでスライムを大量に倒していた』って報告があったのを少し前に読んだことが有るのよ。
……いえ、それでも『キューブと遭遇した』という説明にはなっても、『キューブを倒した』ことの証明にはならないわね)
(あー……それでしたら簡単に確認できると思いますよ?
彼、先程も私の所にドロップアイテムの売却に来ましたから。
いつも魔石は売らない子なので、もしかすると何らかのレアドロップがあったのかもしれません。
それを見せてもらえば判断できるかと思いますが)
(はぁっ!?あ、アシッド・キューブのドロップアイテムですって!?
……もしもそれが本当ならとんでもない代物よ!?)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます